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"Aux marches du Palais"、古楽からシャンソンを見つめる... [before 2005]

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冬のオリンピックが終われば、春がやって来る...
ふと街を歩いていると、何となく空気が緩んでいるように感じ、春が着実に訪れつつあるのだなと、ほっとさせられる。けど、ほっとさせられて、何だか気が抜けてしまうのか。冬のオリンピックが終わってしまったからだろうか。寒さがわずかに解けて、緩んだところに喪失感... いや、こういう心地こそが、春なのかもしれない。ということで、冬のロシア音楽から離れて、春の兆しを探すようなサウンドを聴いてみようかなと。
ヴァンサン・デュメストル率いる、フランスの古楽アンサンブル、ル・ポエム・アルモニークによる、ルネサンス期から19世紀にまで至る、フランスで歌われたロマンスと哀歌を集めた素朴な1枚、"Aux marches du Palais"(Alpha/Alpha 500)を、久々に聴いてみる。

ロシア音楽にどっぷりと浸かって来て、久々に聴く古楽のサウンドは、まったく以って素朴... いや、その素朴さが際立ってすらいて、何か調子が狂うようなところもあるのだけれど... そんな、ル・ポエム・アルモニークによる"Aux marches du Palais"。古楽とフォークロワの境界を漂う独特なセンスを見せる、Alphaの白のジャケット、"Les chants de la terre(大地の歌)"のラインからの第1弾で、このラインの方向性を見事に指示した1枚。フランスで歌い継がれて来たロマンスと哀歌を、それらが生まれたであろう昔々の楽器で奏で、綴る。それは、まさに古楽にしてフォークロワ... 2つの魅力が共鳴し、印象的な音楽が繰り広げられる。
その1曲目、フランスの古い童謡、「狼や狐が騒いでいた」は、バグパイプ(だと思うのだけれど... )の鄙びた響きに導かれ、ひと癖ある古楽器のサウンドに彩られ、中世を思わせるようなトーンを見せる。一方で、シンプルでキャッチーなメロディが延々と繰り返され(何か、数え唄に似た感覚?)、ミニマル・ミュージック的な心地良さもあったり。で、そのメロディがディエス・イレのパロディなのだとか... 言われてみると、そうかも... いや、グレゴリオ聖歌の中でも、最も黙示録的なディエス・イレのパロディを、こどもたちが嬉々として歌うというあたりが、毒気を含んでフランスっぽいのか、おもしろい... 続く、「ルノー王」(track.2)は、ハーディ・ガーディのドローンを背景に男声が歌い出す姿が、トルヴェールを思わせ、さらに古(イニシエ)の気分は濃くなる。で、これはシャンソンの名曲のようでして(このあたり、まったく不勉強でして... )、その後で歌われる、「ペルネットは起きる」(track.3)も、またそのようで... いや、シャンソンの歴史の古さと、それ大切に歌い継いで来たフランス人の伝統への篤い眼差しというものに改めて感じ入る。で、この「シャンソン」というのが、このアルバムのテーマとなるのか... フランスにおける歌の諸相を、様々な時代のスタイルを纏ったシャンソン、変わらぬメロディに探る興味深さがある。
フランドル楽派、リシャフォール(ca.1480-ca.1547)による、3声のシャンソン「いとしい人」(track.4)の、やわらかなメロディをポリフォニックに歌う美しさ。バロック期、エール・ド・クールとして歌われた「ルイ王の娘」(track.7)の、物悲しくも雄弁ですらあるメローさには、メロディの国、フランスというものを強く意識させられ。アルバムのタイトルにもなっている、「宮殿の階段に」(track.9)は、マリー・アントワネットのサロンから聴こえて来そうな、古雅にして上品な気分を漂わせつつも、今、「シャンソン」と聞いてイメージできる雰囲気も表れていて... ひとつひとつのナンバーが素朴さの中にもヴァラエティに富む表情を見せて、飽きさせない。
そんな、フランスのロマンスと哀歌を聴かせてくれたデュメストル+ル・ポエム・アルモニーク... 中世を思わせるトーンから、ルネサンス、バロック、そして革命前のライトなサウンドに、牧歌的な風景に響くようなフォークロワまで、かなりの幅を持たせての、変幻自在にイメージを創り出して来る器用な演奏に驚かされる。一方で、限りなくナチュラルに、シンプルなメロディの数々を丁寧に捉える歌手たちの歌が絶妙で... 彼らの奇を衒うことの無い素直な歌声が、このアルバムから、フランスの歌心のようなものを浮かび上がらせるのか。そういう歌心があってこそ、聴き手に寄り添うような感覚を生み、安らぎを与えてくれる。
で、そんな安らぎに、一度、浸ってしまうと、もう理屈ではなくて、一緒になって口ずさみたくなってしまう。例えば、「ロレーヌを通っていると」(track.5)の、愛らしいメロディ!何とも言えず気の置けない表情に魅了され、ふと春風に花に匂いを見つけたような、ささやかだけれど、幸せな心地に... "Aux marches du Palais"の魅力は、そうしたところにあるなと...

Aux marches du Palais
Le Poème Harmonique - Vincent Dumestre


狼や狐が騒いでた
ルノー王
ペルネットは起きる
いとしい人は
ロレーヌを通っていると
若い娘が
ルイ王の娘
8月31日に
宮殿の階段に
目ざめよ、眠れる美女
王は太鼓をたたかせる
娘はもってる、盾9つ
マンドランの哀歌
サルミリョーク

ヴァンサン・デュメストル/ル・ポエム・アルモニーク

Alpha/Alpha 500




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