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驚くべき14歳、モーツァルト少年による、華麗なるオペラ・セリア! [before 2005]

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クリミア半島の危機レベルは、少し下がったのかな?
¥も下がったみたいだし、株価も戻したみたいだし... 我々がまったく知らない土地で起こるかもしれない戦争が、こうも我々を巡る数字に表れてしまう21世紀。世界はまさに「グローバル」であって、断ち難くつながっているリアル。裏を返せば、この地球=グローブには、もはや戦争をする余地は残っていないのかもしれない(今、紛争が起きている地域というのは、「グローバル」につながっていない地域と言えるのかも... )。一方で、前世紀に流行した、国家主義や、民族主義がリヴァイヴァルしていて、このパラドックスに違和感を覚える。で、その典型が、ソヴィエトの幻影を追う覇権主義、ロシア帝国の憧憬たる南下政策に快感を求めるロシアか... どうしようもない問題を抱えていたからこそソヴィエトは崩壊し、無理を押し進めたからこそロシア帝国は倒れた史実。現実を見つめ、前に進む。とても簡単なようで、なかなかできないのが政治家の性。これは、ロシアに限らず、世界中の政治家に言えることかもしれない。昨今の政治の特徴として、どうもリアル=現在から目を逸らし、後ろを向きたがる。今、我々は、過去のどの時代とも違う、21世紀を生きている。そのことを、きちんと認識しなくては...
と、また話しが妙な方向へ。当blogは音楽から目を逸らし、違うところを向きたがる?いや、その向きのままで、クリミア半島のある黒海沿海を舞台にしたオペラを聴いてみよう!な思い付きで、かつてクリミア半島をも勢力下に置いた王様が主人公の歴史劇... クリストフ・ルセ率いる、レ・タラン・リリクの演奏で、モーツァルトのオペラ『ポントの王、ミトリダーテ』(DECCA/460 772-2)を聴く。

クリミア半島の対岸にあたる、現在のトルコ、黒海沿岸部に存在したポントス王国の王、ミトリダテス6世(在位 : BC.120-BC.63)の、内憂外患に苦悩、苦闘する物語... 世界史では、3回に渡るミトリダテス戦争で知られる、ローマ共和国とポントス王国の衝突を題材(ヴィヴァルディやナポリ楽派の作曲家たちも作曲している、18世紀のオペラの定番... )に、勃興するローマと、没落するギリシア、古代地中海文明を担った2つの勢力が交替しようとする激動の時代を、劣勢(すでに、ギリシアの中核はローマに呑み込まれ、ギリシアの独立勢力は黒海沿海に残るのみだった... )のギリシア側から描くオペラ。ふと、ローマとギリシアの構図が、ロシアとウクライナに重なるようで、興味深いのだけれど、そうした政治衝突に、オペラ・セリアならではの、セレヴたちの恋愛のもつれが絡んでしまって、ワイドショー的展開!ミトリダーテの婚約者を巡り、ミトリダーテの2人の息子が争う、奇妙な三角関係が物語を動かし... そんな複雑な物語を、14歳の少年が作曲したというから驚かされる!
父、レオポルトに連れられて、1769年から3年間、イタリアを旅したモーツァルト少年... ボローニャでは、当時のヨーロッパ楽壇の権威、マルティーニ神父に師事し認められ、ローマでは、門外不出のアレグリによるミゼレーレを耳コピーしてしまう伝説を生み、何より、ヨーロッパを席巻するナポリ楽派によるイタリアの最新モードに、直接、触れ、大きな収穫を得た旅に。そうした旅のハイライトが、ミラノから委嘱され大成功した『ポントの王、ミトリダーテ』(1770)。アレグリのミゼレーレばかりでない、あっという間にナポリ楽派のスタイルを自分のものとしてしまうモーツァルト少年の底知れなさたるや!全てのアリアは、ナポリ楽派流の華麗さに彩られ、そのあまりに華麗なあたりに息を呑み... いや、それは本家顔負けの華麗さでもあって、そんなアリアが窒息しそうになるくらいに詰まっているという驚くべき密度!少年ならではの全力投球過ぎるあたりが、聴く者の耳を休める隙を与えない。もう最初から最後まで聴き惚れっぱなしという事態... ま、そうしたあたりに、モーツァルトのドラマ性に対する未成熟感は否めない(何しろ、14歳だし... 国際政治と恋愛のもつれを描くにはやっぱり若過ぎる... )のだが、密度が生むテンションの高さが、かえって戦時下の恋愛のもつれに緊張感を与えているから、おもしろい!しかし、これが初めてのオペラ・セリア?14歳の少年による作品?ただただ、モーツァルトの天才性を思い知らされる。
で、そうしたテンションを実現している歌手たちがまた凄い!ナポリ楽派を越えるスーパー・ナポリ楽派的ナンバーを歌いこなすこと自体が容易いことではないはずだけれど、見事に歌い上げて、モーツァルトの天才性をこれでもかと繰り広げる姿は、痛快であり、神々しくすらある。タイトルロールを歌うサッバティーニ(テノール)、そのミトリダーテの次男、シーファレを歌うバルトリ(メッゾ・ソプラノ)、シーファレが思いを寄せるミトリダーテの婚約者、アスパージアを歌うデセイ(ソプラノ)、ミトリダーテの宿敵、ローマの護民官、マルツィオを歌うフローレス(テノール)、そのマルツィオに利用されるミトリダーテの長男、ファルナーチェにアサワ(カウンターテナー)、その婚約者であるパルティアの王女、イズメーネにピオー(ソプラノ)。何、この豪華さ... 久々にこの全曲盤を引っ張り出して来て、そのキャスティングに驚いた!こんなにも凄かったっけ?いや、本当に凄い... でもって、凄い才能が結集するからこその、クウォリティを持ったテンションであって... そんな歌の数々に塗れる悦楽...
そんなテンションを生み出すベースとなっているのが、ルセ+レ・タラン・リリク。切れ味の鋭さと、勢い!けして粗さを見せない、彼らならではのスピード感が、3枚組の長丁場を一気に聴かせるようで、飽きさせない。また、そういう演奏があって、モーツァルトの名作オペラに引けを取らない聴き応えをこのオペラから引き出していて... モーツァルト少年、14歳のオペラは、習作?なんてことを、一切、言わせない堂に入った圧巻のオペラに仕上げているから凄い。さらには、大人になってからのモーツァルトでは味わえない輝きというのか、ある意味、モーツァルト芸術の早春に位置する『ポントの王、ミトリダーテ』なればこそ、満開の桜を見せてくれるような、芽吹きの春の活きの良さと、春なればこそのカラフルさで、圧倒して来る。

Mozart Mitridate
Bartoli Dessay Sabbatini Asawa
Christophe Rousset Les Talens Lyriques


モーツァルト : オペラ 『ポントの王、ミトリダーテ』 K.87

ミトリダーテ : ジュゼッペ・サッバティーニ(テノール)
アスパージア : ナタリー・デッセー(ソプラノ)
チェーファレ : チェチーリア・バルトリ(メッゾ・ソプラノ)
ファルナーチェ : ブライアン・アサワ(カウンターテナー)
イズメーネ : サンドリーヌ・ピオー(ソプラノ)
マルツィオ : フアン・ディエゴ・フローレス(テノール)
アルバーテ : エレーヌ・ル・コール(ソプラノ)

クリストフ・ルセ/レ・タラン・リリク

DECCA/460 772-2




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