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プロコフィエフ、いとも怪奇なるホラー・オペラ、『炎の天使』。 [before 2005]

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ソチ・オリンピックのワクワクも吹き飛ぶ、佐村河内ショック!
昨年、NHKスペシャルで見せつけられた、凄絶とも言えるその作曲風景... 耳鳴りの嵐の中、モチーフを切り出し、少しずつ構築してゆく創造の凄まじさに、ただただ圧倒されたのだけれど... あちゃちゃちゃちゃ、圧倒されてた口です(汗)。さて、真実が露わとなって、今、何を思うか?騙された!の一言では片づけられぬ、何とも言えない心地にさせられ、戸惑う。"佐村河内守"という現象を、少し引いて見つめると、クラシック全体(聴き手も含め... )で、いつの間にかその嘘に加担していたようにも感じて、考え込んでしまう。とはいえ、このまま考え込んでも埒が明かないので、ひとまず置き、ロシア音楽を聴いてソチ・オリンピックで盛り上がる!の続き...
前回、プロコフィエフの3番の交響曲を聴いたので、その元となったオペラへ立ち返ってみようかなと思い... ヴァレリー・ゲルギエフ率いるマリインスキー劇場による、プロコフィエフのいとも怪奇なる奇作、オペラ『炎の天使』(PHILIPS/446 078-2)を、久々に聴く。

ロシアの象徴主義において重要な役割を担ったブリューソフ(1873-1924)の、実体験(怪奇体験ではなく、ニーナ・ペトロフスカヤを巡る三角関係... )をオカルティックに膨らませた小説、『炎の天使』(1908)。プロコフィエフがこの小説に出会ったのは、ロシア革命(1917)を避け、日本を経由(帝劇でリサイタルも!)し、アメリカへと亡命(1918)して間もなくの頃... すぐにその怪奇な物語に魅了され、オペラ用の台本を自ら書き上げ、作曲を始めたのが1919年。しかし、このオペラが初演に至る道程は、思いの外、長かった。
作曲家のみならず、ピアニストとしても活躍し、作曲に集中できない状況を打開しようと、物語の舞台、ドイツへと向かい、南バイエルンのエッタールに逗留(1922-23)。ここで作曲に専念し、ヴォーカル・スコアを完成させる。その後、パリに拠点を移し、新作を上演してくれるオペラハウスを探る中で、ベルリン国立歌劇場との契約(1926)に漕ぎ着ける。が、オーケストレーションが間に合わず、初演は流れてしまう。その後、オペラの版権を獲得したクーセヴィツキーが、パリで2幕のみを初演(1928)し、成功するも、全幕の初演にはつながらず、その素材を元に、3番の交響曲(1928)が作曲される。やがて、プロコフィエフは、スターリンの恐怖が吹き荒ぶソヴィエトへと復帰(1933)し、当然ながらソヴィエトで初演できるはずもなく... 結局、全幕が初演されたのは、作曲家の死の翌年、演奏会形式での1954年のパリ。舞台での初演は、1955年のヴェネツィアとなる。
そんな『炎の天使』、プロコフィエフは亡命時代の傑作だと考えていたらしい。いや、これは本当に凄いオペラだと思う。なかなか陽の目を見なかった一方で、際立った個性を放っていて、だからこそ、陽の目を見なかったか?まず、オカルティックでセクシャルでもあるストーリーが刺激的で、ちょっと他には無い危うさを含み、今を以ってしても十分に挑戦的。そのあたりを巧みに捉えた音楽は、スクリャービンの神秘主義、ドビュッシーを思わせる色彩感、ツェムリンスキーやシュレーカーといった「世紀末」の気分も漂わせて、プレ・モダンのスタイルの集大成のようにも感じる。そうした点で、ロシア・アヴァンギャルドのアンファン・テリブル、ソヴィエト復帰後の「社会主義リアリズム」を意識したモダニズムとも違う、プロコフィエフのもうひとつの一面を覗かせて、興味深い。
さらに興味深いのが、随所に登場するラップ音(怪奇現象ではお馴染みの... )。もちろん、パーカッションが鳴らしているので怪奇現象ではないけれど、ラップ音を楽譜に書き込んだプロコフィエフの、リアルな怪異の表現が、ホラー・オペラの気分をより盛り上げていて... そうした怪異が、とうとう目に見える形(憑依)で出現する圧巻の終幕(disc.2, track9-13)。修道院を舞台に、修道女たちの祈りのコーラスに導かれ、静謐で神秘的な空気を創り出すも、ラップ音で一転、怪奇に染まってゆくおどろおどろしさ... 最後は、祈りと集団ヒステリーが交錯し、熱狂と異端判決によるカタルシス!オペラティックなゴシック・ホラー的ファンタジーとは一線を画す、現代的なホラーを思わせるプロコフィエフの感性の鋭さに感心させられる。一方で、3番の交響曲に転用される2幕の間奏曲(disc.1, track.11)、3幕の間奏曲(disc.2, track.4)には、ヒッチコックの映画が思い浮かぶようなサスペンスフルさがあって、その劇画調なあたりがクール!おどろおどろしさの中にも、鮮烈さが光る!
で、この『炎の天使』を、1990年代にリヴァイヴァルしたのが、ゲルギエフ+マリインスキー劇場。ここで聴く録音は、1993年のマリインスキー劇場でのライヴ録音。ライヴの粗さを感じるところもありつつも、ライヴだからこそ活きるゲルギエフの勢いを感じ、特に2つの間奏曲(disc.1, track.11/disc.2, track.4)の迫力には痺れる!そして、何と魅惑的な、ゴルチャコーワが歌うレナータ!怪異を引き寄せる強烈なファム・ファタルでありながら、どこか無垢でもある複雑なロールを、やわらかなソプラノで鮮やかに表現し、ゲルギエフが描き出す異様な背景の中で、輝いてすらいるこの存在感は、凄い。また、こういうプリマを得て、『炎の天使』はよりその魅力を際立たせていて... 今、改めて聴いてみると、ホラー・オペラという希有なストーリーはもちろん、他のプロコフィエフ作品とは一味違ったその音楽に惹き込まれ... 個性的な作品が並ぶ20世紀のオペラの中にあって、さらに際立った個性を見せる、凄い作品なのだなと、再認識。

PROKOFIEV: THE FIERY ANGEL
KIROV OPERA AND ORCHESTRA, ST PETERSBURG
VALERY GERGIEV


プロコフィエフ : オペラ 『炎の天使』 Op.37

ルプレヒト : セルゲイ・レイフェルクス(バリトン)
レナータ : ガリーナ・ゴルチャコワ(ソプラノ)
宿屋のおかみさん : エフゲーニャ・ペルラソワ・ヴェルコヴィッチ(メッゾ・ソプラノ)
下男 : ミハイル・キット(バス)
占い師 : ラリーサ・ジャチコワ(メッゾ・ソプラノ)
ヤコプ・グロック : エフゲーニ・ボイツォフ(テノール)
アグリッパ・フォン・ネッテスハイム : ウラディーミル・ガルージン(テノール)
マテウス・ヴィスマン : ユーリ・ラプチェフ(バス)
メフィストフェレス : コンスタンチン・ブルージュニコフ(テノール)
ヨハン・ファウスト : セルゲイ・アレクサーシキン(バス)
マリインスキー劇場合唱団

ヴァレリー・ゲルギエフ/マリインスキー劇場管弦楽団

PHILIPS/446 078-2




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通りすがり

DVDも出ていますが、ラストはすごい乱交パーティ。
by 通りすがり (2015-08-15 23:37) 

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