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"改革オペラ"と、リュリとラモーと、オペラ巧者、グルック。 [before 2005]

えー、フランス音楽史を下っております、この春。
初期バロックから、フランス・バロックが大きく花開いたリュリの時代を経て、グルックがパリで活躍した1770年代までを聴いて、フランス音楽の興味深さに改めて感じ入る。中世の終わりまで、ヨーロッパの中心だったフランス音楽が、百年戦争による荒廃により、ローカルな音楽へと陥落してから見せる、際立った「フランス」へのこだわりというのか... 時に特殊にも思える、誇り高さ... 一方で、フランス音楽に、国外からの人、ムーブメントの影響は欠かせない史実。リュリがイタリアの出身だったことが、象徴的。そして、ウィーンからやって来たグルック... グルックのパリでの大成功が、フランスに、「フランス」的なる音楽を巡る大きな論争を巻き起こす。おもしろいのは、外国人たるグルックを、フランス音楽の体現者として祀り上げたこと...
そんな、パリ時代のグルックをさらに聴く!ジョン・エリオット・ガーディナー率いる、イングリッシュ・バロック・ソロイスツの演奏で、アンネ・ソフィー・フォン・オッター(メッゾ・ソプラノ)がタイトルロールを歌う、オペラ『アルセスト』(PHILIPS/470 293-2)と、マルク・ミンコフスキ率いる、レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの演奏で、ミレイユ・ドランシュ(ソプラノ)がタイトルロールを歌う、オペラ『アルミード』(ARCHIV/459 616-2)の2タイトル... パリの音楽シーンを沸かせたグルックのフランス性を探る。


『アルセスト』、ウィーン流の古典主義、"改革オペラ"の輸入者としてのグルック...

4702932.jpg
刺激的なオペラを生み出したグルックのパリ時代(1773-79)は、わずか6年。そして、その6年間に7つのオペラを王立音楽アカデミー、現在に至るパリのオペラ座の前身で上演した(あともうひとつ、ヴェルサイユ宮で上演したものも含めれば、8つ... )。そのオペラには、ウィーンで上演したものをパリ用に仕立て直したリヴァイヴァルも含まれており、ここで取り上げる『アルセスト』もまたそうしたリヴァイヴァルのひとつ... 1767年、ウィーンでイタリア語によるオペラとして初演され、大成功を収めた『アルチェステ』。エウリピデスのギリシア悲劇に基づき、グルックを象徴する"改革オペラ"のひとつに数えられるのだけれど、これをフランス語訳したのが『アルセスト』。で、このフランス語訳というのが、イタリア語のオリジナルと聴き比べると、なかなか興味深い...
フランス語の語感とイタリア語の語感... 同じ作品だからこそ際立つその違いというのか... イタリア語だとよりヴィヴィットな印象を受け、ドラマティックであるのに対し、フランス語だと古典としての風雅なあたりが際立ち、格調高いようで... この違いをどう聴くかはともかく、オペラがヨーロッパへ広がってゆく中で、イタリア語のオペラがアルプスを越え、ドイツ語圏からイギリスまで人気を博したことに納得させられもする。そういう言葉の性格を踏まえて、グルックは『アルチェステ』を巧みに改編してもいて、フランス語が活きる形を新たに模索し、新たなオペラとしての『アルセスト』に至っているあたりに、グルックの言語感覚の鋭さに感心させられる。
という『アルセスト』、パリの聴衆にはそれほど受けなかったらしい。グルックのパリ時代の集大成となる『トーリード... 』に比べると、ウィーンのスタイルを強く感じるところもあり、そのあたりがリヴァイヴァルの限界だったか?けれど、『アルセスト』から響いて来る音楽は、充実したグルックのウィーン時代(1754-1773)そのものであって、ひとつひとつのエール、コーラスの堂々たる姿は、見事!モーツァルトのオペラを思わせるような、そんなトーンも随所から聴こえ... いや、モーツァルトこそ、グルックのウィーンのスタイルを踏襲していたのだなと感じ入る。何より、堂々たる古典主義を繰り出す『アルセスト』の聴き応えたるや!ガーディナー+イングリッシュ・バロック・ソロイスツの演奏が見事にそのあたりを捉えて、けして淡白にならないジューシーな古典主義が印象的。モンテヴェルディ合唱団によるコーラスも表情豊かに色を添え、時にドラマを大いに盛り上げ、さすが... そこに、夫のため自らを犠牲にしようとする王妃、アルセストを歌うフォン・オッター(メゾ・ソプラノ)の深みのある声が、ドラマをより雄弁なものとしていて、聴き入るばかり。

ALCESTE GLUCK
JOHN ELIOT GARDINER

グルック : オペラ 『アルセスト』

アドメート : ポール・グローブス(テノール)
アルセスト : アンネ・ソフィー・フォン・オッター(メッゾ・メソプラノ)
アポロンの祭司/エルキュール : ディートリヒ・ヘンシェル(バス)
エヴァンドル : ヤン・ブロン(テノール)
使者 : ルドヴィク・テジエ(バリトン)
モンテヴェルディ合唱団

ジョン・エリオット・ガーディナー/イングリッシュ・バロック・ソロイスツ

PHILIPS/470 293-2




『アルミード』、フランスの伝統、リュリ、ラモーの継承者としてのグルック...

4596162
『アルセスト』(1776)の次作で、『トーリード... 』(1779)の前作となる、1777年、王立音楽アカデミー(現、パリ国立オペラ... )で初演された新作、『アルミード』。リュリの代表作と同じ台本を用いて作曲されているあたり、トラジェディ・リリク、フランスの伝統の継承者というグルックの存在を際立たせるオペラでもあって... その音楽もまた、リュリの昔に戻るような、そんな雰囲気があり、充実した古典派サウンドを聴かせた前作、『アルセスト』とは違い、よりストイックなドラマを展開するのか... そうしたあたりに、少しあざとさを感じなくもないのだけれど、リュリ調の響きを絞ったところから生み出される迫真は、イタリアの華麗さとは一線を画すフランスの在り様を鋭く示しており、特に、タイトルロール、アルミードの歌うレシタティフ、エールの数々は際立っていて...
第5幕、第4場から最終場、幕切れ(disc.2, track.23-26)の緊迫はただならなず、アルミードによる剥き出しの独白そのもの。台詞と音楽が究極的な形で結び付いた"改革オペラ"が結晶化した瞬間。その最後、レシタティフとポストリュード(disc.2, track.26)が聴かせる圧巻のフィナーレは、古典派によるオペラに限らず、オペラ史上において、最もインパクトを残すフィナーレ。捨てられた男への憎しみと愛が錯綜するアルミードの激しさは、ベルカント・オペラの"狂乱の場"を予感させながらも、それ以上の迫真を生み出していて、息を呑む。これぞ、自然主義を生んだ国、フランス流のリアリズムか... 一方で、そのアルミードが愛するに至る男、ルノーを魔法に掛ける2幕、牧歌的な穏やかな風景が広がる第4場(disc.1, track.22-26)は、ディヴェルティスマンのような展開で、どこかラモーのオペラ・バレを思い起こさせて、ポップ!という具合に、リュリからラモーまで、器用に自らの音楽にフランスを取り込むグルックの巧みさ!ただ、当時としてはリュリもラモーもオールド・ファッションであり、パリにもナポリ楽派による最新モードの波は押し寄せて来ていて、成功を得るには至らなかった。
とはいえ、すばらしいオペラである『アルミード』!ミンコフスキ+レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルによるエッジの効いた演奏が、このオペラのスリリングさを徹底して描き切っていて、とにかく圧倒される。そこに、悪役にして恋に破れるヒロインでもあるという一筋縄ではいかないアルミードを歌うドランシュ(ソプラノ)!ミンコフスキの信頼厚いプリマだけに、鮮やかに難役を歌い切って、見事。そんなドランシュに負けず、存在感を見せるのが「憎悪」役のポドレス(コントラルト)。まさに憎悪!ドスの効いた低音がキャラを立たせて、インパクトを生む。そして、歌手、コーラス、オーケストラが、ミンコフスキの指揮の下、混然一体となって生み出されるドラマの熱いこと!いや、グルックのパリ時代は、本当に刺激的だ。

GLUCK: ARMIDE
MARC MINKOWSKI


グルック : オペラ 『アルミード』

アルミード : ミレイユ・ドランシュ(ソプラノ)
ルノー : チャールズ・ウォークマン(テノール)
イドラオ : ローラン・ナウリ(バリトン)
憎悪 : エヴァ・ポドレス(コントラルト)
フェニース/メリッセ : フランソワーズ・マセ(ソプラノ)
シドニー/羊飼いの娘/ルシンド : ニコル・ヒーストン(ソプラノ)
アルテミドル/デンマークの騎士 : ヤン・ブロン(テノール)
ウバルド : ブレット・ポレガト(バリトン)
アロント : ヴァンサン・ル・テジエ(バリトン)
快楽 : マグダレーナ・コジェナー(メッゾ・ソプラノ)
ナヤド : ヴァレリー・ガベイユ(ソプラノ)
コール・デ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル(コーラス)

マルク・ミンコフスキ/レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル

ARCHIV/459 616-2




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