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"Avant Bach"、ドイツ音楽が萌え出でようとする頃... [before 2005]

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「冷戦」など、今は昔... のはずが、また冬の時代へと逆戻りか?
という、東西対決、再燃の場となりつつある、クリミア半島。オリンピックが終わった途端に、一気に緊張を高める狡猾さというか、強かさというか、何だ... ロシアの露骨な有り様に、面喰う。一方で、クリミア半島は、1955年まで、ロシア領だった。クリミア半島は、ソヴィエトからウクライナへ贈られた結婚指輪のようなものだったから、話しは複雑。が、そもそもクリミア半島は、ロシアのものでもウクライナのものでもなかった史実。そして、分かち難いロシアとウクライナの歴史... その歴史を紐解けば、ウクライナこそ真のロシアとも言えるパラドックス... 今あるクリミア半島の危機の後ろに広がる、壮大にして一筋縄では行かない関係性を見つめれば、困惑すらしてしまう。そういう歴史を前にすると、日本の歴史が如何にシンプルなものであるかを思い知らされもする。
なんて、ここで語り出しても高が知れているので、いつも通り音楽に戻りまして... いやぁー、暖かと思うと寒くなって、寒いと思うと暖かい、三寒四温、まさに早春であります。そこで、そんな早春を思わせる音楽を探ってみたいなと、例の如くの思い付き... ドイツ音楽が萌え出でようとする頃を捉えた興味深い1枚... フィリップ・ヘレヴェッヘ率いるコレギウム・ヴォカーレによる、バッハ以前のドイツ・バロックのカンタータを丁寧に綴る"AVANT BACH"(harmonia mundi FRANCE/HMC 901703)を聴く。

やがてドイツにも、イタリアで生まれたバロックのスタイルは伝わり... そこから、ドイツならではのスタイルを模索し、バッハの登場を準備した存在たち... 北ドイツ、リューベックで活躍したトゥンダー(1614-67)。そのトゥンダーの娘婿、ブクステフーデに師事したブルーンス(1665-97)。そして、バッハが務めたライプツィヒ、トーマスカントルの前任者、クーナウ(1660-1722)。そのクーナウに師事し、クーナウの後任候補でもあったグラウプナー(1683-1760)の4人によるカンタータを取り上げる"AVANT BACH(バッハ以前)"。ドイツが西欧の音楽を主導する時代はまだ先で... そんな時代、北ドイツのローカルな音楽シーンにも春の訪れを告げるような、初々しさを見せるカンタータの数々。ドイツ・バロックを俯瞰するような構成がとても興味深く...
始まりは、このアルバムで取り上げられる作曲家の中で、最も古い世代となるトゥンダー... イタリアの初期バロックの雰囲気も漂わせるカンタータ「主は我が光なり」(track.1-5)、ドイツならではのルターの定番コラールを引用するカンタータ「われらが神は堅き砦」(track.12-15)と、イタリアの新しい音楽の形、ドイツの地に根差したコラールを撚り合わせて紡がれるドイツ・バロックの初期の在り様が印象的で... そこに、ドイツの音楽の源泉を見出すようでもあり、感慨深いものも... 続く、クーナウのカンタータ「神よ、御慈しみによりて」(track.16-22)には、バッハのカンタータで得られる感触がそこにあって。バッハの前任者という、バッハとの時間的な近さを意識させられつつ、トゥンダーにはなかった、「アリア」、「レチタティーヴォ」という形がしっかりと表れていて、よりドラマ性を感じさせる展開が印象的。というクーナウから少し時代を遡ってのブルーンスのカンタータ「私は横になり眠る」(track.23-29)には、バッハがリスペクトしていたというブルーンスの音楽だけあって、バッハと同じ臭いを感じるのか... と同時に、何とも言えないロマンティックなトーンが表れているようでもあり、素朴な中にも独特の艶やかさがあり、思い掛けなく印象的。やがてドイツで大きく花開くロマン主義の素地を、ブルーンスに聴いた気さえする。
そして、最後は、"バッハ以前"からバッハの同世代へ... ヘッセン・ダルムシュタット方伯の宮廷楽長を務めたグラウプナーのカンタータ「主よ、水の流れが生じ」(track.30-36)。いやー、バッハの時代ともなれば、ドイツ・バロックもすっかり春めいていて、始まりのコーラスの花やかで程好くドラマティックなあたりは、得も言えない輝きを放ち... こうして、改めて、バッハと同時代の、バッハとも親交(自らが蹴ったライプツィヒのポストにバッハが就任するにあたって、グラウプナーはライプツィヒ市参事会に手厚い推薦状を送っている... )のあった作曲家の音楽を聴くと、バッハの保守性を思い知らされるよう。一方で、グラウプナーを手放さなかったダルムシュタットの宮廷の気持ちがわかる!バッハのオールド・ファッションとは一味違う、品の良い花やぎに満ちたグラウプナーの音楽の魅力的なこと!モーツァルトすら予感させる爽やかさを響かせて、まるで春風に包まれるよう。
そんな、"AVANT BACH"... ドイツのカンタータというと、バッハのものばかりに注目が集まってしまうわけだけれど、バッハだけではない広がりを聴かせてくれたヘレヴェッヘ+コレギウム・ヴォカーレ。バッハへと至るドイツのカンタータの系譜を丁寧に追う興味深い視点は、今、改めて聴いてみても、新鮮。それでいて、ひとつひとつのカンタータを丁寧に歌い紡いで、何かほっとさせられるような空気を生み出す演奏、コーラスのすばらしさ!このアンサンブルならではの独特のやわらかな表情が、早春を思わせるドイツ・バロックの"バッハ以前"を、楚々と響かせて、初々しさや、ピュアな音楽の在り様に、輝きを見出す。「バロック」のイメージというと、どうしても盛期バロックのイメージで語られてしまうわけだけれど、そこに至る過程もまた、何とも言えぬ素朴な味があり、聴き入ってしまう。で、今の季節にぴったりなのかも...

Avant / Before Bach ・ Collegium Vocale ・ Philippe Herreweghe

トゥンダー : カンタータ 「主は我が光なり」
トゥンダー : カンタータ 「汝の怒りをひるがえし」
トゥンダー : カンタータ 「われらが神は堅き砦」
クーナウ : カンタータ 「神よ、御慈しみによりて」
ブルーンス : カンタータ 「私は横になり眠る」
グラウプナー : カンタータ 「主よ、水の流れが生じ」

フィリップ・ヘレヴェッヘ/コレギウム・ヴォカーレ

harmonia mundi FRANCE/HMC 901703


ここのところ、何となく、クリミア半島ばかりでなく、世界中が軋んでいるようで、嫌なストレスを感じる。何なのだろう、この感じ... 物事を俯瞰することなく、狭まった視野の中で早急に答えを求め、真実は見え難くなり、視界が悪くなったところで、混乱の色がより深まる悪循環。というのか。そうして溜まった変なフラストレーションが、異様な形であちらこちらから噴き出し始めていて。国際情勢ばかりでない、我々の日常の近くにも、様々な形で噴出しているように感じ、ニュースで、そういう状況を目の当たりにする度に、息苦しさを覚える。こういうの、しばらく続くのだろうか?いや、こんな時こそ、音楽かも... 音楽を聴いて、心に余裕を... 短慮を起こさない、落ち着きを持たねば... そう、まずは自分自身から... そんなことを考える今日この頃であります。




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