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ミャスコフスキー、ソヴィエトにおける不思議な存在感。 [before 2005]

さようなら、ソチ。私は、あなたのことを忘れない...
良きにつけ悪しきにつけ、いろいろ忘れられない冬のオリンピックとなりました。でもって、最後は真央ちゃんに、全部、持って行かれたような、そんな気がして来る、あのフリー、ラフマニノフの2番のピアノ協奏曲!もう、感動とか、そういう類いじゃなくて、ありとあらゆる思いがない交ぜとなって溢れ出して来て、気が付いたら目からおびただしい液体が噴き出していた、深夜、テレビの前。みたいな... メダルなんて吹っ飛んでしまうドラマを呼び込む、あなたという存在は、凄過ぎます。真央ちゃん。ある意味、メダルと距離ができたからこそ、その凄さは際立ったようにすら思えて来る。もちろん、メダルは残念だったかもしれないけれど、メダルばかりがオリンピックじゃない!ということを思い知らされるパフォーマンス。見る者の感情を揺さぶる演技。そういうの、他に無かったよ... ならば、もうひとつ、レジェンドが生まれたのかもしれない。まったく以って、忘れ難き、ソチ。
でもって、まだまだ、興奮、醒めやらず... なのではありますが、音楽に話しを戻しまして、ロシア音楽。ソヴィエトの作曲家、ミャスコフスキーに着目してみようかなと。ということで、ネーメ・ヤルヴィの指揮、イェーテボリ交響楽団の演奏による、6番の交響曲(Deutsche Grammophon/471 655-2)と、ミッシャ・マイスキーのチェロ、ミハイル・プレトニョフが率いるロシア・ナショナル管弦楽団の演奏で、チェロ協奏曲(Deutsche Grammophon/449 821-2)の2タイトルを、久々に聴いてみる。


テンコ盛り!ヤリ過ぎ?ミャスコフスキーの6番の交響曲。

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ニコライ・ミャスコフスキー(1881-1950)。
軍人の家に生まれたミャスコフスキーは、まず軍隊に入り、退役してから音楽を学ぶという、少し遠まわりをして音楽の世界へとやって来た人物(ロシアでは、意外とこういう人、多い?官僚だったチャイコフスキー、軍艦に乗っていたリムスキー・コルサコフ... )。25歳にしてサンクト・ペテルブルク音楽院に入学。ここでは、プロコフィエフ(1891-1953)と同級生となり、そうしたあたりからも知られるミャスコフスキー... プロコフィエフの亡命中も手紙をやり取り(それらは後に書簡集にまとめられるほど... )し、生涯に渡って親交を結んだ。さて、プロコフィエフがロシア革命(1917)を避け、亡命した一方で、ミャスコフスキーはソヴィエトの一員としてロシアに残ることに。その保守的な作風は、「社会主義リアリズム」の検閲に挑むようなこともなく、スターリンの恐怖政治を巧みに生き抜き、やがてモスクワ音楽院の教授を務め、ソヴィエトの作曲家たち、ハチャトゥリアン(1903-78)、カバレフスキー(1904-87)、シチェドリン(b.1932)らを育て、教育者としても大きな足跡を残した。
という、ミャスコフスキーの6番の交響曲を聴くのだけれど... まだまだ、ソヴィエトの芸術界に自由で実験的な精神に充ち溢れていた1924年に、モスクワで初演されたこの作品。大胆に新しい時代を切り拓くようなインパクトはないものの、その1楽章の始まりは、後のショスタコーヴィチ(1906-75)の交響曲を思わせるような、不穏でパワフルな音楽を聴かせ、やがてショスタコーヴィチという個性を形作るソヴィエトのモードを垣間見て、興味深い。また、どことなくプロコフィエフを感じさせるところもあり、2楽章(track.2)の疾走感、ダークなトーンは、プロコフェエフの『炎の天使』交響曲を思い起こさせるのか... 一転、3楽章(track.3)では、ロシアのロマンティックな伝統が甦り、前半とは一味違う色合いで切り返して来る。その後で、目が覚めるようなカラフルさで驚かせる、終楽章(track.4)!いきなりフランスの革命歌、「カルマニョーラ」のキャッチーなメロディに乗って、遊園地にでも来てしまったような冒頭... さらに、もうひとつフランスの革命歌、「サ・イラ」がリズミカルにそれを引き継いで、ああ、このノリが「社会主義リアリズム」なのだなと... が、雰囲気はすぐに暗転、ディエス・イレが響き、不穏さが戻って来る。もう、楽観と悲観が錯綜し、アイヴズ(1874-84)の音楽を聴くような感覚もあったり。で、最後は美しく感動的なロシアの聖歌がコーラスで歌われるというテンコ盛り!ヤリ過ぎ?そこが魅力!
そんな交響曲を丁寧に繰り広げる、ネーメ・ヤルヴィ、イェーテボリ響。丁寧だからこそ、この交響曲に籠められた様々なイメージ、引用が鮮やかに響き出して、印象深く... 一方で、丁寧だからこそ、テンコ盛りなあたりが嫌味にならず、巧みにまとめ上げられて、好印象... マニアックな視点を常に持ちながら、そのマニアックな作品を、きちっと説得力を以って紹介するマエストロ、ネーメならではの卒の無さに感心。そのネーメにしっかりと応える、ネーメが率いたイェーテボリ響のクリアな演奏もすばらしく、ソヴィエトのもうひとりの作曲家、ミャスコフスキーの音楽をしっかりと堪能させてくれる。

MIASKOVSKY: SYMPHONY No. 6
GÖTEBORGS SYMFONIKER ・ NEEME JÄRVI


ミャスコフスキー : 交響曲 第6番 変ホ短調 Op.23

ネーメ・ヤルヴィ/イェーテボリ交響楽団、同合唱団

Deutsche Grammophon/471 655-2




愛のイエントル?ミャスコフスキーのチェロ協奏曲。

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えーっ、ミャスコフスキーのチェロ協奏曲を聴くのだけれど... マイスキーによるこのアルバムは、ミャスコフスキーの前に、プロコフィエフの交響的協奏曲(track.1-4)が取り上げられていて、そちらの方のイメージが強く、ミャスコフスキーのチェロ協奏曲(track.5, 6)が収録されていたことをすっかり忘れていて... だものだから、ミャスコフスキーのチェロ協奏曲がどんなだったか、まったく記憶に無く... なものだから、もの凄く新鮮な思いで聴くことに... いや、何と魅惑的な!で、冒頭から聴こえて来るのは、"Papa can you hear me?"?チェロがしっとりと歌うメロディが、バーブラ・ストライザンドが監督し、主演し、歌った、映画『愛のイエントル』(1983)での名ナンバーに似ているような... 映画の方はルグランの作曲だけれど、ミャスコフスキーを聴いていた?あるいは、ともにベースとなるメロディが存在しているのか?バーブラ演じるイエントルはラビの娘で、ユダヤ教が物語の軸となるだけに、ユダヤ調のナンバーでもある、"Papa can you hear me?"。一方、ショスタコーヴィチを始め、ユダヤのフォークロワに関心を示す傾向のあったソヴィエトの音楽だけに、ミャスコフスキーのチェロ協奏曲にもそうしたものが籠められているのだろうか?とても気になるところなのだけれど... どうなのだろう?
しかし、ユダヤのフォークロワを思わせる1楽章(track.4)、冒頭のメロディの何とも言えない味わい... どこか寂しげで、独特のメローさがあって、チェロに歌わせるには最高で... またそれが、終楽章(track.5)、ドラマティックに盛り上がったカデンツァの後、曲の最後に戻って来るあたりが絶妙で、聴き入ってしまう。1945年にモスクワで初演されたミャスコフスキーのチェロ協奏曲、近代音楽の時代に在って、迷うこと無く保守的な姿勢を貫き、心を捉える独特なメローさもあって、不思議な存在感を生み出している。そういう音楽が求められ、でなければシベリア送りか死が待ってはいたわけだけれど、ミャスコフスキーの音楽には、ショスタコーヴィチのような鬱屈としたところがなく、ナチュラルに音楽を紡ぎ出しているあたりに、「社会主義リアリズム」という重石が生み出したソヴィエトのモードとはまた違う音楽の姿を見出し、よりニュートラルな音楽が聴こえて来るよう。
そうしたところから、1曲目、プロコフィエフの交響的協奏曲(track.1-3)に立ち戻ってみると、また興味深い。ソヴィエトに復帰(1933)した晩年、国際的な名声を得た巨匠でありながらも、「社会主義リアリズム」の呪縛からは逃れられず、苦闘した末の、死の前年、1952年にモスクワで初演された交響的協奏曲。ロシア・アヴァンギャルドのアンファン・テリヴルとしてのトーンも残しながら、「社会主義リアリズム」から生み出されたロマンティックで瑞々しいトーンにも彩られ、思い掛けなくカッコよく、ミャスコフスキーとは好対照。ソヴィエトにおける閉じた音楽環境にあって、2つの個性がそれぞれに映える取り合わせが、絶妙だったりする。
という、視点のおもしろさ、センスの良さを見せるマイスキー... もちろん、その演奏もすばらしく、このマエストロならではの艶やかな音色と、伸びやかに歌い上げるあたりに、改めて聴き惚れてしまう。そこに、好サポートを聴かせるプレトニョフ+ロシア・ナショナル管... クリアかつ鮮やかな演奏を繰り広げ、彼ら独特のニュートラルさが、2の作品をより際立たせている。

PROKOFIEV: SINFONIA CONCERTANTE/MIASKOVSKY: CELLOKONZERT
MAISKY/RUSSIAN NATIONAL ORCHESTRA/PLETNEV

プロコフィエフ : 交響的協奏曲 ホ短調 Op.125 〔チェロ協奏曲 第2番〕
ミャスコフスキー : チェロ協奏曲 Op.66

ミッシャ・マイスキー(チェロ)
ミハイル・プレトニョフ/ロシア・ナショナル管弦楽団

Deutsche Grammophon/449 821-2




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