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新たな感動をもたらす、"室内楽版"、ブルックナーの7番の交響曲。 [before 2005]

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19世紀、ドイツ―オーストリアの音楽の流れを見つめる5月...
それは、まさにメインストリーム!クラクラするほどにクラシックの核たるレパートリー。となれば、今さらと思うところもあるのだけれど。いや、だからこそ改めて見つめるべきなのかもしれない。何より、連綿と受け継がれて行く音楽史の興味深さたるや!メインストリームだからこそ、よりそのことを強く感じ、音楽史そのものに感慨すら覚えてしまう。いや、クラシックの魅力って、他のジャンルにはない、そうした壮大さ(時として、誇大な... )もあるなと。さて、壮大さからはちょっと捻った視点で、ブルックナーの交響曲を聴いてみようかなと。
ということで、再びブルックナーへと戻る。リノス・アンサンブルの演奏による、シェーンベルクの門下生、アイスラー、シュタイン、ランクルのアレンジ(全4楽章を、アイスラー-シュタイン-アイスラー-ランクルの順で... )で、ブルックナーの7番の交響曲、室内楽版(CAPRICCIO/10 864)を聴く。

弦楽四重奏、コントラバス、そしてクラリネット、ホルン... ならば、想像の範疇だけれど、これにピアノ、ハーモニウムが加わって、あのブルックナーの音楽世界が、まったく違う表情を見せるから驚かされる。そもそも、9人の演奏家でブルックナーの交響曲を演奏してしまおうという衝撃!ブルックナーの交響曲に室内楽版は有り得るのか?いや、アリなの?!と思うのだけれど、それをやらせてしまうのが、シェーンベルクの指導の凄いところ。門下生の訓練として、多くの室内楽用アレンジの課題を出したシェーンベルク。マーラーの「大地の歌」や、ドビュッシーの牧神の午後への前奏曲、数々のウィンナー・ワルツなど、シェーンベルクを含む新ウィーン楽派の面々、さらにそれに続く近代音楽の担い手たち、シェーンベルク門下によるアレンジは、それぞれの作品で、独特のトーンを見せて、オリジナルとは一味違う魅力を楽しませてくれる。のだが、そうした作品のひとつ、室内楽版、ブルックナーの7番の交響曲は、題材が題材だけに、際立って興味深い音楽を聴かせてくれる。
その、"室内楽版"、ブルックナーの7番の交響曲なのだけれど、3人の作曲家によりアレンジされているのも興味深いところ。で、始まりは、シェーンベルク門下の最も若い世代であった、ハンス・アイスラー(1898-1962)によるアレンジ... 繊細な弦楽のトレモロの中、美しいメロディーをチェロが歌い出す瑞々しさ!もう、1楽章の冒頭からノック・アウト。ヴォリュームをぎゅっと絞って聴こえて来る、ブルックナーの音楽の思い掛けないナイーヴさに、感動すら覚えてしまう。そんな冒頭のメロディーをチェロが歌い終えた後、そのメロディーを引き継ぐのがピアノ!オリジナルからは絶対に聴こえない甘やかなサウンドに、普段のブルックナーの音楽からは味わえない優雅さが漂い、何とも言えずロマンティックな気分にさせられる。オリジナルでは、何か音楽というレベルを越えてしまって、サウンド・オブジェクトとでも言いたくなる、強烈な存在感(時として威圧感... )を味わうわけだけれど、室内楽版になった途端、純粋に音楽として流れ出すから不思議... 交響曲の室内楽版ともなれば、何かギミックなものを感じそうだけれど、オリジナルよりもナチュラルな体験をもたらしてしまうから、狐に抓まれたよう。
そんなアイスラーによる1楽章に続いての2楽章、アダージョ(track.2)は、エルヴィン・シュタイン(1885-1958)によるアレンジ。シュタインは、新ウィーン楽派の中核を担うヴェーベルン(1883-1945)、ベルク(1885-1935)らと同世代。アイスラーよりは古い世代であり、大人であり、それがサウンドにも表れるようで、より音楽的で、ロマンティックで、アダージョをより魅惑的に仕上げる。そして、再びのアイスラーによる3楽章、スケルツォ(track.3)。後にブレヒトと組んで、音楽劇の世界で活躍し、第2次大戦後は、コミュニストとして東ドイツの楽壇で指導的な役割を担ったアイスラー。師、シェーンベルクとは対極を成す、シンプルなスタイル(共産圏特有のキャッチーな... つまりプロパガンダな... )を築いたセンスをすでに感じなくもなく。そうしたあたりがスケルツォの軽快さに合うようで、ブルックナーがどことなしにポップに響くからおもしろい。で、最後、アイスラーと同い年となるカール・ランクル(1898-1968)による終楽章(track.4)は、最もブルックナーの雰囲気を活かしたアレンジ... サウンド・オブジェクトな在り様を、巧みに室内楽の枠組みに落とし込んでいて、そういう点で、優等生的、かも?いや、室内楽版にして、飾らない素のブルックナーを味わえるあたりが、絶妙な締めになっている。
そして、この"室内楽版"の魅力を鮮やかに引き出す、リノス・アンサンブルのすばらしい演奏!9人の演奏家、それぞれが放つ瑞々しいサウンドと、息の合ったアンサンブルが生み出す、すっきりとしたハーモニー。そこから繰り出される、透明感を湛えるブルックナーの美しさ!いつも聴くブルックナーの交響曲が壮大な氷河ならば、リノス・アンサンブルが奏でる室内楽版は、春の雪解けを思わせて、その氷河から流れ出した美しい一筋の流れだろうか。どこか儚げでありながらもキラキラと輝く姿は、氷河の硬質さとは打って変わって、しなやかで、楚々とした佇まいが新たな感動をもたらす。そして、これもまたブルックナーであって... アレンジによって引き出される思い掛けないブルックナーの表情に聴き入るばかり!

BRUCKNER - LINOS ENSEMBLE

ブルックナー : 交響曲 第7番 ホ長調 〔アイスラー、シュタイン、ランケルのアレンジによる、室内楽版〕

リノス・アンサンブル

CAPRICCIO/10 864




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