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パオロ・ダ・フィレンツェ、もうひとつのルネサンス。 [before 2005]

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さて、15世紀を聴いております。ルネサンスが始まる15世紀!とはいえ、15世紀になった途端、ルネサンスが始まったわけではなく... 中世音楽を総合したチコーニアは、15世紀の初頭、パドヴァで活躍し、若きデュファイがイタリアを旅していた15世紀前半、アラゴン王、アルフォンソ5世がナポリに宮廷を構えた15世紀半ばというのは、ルネサンス・ポリフォニーはまだまだ全盛という状況にはなかった。けれど、そうした状況を裏返せば、中世とルネサンスが混在する、よりヴァラエティに富む15世紀の音楽シーンが浮かび上がり...
そんな、中世からルネサンスへの過渡期、ナポリからフィレンツェへと北上して、ペドロ・メメルスドルフ率いる、マーラ・プニカによる、フィレンツェで修道院長を務め、歌手であり、作曲家であり、理論家としても名声を残した、パオロ・ダ・フィレンツェによるマドリガーレを集めた1枚、"NARCISSO SPECULANDO"(harmonia mundi FRANCE/HMC 901732)を聴く。

パオロ・ダ・フィレンツェ(ca.1355-1436)。
本名はパオロ・ディ・マルコ、"tenorista"、テノール歌手のあだ名で呼ばれることもあるよう... で、その名が示す通り、フィレンツェの生まれで、歌手で、本業はベネディクト会の修道士で、やがて修道院長にまでなった人物で、トレチェント音楽を伝えるスクアルチャルーピ写本を監修した(らしい... )ことで、音楽史に名を残す。という人物の音楽は、やはり、ルネサンス以前のスタイルによるもの。アルス・スブティリオルの装飾性と、トレチェント音楽の旋律性が絶妙にカクテルされて、独特なミステリアスさを放つ。それは、チコーニアの音楽を聴いても感じたのだけれど、中世を基盤としながらも、中世を総合し洗練させることで、新しい感覚が生まれていて、ポスト中世にして、定番のルネサンス・ポリフォニーとはまた違う、時代を超越するような、場合によっては古楽、いやクラシックというジャンルすら超越してしまうようなセンスを見出し、ただならず惹き込まれてしまう。
始まりの、「波荒き暗礁の中にて」からして、もう、異空間に連れ去られるかのよう!アルス・スブティリオル流のクラクラするようなメリスマに飾られた3声の歌声が悩ましげに綾なし、その後ろでトランペットが霧笛のように鳴り響く。このミステリアスさは、ちょっと形容し難い。間違いなく中世を感じさせる音楽ではあるのだけれど、耳を捉える独特の節回し、放たれるサウンドのヴィヴィットさは、ジャンルの垣根をも飛び越えてしまうようであり、ニュー・エイジ?アヴァン・ポップ?ルネサンス・ポリフォニー以前であることを忘れさせる、不思議な新しさで以って迫って来る!かと思えば、「愛よ、教えてくれ」(track.3)の、何とも言えないノリの良さ!メメルスドルフの軽やかなリコーダーに導かれて、リズミカルに、ホモフォニック(ポリフォニックな部分ももちろんある... )に歌われるマドリガーレは、一世紀半先にあるはずのモンテヴェルディのマドリガーレが古臭く感じられてしまうほど... 続く、「レーナ、貞節にして」(track.4)の、しっとりとした旋律美は、初期バロックのオペラを完全に先取りしていて驚かされる。そして、マドリガーレを飾る印象的なメリスマの数々... 「もはや不幸では」(track.6)の、メロディの随所で、盛り上がりに散りばめられるメリスマは、コロラトゥーラを予感させ... そんなメリスマの数々を聴けば、オペラ誕生の頃のアリアには、アルス・スブティリオルの遠い記憶が籠められているように感じられるかもしれない。
という、パオロ・ダ・フィレンツェによるマドリガーレを聴かせてくれた、メメルスドルフ+マーラ・プニカ... まず、何と言っても4人の歌手(ソプラノが2人に、カウンターテナーとテノール... )たちの存在感が際立っている。アルス・スブティリオルの流れを汲む複雑なスコアを、物ともせず歌い切る力量。そして、彼らの歌声の透明感。その美しさは圧倒的で、なおかつ、時折、悩ましげな表情も見せてゾクゾクさせられるようなところもり、パオロ・ダ・フィレンツェのミステリアスさをより際立たせる。で、忘れてならないのが、メメルスドルフのリコーダー!マドリガーレに挿まれた3曲のイスタンピッタ(track.5, 8, 11)は、まさに彼の独断場。軽やかに超絶技巧を繰り出して、アルバムにスパイスを効かせつつ、その演奏には息を呑むばかり。彼のリコーダーは凄い...
で、そうした水際立った歌と演奏があって浮かび上がる、パオロ・ダ・フィレンツェという個性!中世の延長線上に、独特の近代性を感じさせるその音楽は、ある種のルネサンスだったのでは?どうしても、フランドルのイメージが強いルネサンス音楽なのだけれど、そればかりでない15世紀の音楽のおもしろさに、今、改めて新鮮な驚きを覚え、魅了されずにはいられない。

NARCISSO SPECULANDO ・ Mala Punica, Pedro Memelsdorff

パオロ・ダ・フィレンツェ : マドリガーレ 「波荒き暗礁の中にて」
パオロ・ダ・フィレンツェ : マドリガーレ 「さすらう鳥は」
パオロ・ダ・フィレンツェ : マドリガーレ 「愛よ、教えておくれ」
パオロ・ダ・フィレンツェ : マドリガーレ 「レーナ、貞節にして」
イスタンピッタ 「イサベッラ」
パオロ・ダ・フィレンツェ : マドリガーレ 「もはや不幸では」
パオロ・ダ・フィレンツェ : マドリガーレ 「ビーナスは」
イスタンピッタ "Cosa non è"
パオロ・ダ・フィレンツェ : マドリガーレ 「喜べ、フィレンツェよ」
パオロ・ダ・フィレンツェ : マドリガーレ 「美しき鷹は」
イスタンピッタ "Un c'osa"

ペドロ・メメルスドルフ/マーラ・プニカ

harmonia mundi FRANCE/HMC 901732

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