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19世紀が目覚めようとする!ケルビーニ、オペラ・コミック『二日間』。 [before 2005]

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もし、タイム・トラベルが可能ならば...
まず、18世紀のパリへ行ってみたい!18世紀の音楽の都、パリ!フランスにおける音楽の中心がヴェルサイユからパリに移り、やがて宮廷からは独立した音楽シーンが生まれ、オペラハウスではオペラ、バレエが、コンサートホールでは交響曲や協奏曲などが盛んに演奏され、今とそう変わらない音楽風景が広がり... そうした音楽シーンを彩った面々の豪華なこと!マンハイム楽派に、ナポリ楽派に、ロンドンからはヨハン・クリスティアン・バッハが、ウィーンからはグルックが、サリエリがやって来て、ハイドンの交響曲が大ブームとなり、そんな巨匠たちを前に、若きモーツァルトは悪戦苦闘し... 今となっては音楽史としか知り得ない、国際音楽都市としてのパリの輝きに、実際に触れることができたなら、どんなに刺激的だったことだろうか。しかし、そうした輝きもフランス革命(1789-)で失われてしまう。外国人たちはパリを去り、音楽は革命のプロパガンダとなり、音楽シーンは萎んでしまう。が、そこにまた新たな音楽の潮流が湧き出して... という、19世紀が目覚めようとするパリへ。
クリストフ・シュペリング率いる、ダス・ノイエ・オーケスター、ヤン・ブロン(テノール)、ミレイユ・ドランシュ(ソプラノ)ら、手堅いキャストを揃えての、ケルビーニが1800年にパリのフェドー劇場で初演した、オペラ・コミック『二日間』(OPUS 111/OP 30306)を聴く。

フランス革命によって明るい社会が到来したかというと、とんでもない。新設された議場には権謀術数が渦巻き、政治家たちの闘争はエスカレート、暗殺が横行し、やがて、わけもわからず、次から次へとギロチンに人々が送られるような世の中に... 明るい社会どころか、真っ暗闇の恐怖政治の到来。で、その恐怖政治もクーデターによりあっけなく倒れ... そんな不穏な社会を反映するかのようにブームとなったのが"救出オペラ"。不当逮捕で囚われた夫を妻が救う!というような、最後は正義が勝つ展開が大いに受けたのだとか。そして、当時、大ヒットとなったのが、ケルビーニによる『二日間』(1800)。マザランが権勢を振るっていた頃、マザランと対立してフロンドの乱を起こしたパリ高等法院のリーダー、伯爵、アルマンは、水運びのミケリの家に匿われていた。が、襲われそうになった妻を助けて逮捕されてしまう。が、ミケリが赦免状を持って駆け付け、無事、救出。その展開、ベートーヴェンの"救出オペラ"、『フィデリオ』(第1稿、『レオノーレ』が初演されたのが1805年... )に似ているところがあるわけだが、ベートーヴェンは『フィデリオ』を作曲するにあたり、ケルビーニの『二日間』を参考にしたとのこと... つまり『二日間』には、『フィデリオ』へと至る源流を見出すことができ、極めて興味深いものがある。
まず、その序曲!荘重な序奏からベートーヴェンの序曲を思わせて、びっくり。古典派の最後の時代、モーツァルトが逝って10年が経とうという頃の音楽の在り様というのか、ベートーヴェンの序曲が生まれる背景を知るようで、本当に興味深い。ベートーヴェンの音楽に際立った個性を感じていた耳には、ケルビーニの音楽はかなり衝撃的かもしれない... で、さらに興味深いのは幕が上がってから!『フィデリオ』で聴いたようなフレーズ、サウンドがあちこちから聴こえて来て、んんんん??おおおお?!となる。それでいて、ベートーヴェンよりも色彩に富む音楽が繰り広げられ、聴き応えは十二分。グルックの"疾風怒濤"を思い出させるパワフルさと、グルックの音楽に対抗したオペラ・コミックのライトなあたりが絶妙に融合され、ブフォン論争以来のフランスの伝統vsイタリアの最新モードという対立軸を乗り越えた音楽の姿をしなやかに提示していて、何とも魅惑的。"救出オペラ"なんて言うと、『フィデリオ』のように深刻な音楽を思い浮かべてしまいそうだけれど、『二日間』には、フランスらしいメロドラマ調のメローさ、キャッチーさがあって... そうした感覚こそ、ロマン主義のオペラに通じるものに感じ... オペラに新しい世紀が訪れたことを告げるようでもあり、グルックの"疾風怒濤"の中にあったロマン主義の萌芽が、グンと一気に成長し、瑞々しい双葉を世に向かって、目一杯、広げたかのようなその音楽の凛とした雰囲気は、何とも言えない爽やかさを放っている。やはりベートーヴェンも、そんなことを感じたのではないだろうか?
さて、オペラ・コミック(台詞と歌による歌芝居... )である『二日間』、クリストフ・シュペリングは大胆に台詞をカット。そうしたあたり、台詞が生む空気感もあるので、少し残念に思うのだけれど、音楽としてはグンと密度を増すようで、一気呵成に聴かせる展開がおもしろい。また、クリストフ・シュペリング+ダス・ノイエ・オーケスターならではの鋭い演奏が、よりテンションの高いドラマを生み出していて、盛り上げる!一方で、ダス・ノイエ・オーケスターの、勢いばかりでないきちっとした演奏が、ケルビーニの音楽のベースにある古典主義をしっかりと捉えていて。そうした手堅さからは、ベートーヴェンにインスピレーションを与えたケルビーニの音楽の魅力というものを、しっかり引き出している。そこに、アルマンを歌うブロン(テノール)、その妻、コンスタンスを歌うドランシュ(ソプラノ)の、伸びやかにして骨のある歌声!要所、要所で大活躍のコルス・ムジクス・ケルンによるコーラス!そうした全てが見事なアンサンブルを紡ぎ出し、古典主義の端正さと、ロマン主義のパワフルさを見事に結んだ、フランス音楽の重要なターニング・ポイントを、鮮やかに響かせる。

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ケルビーニ : オペラ・コミック 『二日間』

アルマン : ヤン・ブロン(テノール)
コンスタンス : ミレイユ・ドランシュ(ソプラノ)
ミケリ : アンドレアス・シュミット(バス)
ダニエル : ユン・カンチュル(バス)
マルセリナ : オルガ・パシフニク(ソプラノ)
アントニオ : エティエンヌ・レクロアール(テノール)
アンジェリーナ : ヴェラ・シェーネンベルク(ソプラノ)
セモス : ミリェンコ・トゥルク(バス)
コルス・ムジクス・ケルン(コーラス)

クリストフ・シュペリング/ダス・ノイエ・オルケスター

OPUS 111/OP 30306




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