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ロシア・アヴァンギャルド、絡み合う「近代」と神秘主義... [before 2005]

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ソチ・オリンピックまで、残すところ2日!
けど、競技はもう明日から... いやー、とにかく楽しみ。競技もさることながら、冬のオリンピックの楽しみは、白い情景!ゲレンデの白、リンクの白、それらを包む雪景色... 冬のオリンピックならではの美しさってあるよなァ。と、思っていたら、ソチの街には、何でも椰子の木が生えているのだとか。そうか、そうだった、ロシアの避寒地、ソチ... そんなことを思い出して、少しガックリする。やっぱり冬のオリンピックは、雪景色の中でやって欲しかったなと。寒いところならいくらでもあるロシアだけに、白い情景が減って、ちょっともどかしい。いや、こういう"奇"なるものを見せてくれるのもまたロシア... 暖かな冬のオリンピックの前代未聞こそ、ソチの醍醐味か...
さて、ロシア音楽を聴くのだけれど、今回はロシア・アヴァンギャルド!多面的なロシアの、際立って個性的な側面を見つめてみる。で、リッカルド・シャイーが率いたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団による、モソロフの鉄工場(DECCA/436 640-2)を聴くのだけれど、ロシア・アヴァンギャルドを象徴する、ロシア音楽切っての奇作を聴いて、ソチ・オリンピックを迎えてみようかなと。

工場の騒音をそのまま採譜して、音楽にまとめたようなモソロフ(1900-70)の鉄工場。ミュージック・コンクレートの先駆けとも言えそうな独特の様相を見せる奇作は、モソロフがボリショイ・バレエのために作曲したバレエ『鋼鉄』(1927)からの一部で、1930年にリエージュで開かれた国際現代音楽祭で取り上げられセンセーションを巻き起こし、モソロフは、一躍、時の人に... いや、今だって十分にセンセーショナルだと思う。ガッツンガッツン、ドッカンドッカン、工場そのもののサウンド・スケープが繰り広げられる強烈なインパクト!これが、当時の時代の空気感だったわけだ。時に破壊的な近代主義... イタリア未来派などは、戦争すら歓迎していた節もあって、まだまだ若々しかった「近代」の暴走のようなものを感じる。だからこそ刺激的であるのだろうけれど...
モソロフの後で取り上げられるのが、1929年、パリで初演されたプロコフィエフ(1891-1953)の3番の交響曲(track.2-5)。見事に鉄工場と同じトーンで始まる1楽章... いや、こういう風につなげたシャイーのセンスが光るのだけれど、ガッツンガッツン、ドッカンドッカンは冒頭の掴みの部分で、その後は、より音楽的な表情と流れを生み出すプロコフィエフ。「近代」が暴走する空気感を巧みに捉えながらも、より不可解で謎めいた音楽を聴かせてくれる。というのも、作曲家の生前には完全な形での初演には至らなかった奇作、オペラ『炎の天使』の素材を用いて編まれた特殊な交響曲であって... 中世ドイツを舞台としたホラー・オペラの不穏さが見事にハイライトされ、交響曲にして独特のテイストを見せる。今、改めて聴いてみると、この独特さに魅了される。ちょっと他には無い感覚かも... ロシア・アヴァンギャルドならではのパワフルさがありつつ、ロマンティックな風情もあって、スクリャービンあたりのロシアの神秘主義に彩られて、「近代」に、そこから生まれる闇のようなものを纏わせて、何かクール。これまで、漠然とオペラの組曲版くらいのイメージでいたのだけれど、ロシアの多面性が器用にひとつの作品に落し込まれていて、こうも魅惑的な作品だったとかと、今さらながらに感心しつつ、惹き込まれてしまう。
1920年代における「アヴァンギャルド」をテーマにしているシャイー、コンセルトヘボウ管。2つの世界大戦に挟まれた、1920年代、特有の、刺激的な気分、ぶちまけられたアヴァンギャルドなキテレツさを、そのまま響かせるのではなく、ぶちまけられたものを丁寧に拾い集めて、1920年代がどんな時代だったかを卒なく見せてゆくシャイー、コンセルトヘボウ管。キレる指揮者と、デキるオーケストラなればこその手堅さに、多少、物足りなさを感じていたのだけれど、改めて聴いてみると、1920年代の音楽の、「近代」とそこに纏わりつく闇をしっかりと捉えていて、やがて訪れるカタストロフ(ホロコーストであったり、原爆であったり、)を予感させる不穏さを浮かび上がらせるようでもあり、印象的。このあたり、名門、コンセルトヘボウ管ならではの落ち着きが利き、ロシア・アヴァンギャルドの爆裂さに潜むミステリアスさが息衝き、深みすら増して、いい味を醸して来る。
ところで、モソロフ、プロコフィエフに続いて、ヴァレーズ(1883-1965)の1927年の作品、アルカナ(track.6)が取り上げられるこのアルバム... ロシア・アヴァンギャルドの後で、フランス生まれのアメリカで活躍した作曲家?と、少し首を傾げるところもあったのだけれど、モソロフ、プロコフィエフの後で聴くアルカナは、思い掛けなくロシアっぽいからおもしろい!1920年代、ニューヨークで"ウルトラ・モダニズム"の旗手として持て囃されたヴァレーズは、スクリャービンの神秘主義をリスペクトし、「近代」でありつつオカルト的な世界を紡ぎ出した鬼才。で、ヴァレーズの抽象性に籠められた、ロシアの得体の知れなさを器用にすくい上げるシャイーの視点が冴えていて... 「近代」とその対極にある神秘主義が絡み合って生まれる奇妙な音楽世界を鮮やかに描き出し、鉄工場、『炎の天使』交響曲という流れの帰結としてアルカナを響かせるのか。こういう流れを探り出したシャイーのセンスに脱帽!いや、大西洋を挿んでの展開が、凄い!

MOSOLOV: ZAVOD/PROKOFIEV: SYMPHONY NO.3
VARÈSE: ARCANA/CHAILLY/ROYAL CONCERTGEBOUW ORCHESTRA


モソロフ : 機械音楽 「鉄工場」 Op.19
プロコフィエフ : 交響曲 第3番 ハ短調 Op.44
ヴァレーズ : アルカナ

リッカルド・シャイー/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

DECCA/436 640-2




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