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デュファイ、イタリアへの旅。 [before 2005]

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災厄の14世紀、音楽においては、まさに爛熟期であって、時に退廃すら漂うほどで... そうした14世紀の音楽を、さっくりと俯瞰した後、15世紀へと踏み込んでみようかなと... そう、それはルネサンスの幕開け!ヨーロッパ芸術が大きく飛躍を遂げる世紀!なのだけれど、改めて災厄の14世紀を見つめ直して考えると、中世からルネサンスへという展開は、単なる暗から明へというものでないことに気付かされる。右肩上がりで成長して来た中世が、その最後の局面で、人為的、自然的、様々な災厄に晒されて転落し、やがてカオスへと至り... そのカオスを脱するための、強力な秩序を求める行為がルネサンスだったような気がする。そして、音楽に関しては、爛熟と退廃が整理されることで、新たな奔流が生み出され、それが、15世紀、ルネサンスの始まりだったかなと...
そうした様子を捉えた1枚、イタリアの古楽アンサンブル、ラ・レヴェルディによる、ルネサンス期、最初の巨匠、デュファイと、デュファイに影響を与えただろうイタリアの作曲家たちの作品を並べたアルバム、"GUILLAUME DUFAY VOYAGE EN ITALIE"(ARCANA/A 317)を聴く。

14世紀の音楽の展開というのは、なかなかドラマティック!かつ、思いの外、ヴァラエティに富んでいて... ノートルダム楽派以来、ヨーロッパの主導的な立場にあったパリの音楽家たちが、フランス王権の失墜により、各地の宮廷へと分散し、時祷書で有名なベリー公の宮廷、『狩猟の書』の執筆者としても知られるガストン・フェビュス、フォワ伯の宮廷(ピレネー山脈北麓)、ブルゴーニュ楽派のパトロン、ブルゴーニュ公の宮廷、そして、退廃の都、アヴィニョンの教皇の宮廷などが存在感を見せた。一方で、イタリアでは、フランスの多声音楽と距離を取る、トレチェント音楽が隆盛となり、中世の全盛期、北へと集約された音楽文化が、再び南へと広がり、中世の音楽は爛熟期を迎える。そして、15世紀... ブルゴーニュ公国の一部となっていたベーアセル(ブリュッセルの近郊の街... )に、ルネサンス、最初の巨匠、ギヨーム・デュファイ(ca.1400-1474)が生まれる。
で、改めて、このデュファイの足跡を追い、如何にしてルネサンス、最初の巨匠となったかを見つめるのが"GUILLAUME DUFAY VOYAGE EN ITALIE"、ギヨーム・デュファイのイタリアへの旅。デュファイは、10歳になるかならないかで、故郷、ベーアセルから程近いカンブレー(ブルゴーニュ公国の影響下に置かれたカンブレー司教領の中心都市で、多くのブルゴーニュ楽派の作曲家たちがこの都市で教育を受けた... )の聖歌隊に参加し、早くから才能を開花させる。そして、10代半ばから、イタリアとカンブレーの間を行き来するようになり、リミニ、ペーザロの僭主、マラテスタ家のために作品を書き、教皇庁の歌手としても活躍し、サヴォイア公の宮廷にも仕え、その前半生の多くをイタリアで過ごすことに... となれば、当時のイタリアを彩ったアルス・スブティリオルやトレチェント音楽の影響も受けただろう... そうしたあたりを丁寧にすくい上げるラ・レヴェルディ...
デュファイのみならず、プレポジトゥス・ブリクシエンシス(track.2)、バルトロメオ・ダ・ボローニャ(track.3)、アントニオ・ダ・チヴィダーレ(track.8)といったイタリアの作曲家に、フランスの出身で、やがてミラノの大聖堂の楽長に就任するベルトラメ・フェラギュ(track.4)を取り上げ、14世紀の名残りを残す、15世紀前半の多彩なイタリアの音楽シーンを俯瞰してみせる。そうした音楽に続いて歌われる、デュファイのカンツォーネ「気高い額のお方が」(track.5)、バッラータ「まこと隠れもない貴公子の名を称え」(track.6)の、メロディックなあたりは、間違いなくイタリア流で、カンブレーで学んだであろうフランス伝統の多声音楽はひとまず置いといて、しなやかにイタリアのセンスに対応してしまうデュファイの器用さに感心させられ、大いに魅了されてしまう。
そんな世俗歌曲を聴いた前半から、教会音楽が並ぶ後半は、フランス伝統の多声音楽と、イタリアのセンスが重ねられ、ルネサンス・ポリフォニーならではのヘヴンリーさを生み出すデュファイの実験を聴くよう。例えば、モテット「おお、聖セバスティアヌスよ」(track.10)は、声部同士がぶつかるような印象を受け、まだまだ中世を意識させられるのだけど、続く、頌歌「天はほめたたえ、喜び踊れ」(track.11)では、頌歌という性格もあって、メローさが際立ち、そのやわらかな表情にルネサンスの到来を感じさせる。そして、モテット「このフィレンツェの町は」(track.12)の、ふわっと香る感覚は、まさにルネサンス!その美しさに惹き込まれる。
という、イタリアとデュファイの関係性からルネサンスの始まりを捉えたラ・レヴェルディ。まずその視点が秀逸なのだけれど、それをより興味深いものとしているのが、中世を専門とする彼らの個性!ルネサンスの始まりに、明確に中世という存在を響かせることで、過渡期ならではのグラデーションをよりくっきりと浮かび上がらせるのか... また、中世ならではのカラフルさが、美しく整えられたルネサンスに持ち込まれることで、豊かな表情が生まれ、さらには、カラフルな色彩感がイタリア的なるものを喚起して、まさにイタリアへの旅... ルネサンス、最初の巨匠を、少し刺激的に聴かせてくれる。

DUFAY - VOYAGE EN ITALIE
LA REVERDIE


ギヨーム・デュファイ : モテット 「人には平和が最高のもの」
プレポジトゥス・ブリクシエンシス : バッラータ 「おお、親切な人」
バルトロメオ・ダ・ボローニャ : バッラータ 「私は死にたい」
ベルトラメ・フェラギュ : モテット 「エクセルサ・チヴィタス・ヴィンセンシア」
ギヨーム・デュファイ : カンツォーネ 「気高い額のお方が天国に」
ギヨーム・デュファイ : バッラータ 「まこと隠れもない貴公子の名を称え」
作曲者不詳 : ベルフィオーレ
アントニオ・ダ・チヴィダーレ : モテット 「麗しき花フィレンツェ」
ギヨーム・デュファイ : モテット 「喜べ、ビザンツ帝国の妃」
ギヨーム・デュファイ : モテット「おお、聖セバスティアヌスよ」
ギヨーム・デュファイ : 頌歌 「天はほめたたえ、喜び踊れ」
ギヨーム・デュファイ : モテット 「このフィレンツェの町は」
ギヨーム・デュファイ : モテット 「おお、イスパニアの後裔」

ラ・レヴェルディ

ARCANA/A 317

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