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「ブラジル」の印象。ブラジル人の視点で、旅行者の視点で... [before 2005]

ワールドカップが始まったよ!って、テンション上げてみる、どよーんとした梅雨空の下... 日本の初戦はまだだけど、いざ開幕してみると妙にワクワクしてしまう。「ブラジル」という場所のせいだろうか?でもって、気分は楽観的。いや、悲観なんてしてられないじゃないですか!ベスト4、行くよ!くらいな、大きな気持ちで、ブラジレイラスに陽気に楽しまないと... その一方で、様々に問題が噴出するリアルなブラジル... "BRICS"に陰りが見えて来て、改革を後回しにして来たツケが一気に露わになったか... 正直、あのブラジルが、反ワールドカップなアクションを見せていることに、かなりショックを受けるのだけれど、国民生活はそれだけ厳しい局面にあるのだね... どこの国も同じで、政治家の怠慢が、やがて国民生活へ皺寄せとなって表れる。なんて考えると、やっぱり、どよーんとしてしまう。いやいやいや、しっかりテンション上げて応援します!の前に音楽であります。
折角のワールドカップ、ブラジルを内から外から見つめてみようかなと... ということで、エマニュエル・クリヴィヌの指揮、リヨン国立管弦楽団の演奏で、ブラジル風のバッハなど、ヴィラ・ロボスの代表作を集めた1枚(ERATO/0630-10704-2)と、シャルル・デュトワの指揮、モントリオール交響楽団の演奏で、レスピーギの組曲『ブラジルの印象』(DECCA/455 983-2)を聴く。


ブラジルに生まれた作曲家、ヴィラ・ロボスの、「ブラジル」の真髄!

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ヴィラ・ロボス(1887-1959)の代名詞とも言える、ブラジル風のバッハから、室内オーケストラのための2番(track.1-4)と、ソプラノと8つのチェロのための5番(track.5, 6)、さらにギター協奏曲(track.7-9)、交響詩「アマゾナス」(track.10)と、ブラジルを代表する作曲家の美味しいところをギュっと絞ったような1枚。当然、期待に違わない「ブラジル」をたっぷりと味わうことに... で、これがまた、本当にクラシックか?!という、肩の力の抜け切った音楽が展開されていて... 映画音楽のような、イージーリスニングのような、何とも言えないライトさに、クラクラしてしまう。いや、普段、如何に堅苦しい音楽に慣れ切っているかを思い知らされる。
しかし、「ブラジル」は、何と誘惑的なのだろう... 2番のブラジル風のバッハ、終楽章の「カイピラの小さな汽車」(track.4)の、汽車が走って行く姿を見事に捉えた、瑞々しく楽しげなその音楽は、どこか切なくもあり、どうしようもなく心を掴まれてしまうキャッチーさ... 5番のブラジル風のバッハの前半、アリア(track.5)の、ソプラノが歌うヴォカリーズのムーディーさには、ブラジルならではのサウダージが充ち満ちていて... ギター協奏曲、2楽章(track.8)のさり気なさは、ボサノバと同じDNAを感じ... 嗚呼、何と「ブラジル」なのだろう!という音楽を、クラシックでやり遂げるヴィラ・ロボスの大胆さに恐れ入る。音楽がどんどん気難しくなって行く近代音楽全盛の20世紀前半、「ブラジル」を素直に織り込んで、あっけらかんと音楽を繰り広げてしまうのだから... が、よくよく聴いてみると、巧みに近代音楽の語法を取り入れていて、より表情豊かな音楽を紡ぎ出す器用さも...
アルバムの最後を締める交響詩「アマゾナス」(track.10)では、表現主義的なサウンドに彩られ、アマゾンの奥深くに分け入るようなミステリアスさを鮮やかに描き出す。近代音楽の持つ抽象性に、人知の及ばない濃密なジャングルの風景を見出そうとする屈託の無さ... より実用的なモダニズムとでも言おうか、ヨーロッパ大陸の作曲家にはなかなか探せない感覚かも。大西洋を渡った先のアメリカ大陸の作曲家が生み出す音楽というのは、どこかヨーロッパの伝統の重みから解き放たれた自由な視点があって、まったく興味深い。
で、それを演奏するのがヨーロッパのオーケストラというあたり、捻りが効いている。フランス的なたおやかさを響かせるマエストロ、クリヴィヌと、彼が率いたリヨン国立管... 彼らの持つ、フランスのメローな感性が、しなやかに「ブラジル」に寄り添い生まれる上品なサウンドは、ヴィラ・ロボスの屈託の無いあたりに、程好い洗練をもたらすのか。そこに、5番のブラジル風のバッハで歌う、バーヨ(ソプラノ)、ギター協奏曲でソリストを務めるアウセルのギターが色を添え、それぞれに瑞々しく、美しい!

VILLA LOBOS: BACHIANAS BRASILEIRAS
EMMANUEL KRIVINE

ヴィラ・ロボス : ブラジル風のバッハ 第2番 〔室内オーケストラのための〕
ヴィラ・ロボス : ブラジル風のバッハ 第5番 〔ソプラノと8つのチェロのための〕 *
ヴィラ・ロボス : ギター協奏曲 *
ヴィラ・ロボス : 交響詩 「アマゾナス」

マリア・バーヨ(ソプラノ) *
ロベルト・アウセル(ギター) *
エニュエル・クリヴィヌ/リヨン国立管弦楽団

ERATO/0630-10704-2




ブラジルを旅した作曲家、レスピーギの、ブラジルの印象...

4559832
代表作、ローマ3部作のイメージがあまりに強いレスピーギ(1879-1936)なのだけれど、そのレスピーギが、ブラジルを訪れ、「ブラジル」に彩られた作品も残していることは、あまり知られていないのかもしれない... そんな作品、組曲『ブラジルの印象』。1927年、ブラジルを初めて訪れたレスピーギは、「ブラジル」に大いに魅了され、帰国後、その名の通り、ブラジルの印象を綴った3曲からなる組曲を作曲。翌年、再びブラジルを訪れ、リオ・デ・ジャネイロで初演。そんな『ブラジルの印象』(track.9-11)を聴くのだけれど...
さすがはヨーロッパの巨匠、歴史と伝統を感じさせる充実のサウンドは、ヴィラ・ロボスの後だとより際立ち。そして、旅行者の視点というのか、「ブラジル」をつぶさに捉えようとするニュートラルな姿勢が印象的で。そこに、ローマの風景を見事に描写したローマ3部作での鋭敏な感性もあって、異国情緒を伝える絵葉書に終わらせない、レスピーギの見事な表現力に舌を巻く。例えば、それは、初めて体験するブラジルの街を、目隠しして歩かされるような... わかり易い見た目ではなく、街の臭い、遠くから聴こえて来る喧騒に、頬を撫ぜる風、踏みしめる大地の温度に鋭く反応し、「ブラジル」を胸一杯に吸い込み、より深く味わって得られる"ブラジルの印象"だろうか。やがて、目隠し越しに、楽しげに踊る人たちのシルエットがおぼろげに見えて来る3曲目、「歌と踊り」(track.11)... 洒落たリズムに乗せられて、こちらもつい身体が動き出してしまう。嗚呼、何だか本当にブラジルの街を旅しているような気分になって来る。このヴァーチャルな体験は、音楽という次元を越えているのかも。
その『ブラジルの印象』の前に、レスピーギがロッシーニのメロディー(『老いの過ち』からの... )を用い編集したバレエ『風変わりな店』の組曲(track.1-8)も取り上げられるのだけれど... おもちゃ屋を舞台に、おもちゃたちが繰り広げるファンタジックで楽しい物語を、ロッシーニの洒脱さに乗せて活き活きと動かし、絶妙におもちゃのチープ感を盛り込みつつ、鮮やかな音楽を紡ぎ出すレスピーギの器用さ!『ブラジルの印象』とは打って変わってユーモラスで、表情豊かな運びに、レスピーギの音楽性の幅を改めて知る。
イメージを喚起する音楽(『ブラジルの印象』)と、イメージを形作る音楽(『風変わりな店』)... ローマ3部作ばかりでないレスピーギの魅力を、しっかりと描き出したデュトワ、モントリオール響。程好く息衝きながら、品位はしっかり保ち、徹底して隅々まで綺麗に鳴らして生まれる、得も言えぬ発色の良さ!色彩感に長けたコンビではあったけれど、ここでの演奏はまたさらに冴えたもので... いや、改めてレスピーギの音楽のすばらしさに気付かせてくれる、見事な演奏を繰り広げる!

RESPIGHI: LA BOUTIQUE FANTASQUE ・ IMPRESSIONI BRASILLIANE
ORCHESTRE SYMPHONIQUE DE MONTRÉAL ・ DUTOIT


レスピーギ : バレエ 『風変わりな店』 組曲
レスピーギ : 組曲 『ブラジルの印象』

シャルル・デュトワ/モントリオール交響楽団

DECCA/455 983-2




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