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南と北の感性が綾なして、ナポリのルネサンス。 [before 2005]

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ところで、「ルネサンス」というと、まず、イタリアという印象がある。ダ・ヴィンチを始め、多くの天才を生んだイタリアは、やっぱり、「ルネサンス」の象徴的な場所だ。が、音楽における「ルネサンス」といえば、フランドルであって... このねじれって何だろう?と思うことがある。音楽は北から南へ、それ以外は南から北へ... ルネサンス音楽のベースにあるものは、長い年月、培って来た、北の中世音楽の伝統であり、一方で、ルネサンス芸術が目指したものは、中世以前の、南のギリシアやローマの古典の復興。同じ「ルネサンス」であっても、それぞれのベクトルはまったく異なる。が、おもしろいのは、復興された古典の秩序と、中世を洗練させて生まれたルネサンス・ポリフォニーが、見事に共鳴していること。これが、ルネサンス期の同時代性?ルネサンス音楽と、ルネサンス芸術の関係性そのものが、まるでルネサンス・ポリフォニーのようで、感慨深いものを感じる。
さて、デュファイを中心に、15世紀の北イタリアの音楽を聴いたので、今度は、南イタリアの音楽を... ジョルディ・サヴァール率いる、ラ・カペリャ・レイアル・デ・カタルーニャによる、モンテ・カッシーノ修道院の写本からの音楽で、やがてナポリに宮廷を構えた、アラゴン王、アルフォンソ5世の聴いた音楽を再現する2枚組、"Alfons V el Magnànim"(Alia Vox/AV 9816)を聴く。

アラゴン王、アルフォンソ5世(1396-1458)。現在のスペインが成立する以前、イベリア半島の東部にあったアラゴン王国の王(在位 : 1416-1458)で、シチリアの王でもあり、また、ナポリの女王、ジョヴァンナ2世によって、その後継者にも指名されていた... のだけれど、ジョヴァンナ2世は、もうひとり後継者を指名してしまったから大変なことになる。そのもうひとり、アンジュー公、ルネとは、ジョヴァンナ2世の没後(1435)、7年もの間、王位を巡り争い、1442年、とうとうルネをナポリから追い出すに至り、晴れてナポリ王に即位(ナポリ王としては、アルフォンソ1世)。宮廷をナポリへと移すと、ルネサンス期の君主らしく、芸術にも関心を寄せ、長い間、王位争いで疲弊していたナポリは、ルネサンス都市として、再び輝きを取り戻す。もちろん音楽もまたそうで、15世紀前半、ナポリの宮廷は、イタリア半島で最も大きいカペラ(聖歌隊+α)を擁して注目を集め、1451年にはフィレンツェ公演(外交使節の一員として... )も成功、北イタリアの宮廷に影響を与えるほどだったとのこと...
そんな、アルフォンソ5世が聴いた音楽を再現する2枚組、"Alfons V el Magnànim(アルフォンス5世、寛大王)"。まずは、教会音楽を取り上げる1枚目から... いやー、サヴァールならではの渋さが絶妙に効いていて、深く、荘重に響くその音楽に、一気に惹き込まれてしまう。そして、北イタリアのカラフルな音楽とは一味違う、独特の陰影の濃さを見せて、イベリア半島からやって来た宮廷の趣味性なのだろうか、仄暗く、センチメンタルなトーンが印象的。さらに興味深いのが、フランスの多声音楽の伝統を受け継ぐルネサンス・ポリフォニーとは一味違う、どこかトルバドゥールの伝統を感じさせる旋律重視な姿勢... 前時代のトレチェント音楽に通じるところもあるのだけれど、より遠い時代の雰囲気を漂わせてアルカイック。そうしたあたりが何とも言えず心に響く。一方で、デュファイの"Veni Sancte Spiritus"(disc.1, track.15-25)なども取り上げられ、南の渋さの中に浮かぶ、北の透明感がまたたまらなく美しく、南と北の感性が綾なして生まれる静けさと深みに圧倒されてしまう。
そして、世俗音楽を取り上げる2枚目は、飄々と始まるトッカータ"Chiave, chiave"(disc.2, track.1)に導かれ、1枚目とはまったく違うトーンを見せる... のだけれど、その後でフィゲーラスが歌うバッラータ"Meree te chiamo"(disc.2, track.2)の何とも切なげな表情は、教会音楽でも感じたイベリア半島を印象付けるもので。また、その後に続く、数々のナンバーを彩るパーカッションがエスニックで、このあたりにもイベリア半島(アルフォンソ5世の時代、イスラム系のグラナダ王国が存在していた... )を感じる。一方で、絶妙なポリフォニーで繰り広げられるフランスのシャンソン"Puisque ros me lasses seulet"(disc.2, track.7)に、トレチェント音楽を思わせる力強いメロディーが印象的なイタリア語のカーニバルの歌、"Alle stamenga"(disc.2, track.8)、ブルゴーニュ公に仕えていたエーヌ・ヴァン・ギゼゲムによるしっとりとしたシャンソン"De tous biens plaine"(disc.2, track.20)など、ナポリの多様性を垣間見せて、そうしたあたりにも魅了される。
しかし、何と言ってもサヴァールに尽きる。このマエストロが紡ぎ出す世界というのは、一体、何なのだろう!?アルフォンソ5世の宮廷を彩った音楽を再現するわけだけれど、様々なセンスとスタイルが混在するナポリの特殊性を鮮やかに響かせ、極めて興味深い音楽風景を描き出しながらも、サヴァールならではの深い世界へと集約してしまう。揺ぎ無い落ち着きが、それぞれのセンス、スタイルを物ともせず、ナチュラルに結び付けてしまう魔法... そこから生まれる大きな感動... 久々に"Alfons V el Magnànim"を聴いてみて、余計にその奥深さに感じ入ってしまった。「アルフォンソ5世」というマニアックな視点を提示しながらも、結局、音楽そのもののすばらしさに惹き込まれてしまう。感服するしかない。

ALFONS V EL MAGNÀNIM EL CANCIONERO DE MONTE CASSINO
LA CAPELLA REIAL DE CATALUNYA ・ JORDI SAVALL


宗教的音楽
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"Adoramus te"
"Ave Maris Stella"
ダミアヌス : "Ave Maris Stella"
ギヨーム・デュファイ : "Veni sancte spiritus"
"Miserere nostri"
作曲者不詳 : "Fantasia"
ギヨーム・デュファイ : マニフィカト
フアン・コルナーゴ : "Patres nostri peccaverunt"
"Cum autem venissem"
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世俗音楽
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トッカータ "Chiave, chiave"
バッラータ "Merce te chiamo"
バッロ "La fille guillemin"
ストランボット "O tempo bono"
ストランボット "Zappay"
ディスペラータ "Piangendo chiamo"
シャンソン "Puisque vos me lasses seulete"
カーニバルのカント "Alle stamenge"
バッロ "Collinetto"
バルゼレッタ "Amor tu non me gabasti"
ギヨーム・デュファイ : シャンソン "Je vos pri mon tres"
ストランボット・カッチャ "Correno multi cani"
ヨハネス・オケゲム : "Mort tu as navré"
バス・ダンス "La Spagna"
フアン・コルナーゴ : Qu'es mi vida preguntais"
カンシオン "Viva viva Rey Ferrando"
エーヌ・ヴァン・ギゼゲム : シャンソン "De tous biens plaine"
ヴィロッタ風カンツォン "Dindirindin"

ジョルディ・サヴァール/ラ・カペリャ・レイアル・デ・カタルーニャ

Alia Vox/AV 9816

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