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ラテン・アメリカの素顔を探して... メキシコから、ボリビアへ... [before 2005]

日本、初戦を落とす!で、肩を落としておるわけですが... あのどんよりとした動きは、コートジボワールの魔術のせいだと思う。って、言い訳してみる(誰にだよっ!?)。いや、ワールドカップはお祭り!何があっても、楽しく見届けるぞ!オランダの勝ちっぷりとか凄かったし、見るとこいっぱいじゃないですか!と気持ちを切り替えて... で、一足早く、切り替わっているのが、空模様。6月半ばにして、梅雨明けそうな勢いの空に、夏が恐くなる。けど、やっぱり太陽ってパワフル!暑いのには参るけど、晴れた空の下だと、何だか元気が出て来る気がするし。でもって、その勢いで、「ブラジル」から、さらなるラテン・アメリカの音楽を、旅してみようかなと...
アンドルー・ローレンス・キング率いる、古楽アンサンブル、ハープ・コンートの、17世紀、メキシコの音楽、"MISSA MEXICANA"(harmonia mundi FRANCE/HMU 907293)と、ティツィアーナ・バルミエロ率いる、チリの古楽アンサンブル、カピーリャ・デ・インディアスの、18世紀、ボリビアの音楽、"El Homenaje De Los Indios Canichanas Y Moxos"(K617/K617147)を聴く。


17世紀、メキシコ... 聖と俗がごった煮となって浮かび上がる、エスニック!

HMU907293.jpg
クラシックで「ラテン・アメリカ」というと、ヴィラ・ロボスなど、近代の作曲家が思い浮かぶのだけれど、ラテン・アメリカにおける西洋音楽の歴史はずっと古い。コロンブス以後、スペイン、ポルトガルによる征服と支配、キリスト教の布教が、そのままラテン・アメリカにおける西洋音楽の歴史となるわけで... 近代以前、特にバロック期などは、ひとつのピークを成している。そんな17世紀、メキシコの音楽に迫る、"MISSA MEXICANA"。スペインに生まれ、やがてメキシコへと渡り、プエブラ(メキシコ・シティから程近い、世界遺産の街!)のカテドラルの楽長となった、パディーリャ(ca.1590-1664)のミサを軸に、メキシコの作曲家、メキシコを訪れた作曲家の作品、その当時、メキシコで歌い、演奏されただろう作品を織り交ぜて繰り広げる、ローレンス・キング+ハープ・コンソート。この、聖と俗をごった煮にしてしまう大胆さと、それを「メキシコ」の味にしてしまうさじ加減が見事!
17世紀、ヨーロッパではバロック期を迎えているわけだが、"MISSA MEXICANA"から聴こえて来る音楽は、未だルネサンスの雰囲気を色濃く残している。ミサはポリフォニックで、そこに挿まれる様々な世俗的な楽曲も、ルネサンス期のものを思わせる。それでいて、このルネサンス風の音楽が、フォークロワを思わせるくっきりとしたリズムと、ヨーロッパとは一味違う香りを放つハーモニーに彩られて、「メキシコ」がふわっと浮かび上がる。ルネサンスと不思議に合うメキシコのフォルクローレ... ヨーロッパから持ち込まれた音楽語法が、土着の文化を吸い上げ、新たなセンスを育んでいたことにとても興味深いものを感じる。近代を待たずして、すでに17世紀において独自色を出していたメキシコの音楽。そして、その独自色の何と素朴なこと!宗主国、スペインの地のカラーをベースにしながら、スペインの陰影の濃さとはまた違う、ほんわかとしたエスニックさ... どこかユーモラスでもあり、ほのぼのとした空気感で聴く者をやさしく包む。ヨーロッパの権威主義的なあたりとは一線を画す、音楽への素直な喜びを感じずにはいられないナンバーのひとつひとつに、何だか深く、深く癒されてしまう。
しかし、久々に聴いてみると、ローレンス・キング+ハープ・コンソートの器用さ、絶妙さに、改めて感服させられる。古楽とワールド・ミュージックを行き来することに慣れた彼らではあるけれど、メキシコという大洋を隔てた異文化の地に乗り込んで、さらりとナチュラルな音楽を奏で歌い上げてしまうのだから... また、全てをミサに織り込むというアイディアも見事に活きていて、聖と俗の境界が曖昧になる感覚が、メキシコの"死者の日(お盆に盆踊りみたいな?)"を想起させて、おもしろい!

MISSA MEXICANA ・ THE HARP CONSORT/LAWRENCE-KING

作曲者不詳 : ビリャンシーコ 「2羽の小さなひわが歌っている」
フアン・グティエレス・デ・パディーリャ : ミサ 「われは野の花」
サンティアゴ・デ・ムルシア : 海岸地方のハカラ
フランシスコ・デ・ビダレス : サカラ 「良き趣味を持っている人は全て」
フアン・カバニリェス : コレンテ・イタリアーナ
フアン・グティエレス・デ・パディーリャ : サカラ 「ア・ラ・サカラ・サリッリャ」
サンティアゴ・デ・ムルシア : クンベス
フアン・グティエレス・デ・パディーリャ : ネグリーリャ ネグリーリャ 「おお、フランシキーリョさん!」
作曲者不詳 : 世俗的マリサパロス 「夕べのマリサパロス」
ジョアン・セレロールス : 宗教的マリサパロス 「汝、心地よい調和を備えるセラフィムよ」
ミゲル・ペレス・デ・サバラ : マリサパロスによるディフェレンシアス
フアン・ガルシア・デ・セスペデス : グァラーチャ 「夜は招く」

アンドルー・ローレンス・キング/ハープ・コンソート

harmonia mundi FRANCE/HMU 907293




18世紀、ボリビア... インディオ流、古典派風音楽の、「スロー」な魅力。

K617147
18世紀末、ボリビアのインディオ、カニチャナ族とモホ族による、宗主国、スペインの王妃、マリア・ルイサ(1751-1819)に捧げる歌を集めた"El Homenaje De Los Indios Canichanas Y Moxos"。"MISSA MEXICANA"が、ヨーロッパ人による音楽という性格を残すものであるならば、"El Homenaje De Los Indios Canichanas Y Moxos"は、ラテン・アメリカ人に委ねられた音楽であることが、実に興味深い。イエズス会が布教の一環として伝えた西洋音楽(フロリレジウムによる"Bolivian Baroque"のシリーズなどで紹介された... )が、伝道所を拠り所に、インディオの人々の間にしっかりと根を下ろし、イエズス会が追放(1767)させられた後も、在地の文化と結び付き、独特の発達を遂げて... そんなボリビアの地にも、やがて新しい音楽の波が到達し、ルネサンスはもちろん、バロックも今は過去となり、インディオ流の古典派風音楽が響き出す。
ヨーロッパでは、古典主義が爛熟期を迎える1790年という記録が残る、セビーリャのインディアス総合古文書館に収められたカニチャナ族の8つの歌(track.2-9)。インディオのフォルクローレそのものように聴こえる歌にも、時折、たおやかなメロディーが流れ出し、そうしたありに、バロックを脱した古典主義の時代の流麗さを見出すようで、印象的。続く、モホ族の作曲家たちによる、マリア・ルイサ・デ・ボルボン王妃への頌詩(track.10)では、まさに古典派風の端正な音楽が聴こえて来て、それがまたインディオの楽器に彩られ、何とも味わい深いサウンドが耳を捉える。リコーダーが愛らしく歌いコンチェルトを思わせるパストレータ・イチェペ・フラウタ(track.11-14)では、シンプルな音楽が展開され、パストラル(牧歌的)な表情がそよ風のよう。そして、最も印象に残るビリャンシーコ「聖なるN... 」(track.16)!古典主義の時代のオペラ・ブッファの幕切れを思わせるハッピーなコーラスに、鳥笛が吹かれたり、手拍子が入ってフォルクローレ風にも聴こえるカラフルさ!プロフェッショナルが極める同時代のヨーロッパの音楽とは一味違う、18世紀末のインディオの人々の、豊かな音楽生活を窺うよう。
そうした音楽を、活き活きと蘇らせてゆく、バルミエロ+カピーリャ・デ・インディアス!インディオの楽器を巧みに取り込み、歌声にもリアルな素朴さがあり... 所々、ヘタウマ感すら盛り込んで、何とも言えない温もりを醸し出す。この温度感に触れてしまうと、ちょっと抜け出せなくなりそうな居心地の良さが... ヨーロッパではなく、ラテン・アメリカの音楽家たちなればこそのDNAが働くのか?彼らが紡ぎ出す本物の「スロー」さが、現代人の耳にはたまらない癒しに。18世紀末のインディオの人々が奏でた素直な音楽に、心が洗われる。
一方で、あちこちから聴こえて来るマリア・ルイサ、ボルボンの名。スペイン王妃、マリア・ルイサに捧げる歌を集めたから当然ではあるのだけれど... けして見えることのない遥か遠い宗主国の王妃、王家の名を、繰り返し歌ったインディオの人たちに切ないものを感じた。

El Homenaje De Los Indios Canichanas Y Moxos

作曲者不詳 : ビリャンシーコ 「聖体の祝日」
作曲者不詳 : カニチャナ族の8つの歌 〔1790年、サン・ペドロ村、インディアス総合古文書館蔵〕
モホ族の作曲家たち(フランシスコ・セモ/マルセリーノ・イチョ/フアン・ホセ・ノサ) : マリア・ルイサ・デ・ボルボン王妃への頌詩
作曲者不詳 : パストレータ・イチェペ・フラウタ
アントニオ・リパ : モテット 「イェルサレムよ、主を讃めたたえよ」
ホセ・デ・カンプデロス : ビリャンシーコ 「聖なる N... 」

ティツィアーナ・バルミエロ/カピーリャ・デ・インディアス

K617/K617147




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