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ロシア音楽の豊かさはどこから来るのだろう? [selection]

とうとう、始まりました。ソチ・オリンピック!
普段、リュージュなんて、もの凄く縁遠いのだけれど、思わず見入っちゃって... もの凄くストイックな競技だけれど、あのスピード感はカッコよ過ぎ!わずかな体重移動で、絶妙なコーナリングを得て、時間を切り裂いてゆくようなレースのスリリングさ!ソリなんて前近代の乗り物のはずなのに、こんなにも近未来的な気分が漂うとは、ちょっと驚き。ソチのコースもカッコいいのか?見始めたら止まらなくなってしまう。これがオリンピックの魔法?ということで、慢性的睡眠不足状態に突入。何だか、フワフワしながらロシア音楽を聴いております。
そう、ここまでロシア音楽を5タイトル聴いて来たのだけれど、よりロシア音楽の広がりを楽しむために、チャイコフスキー、5人組、ロシア・アヴァンギャルドばかりでないロシア音楽のマニアックなあたりに注目してみようかなと... そんな6タイトルをセレクションしてみる。

ところで、開会式。ロシアのクラシック界が総動員される?!みたいな噂だったり、期待だったりがあったのだけれど、ゲルギエフがオリンピック旗を持って行進し、ネトレプコがオリンピック賛歌を歌うくらいで、ちょっとガッカリ。全体の印象も、映像とLEDでピカピカして綺麗だな、くらいで留まってしまったことに、物足りなさを覚え(物議を醸すプーチン政権の慇懃華麗なるロシアン・ショウを楽しみにしていたものだから... )、ウーン、残念!しかし、ダッタン人の踊りに始まり、春の祭典、火の鳥、白鳥の湖、さらにはシュニトケまで、何気なく流れて来るロシア音楽の豊かさには、さすがだなと... そんな豊かさに迫ろうと思うセレクション...

その最初の1枚は、ロシア音楽の黎明期に活躍したアントン・ルビンシテイン(1829-94)。サンクト・ペテルブルク音楽院を創設(1862)し、その第1期生にはかのチャイコフスキーがおり... 以後、多くのロシア音楽の担い手(19世紀後半、ロシア音楽を急成長させた面々... )を送り出したことを考えれば、ロシア音楽の父とも言えそうな存在... のはずではあるのだけれど、その作品を聴く機会はなかなか無いのが残念。
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というアントン・ルビンシテインの4番のピアノ協奏曲を弾いたモークのアルバムは、ロシア音楽の黎明期を瑞々しく呼び覚まし、かつ渋く響かせて、すばらしい。ドイツ・ロマン主義に学んだアントン・ルビンシテインのロマンティックさと、そこに漂うロシアならではの仄暗くメローなあたりの絶妙さ、ロシア・ピアニズムの萌芽をきっちり捉えて、酔わせてくれる。またそこには、やがてチャイコフスキーの音楽へとつながる道程がしっかりと聴き取れて、興味深く... アントン・ルビンシテインの後で、ラフマニノフの3番のピアノ協奏曲も取り上げられ、ロシア・ピアニズムの黎明から集大成へ、その発展にも、もうひとつの感動を見出し、感慨深いものがある。
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幼くして才能を開花させ、リムスキー・コルサコフに師事、若くして国際的な名声も得て、やがてサンクト・ペテルブルク音楽院の院長に就任したグラズノフ(1865-1936)。その名はよく知られているものの、その作品を聴く機会は、意外に少ないようにも思う。個性的なロシア音楽の面々に囲まれて、若干、没個性的だからだろうか?そこで聴く、ヴェラー+ベルギー国立管によるグラズノフの5番の交響曲。ロシア的な調子の良さと、国際的なスマートさを兼ね備えて、絶妙にライトな交響曲を聴かせてくれる。しかし、キャッチーで、そうしたあたりを臆することなく前面に押し出し、鳴らし切るヴェラー+ベルギー国立管の演奏がまたラヴリー!
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ここまでは、そうマニアックとも言い切れなかったのだけれど、ここで思いっきりマニアックに舵を切ってみる。モスクワ音楽院、サンクト・ペテルブルク音楽院で学び、革命後はパリに亡命した、シェーベルクよりも早く12音技法を用いたという、知られざる作曲家、オブホフ(1892-1954)。ゴットリーヴが弾く、オブホフのピアノ作品集は、12音技法にこだわるのではなく、オブホフの象徴主義的、神秘主義的性格を鮮やかに引き出して、そのポエティックな音楽で酔わせてくれる。スクリャービンの延長線上にありつつも、フランスの印象主義と交わり、アンビエントで美しい音楽を紡ぎ出す。いや、こんな作曲家もいたのかと、新鮮な思いに...

さて、ロシア音楽において、もどかしさを感じるのが、ソヴィエト(1922-91)の存在。ソヴィエトの音楽とロシア音楽の関係をどう捉えたらいいのだろう?ロシア音楽の先にソヴィエトの音楽が存在することは間違いないけれど、ソヴィエト連邦の広がりによって、アルメニア人のハチャトゥリアンや、タタール系のクバイドゥーリナなど、ロシアに留まらないセンスが引き込まれるソヴィエトの音楽の性格もあり、どこまでがロシア音楽で、どこからがそうではないのか、見極めは難しいように思う。けど、ここはあまり深く考えずに、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチだけではない、ロシア音楽としてのソヴィエトの音楽を選んでみようかなと...
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という1枚目は、体制と折り合いを付けることができず、表舞台に立つことのできなかったロクシーン(1920-87)。で、その端緒とも言える、退廃的だとしてはじかれてしまったモスクワ音楽院での卒業制作、ロクシーンの交響詩「悪の華」を取り上げた、スヴィエルシェヴスキの指揮、グラーツ大管弦楽団によるアルバム。「世紀末」が薫るその音楽の何と魅惑的なこと!ショスタコーヴィチといった「社会主義リアリズム」の検閲下に置かれた作品とは一味違うリリカルな風合いは、ツェムリンスキーやシュレーカーのような雰囲気で... このあたりが退廃的?スヴィエルシェヴスキ、グラーツ大管弦楽団の演奏は、その魅力を滴るように響かせていて、また素敵。
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ソヴィエトに嫌われる作曲家の一方で、ソヴィエトに救われたのが、ナチスから逃れソヴィエトへと渡ったポーランド出身のユダヤ系の作曲家、ヴァインベルク(1919-96)。ここ数年、じわりじわりと注目を集めつつある存在だけれど... その紹介者としても知られるスヴェドルンドの指揮、イェーテボリ響による、ヴァインベルクの20番の交響曲は、ショスタコーヴィチばかりでないソヴィエトの交響曲を聴かせつつ、ショスタコーヴィチを取り巻いていたであろう当時のソヴィエトにおけるモードというものも聴かせてくれて、とても興味深い。アルバムの後半は、ヴァインベルクのユダヤ人としてのカラーが活きるチェロ協奏曲が取り上げられ、これがまた魅力的!
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さて、最後は、ショスタコーヴィチを苦しめた、体制側の作曲家、カバレフスキー(1904-87)。運動会の定番、『道化師』からのギャロップで知られる作曲家だけれど、それ以外の作品となるとほとんど聴いたことがなかったり... プロパガンダの一翼を積極的に担ったことが仇となったか?そんな、カバレフスキーの全4曲の交響曲に改めてスポットを当てた、大植英次と、彼が率いたNDR放送フィル。ドイツの実直な演奏が、ソヴィエトの体制の音楽の生真面目なあたりを捉えると、妙にポップに仕上がるから、おもしろい!というより、ソヴィエトのプロパガンダというのは、どこかデザイン的に冴えたところがあって、今となってはクール?

という6タイトル。ロシアとソヴィエトという2つ背景から、定番ではないものを選んでみたのだけれど... あえて定番でないところからロシア音楽を丁寧に見つめてみると、ロシア音楽の器用さのようなものを感じる。巧みに西欧のスタイルをロシアの伝統に落とし込み、西欧を驚かせる個性を生み出す器用さ。ロシア音楽の興味深い点は、2つの要素を絶妙に混ぜ合わせて化学変化を起こすところかもしれない。これまで、ロシア音楽に一筋縄では行かないものを感じていたのだけれど、ひとつの要素で構成されていないところに、そうした印象を生むのかも... だからこそ、ロシア音楽は独特の魅力を放ち、存在感を示すのかも...

さて、ロシア音楽を聴く。まだまだ、続きます。オリンピックが終わるまで!と、行きたいところだけど、そこまではネタが続かないか... とにかく、この際だから、ロシア音楽を楽しみ尽くす!
そんな思いを強くしたのが、先日のフィギュア団体、最終種目、アイスダンスのフリー・ダンスを見て... ロシア組のアクロバティックなチャイコフスキー、カナダ組の滋味溢れるグラズノフ、そして、アメリカ組の滴るようなロマンティシズム、リムスキー・コルサコフ... 嗚呼、ロシア音楽って、やっぱりすばらしい... そんな音楽を見事に捉えたパフォーマンスにも、ただただ感服!日本チームの結果は残念でも、十分に楽しませてもらいました!やっぱり、オリンピックって魅了されるものがあるなァ。




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