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素のムソルグスキーを見つめて、『展覧会の絵』。 [before 2005]

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ソチ・オリンピックまで、残すところ5日!
で、迫れば迫るほど問題が出て来る?雪が融けた、工事が終わり切らない、予算がどっかに消えた、政治的アピール禁止(まあ、オリンピックというのはそういうものだけれど... )とかは既定路線だけれど、それだけに留まらず、何かと話題を提供してくれるソチ。おまけに、黒海の対岸、ウクライナでは、反ロシアで盛り上がり過ぎてしまって... オリンピックを前に、踏んだり蹴ったりだよなぁ。の、一方で、選手村に選手たちが到着!なんてニュースを目にすると、オリンピックそのものへの期待も呼び起こされ、この甘辛さが何とも言えないソチ。いや、この感覚こそ、「ロシア」という国を象徴しているような気がする。とにかく、一筋縄では行かない!
そんなロシアの音楽を、今、改めて集中的に聴いてみる3タイトル目、ロシアが誇る名曲を聴いてみようかなと... ムソルグスキーの代表作、組曲『展覧会の絵』のオリジナル・ピアノ版(PHILIPS/420 156-2)を、アルフレッド・ブレンデルのピアノで久々に聴いてみた。

ムソルグスキー(1839-81)が、友人で、画家のヴィクトル・ハルトマン(1834-73)の遺作展(1874)に足を運び、そこで得たインスピレーションを組曲にまとめたのが、組曲『展覧会の絵』(1874)。さて、そのムソルグスキーにインスピレーションを与えたハルトマンの絵を見てみると、かなり拍子抜けしてしまう。定番の、ラヴェルによる見事にオーケストレーションされた『展覧会の絵』のイメージというのは、荘重なプロムナードに始まり、最後のキエフの大門(track.16)の壮麗さもあって、ロシアのアカデミックな歴史画の大作のようなものを思い描いてしまうのだけれど、実際のハルトマンの絵はとてもラフなもので... 例えばキエフの大門ならば、建築家でもあったハルトマンによるパースのようなものだったり、殻を着けた雛のバレエ(track.9)は、バレエの衣装のデザイン画だったり... しかし、改めてオリジナルのピアノ版に戻ってみると、スケッチ的な軽やかさ、その軽やかさが生む瑞々しさを感じ取り、ムソルグスキーが実際に目にした展覧会の絵なのだなと納得させられる。またその瑞々しさに、ドビュッシー(1862-1918)のピアノ作品を予感させるところがあって、ドビュッシーのロシアからの影響というものを改めて印象付けられもし... だからこそ、常にドビュッシーの背中を追っていたラヴェルが、『展覧会の絵』を見事にオーケストラ作品として決定付けるに至ったのか... そんな風に考えてみると、おもしろい。しかし、ラヴェルが想像した絵と、ムソルグスキーが実際に目にしたハルトマンの絵のギャップたるや!そうして見えて来る、ラヴェルがオーケストラというパレットを用いて、自在に膨らませたイマジネーションの豊かさにも驚かされる。
さて、話しを戻しまして、そのオリジナル、ピアノ版を弾いたブレンデル... このマエストロだからこそ、ラヴェルによるオーケストラ版とのギャップはより際立って響くのかもしれない。ブレンデルは、美術に関してもただならず造詣が深いと、どこかで読んだ記憶があるのだけれど、ブレンデルの『展覧会の絵』には、そういう視点を感じ。音楽として捉えるのではなく、ハルトマンの実際の絵を精緻に準えてゆくような、独特のストイックさがある。キエフの大門は、建築のパースで、殻を着けた雛のバレエは、衣装のデザイン画であることに忠実な演奏というのか。ブレンデルならではの明晰かつ渋いタッチが、ハルトマンが引いた繊細な線を淡々と捉えつつ、ロシアならではというのか、薄っすらシニカルな表情を浮かべて、ムソルグスキーの奇妙な世界を味わい深く奏でてゆく。そんな世界に触れていると、如何にムソルグスキーの音楽というものが、後世の作曲家たちによって、派手に修復されていることを思い知らされもする。ムソルグスキーが、きちっとひとつひとつの作品を完成させるに至らなかったという問題点も大きいけれど、ムソルグスキーそのものと向き合って聴こえて来る独特の感触は、「ロシア」というものを印象付けつつ、他のロシア音楽にはちょっと探せないようなセンスを見出し、興味深い。そうした素のムソルグスキーを、冷静に見極めて、着実に捉えようとするブレンデルの鋭さに、今、改めて、脱帽させられる。
というムソルグスキーの後で、リスト(1811-86)が取り上げられるのだけれど、これがまた絶妙... で、リストによる重厚な音楽の方が、よりロシアっぽく聴こえるからおもしろい。が、ここにもブレンデルの鋭い視点が感じられ。まず、王の御旗(track.17)の、テーマとなっている古いフランスの聖歌の趣きが、『展覧会の絵』のプロムナード、キエフの大門に通じるものがあり、そのテーマ自体が似ているようにすら感じられ、おおっ?!となる。続く、『巡礼の年、第3年』からのスルスム・コルダ(track.18)は、ワーグナーを思わせるパルスに支えられ、ロマンティックに盛り上がり... その後で、夕べの鐘(track.)の、訥々と鳴る鐘の音は、ラフマニノフを思い起こさせ... 最後の祈り(track.20)の壮麗さは、プロムナード、キエフの大門に共鳴し、印象的にアルバムを締め括る。『展覧会の絵』の随所から聴こえて来るロシア正教会の鐘の音のモチーフに、「ラ・カンパネッラ」の作曲家をぶつけて来るブレンデルの卒の無さ!また、鐘の音を表現するだろうパルス、トレモロの、ある種の抽象性に、次の時代を予感させる気分を感じ取り。19世紀後半、ロマン主義が沸騰し始めた時代に、プレ・モダンをさり気なくすくい上げるブレンデルのセンスが、渋く光る!

MOUSSORGSKY ・ PICTURES AT AN EXHIBITION
ALFRED BRENDEL

ムソルグスキー : 組曲 『展覧会の絵』 〔オリジナル・ピアノ版〕
リスト : 王の御旗
リスト : 『巡礼の年、第3年』 より スルスム・コルダ
リスト : 『クリスマス・ツリー』 より 夕べの鐘
リスト : 『詩的で宗教的な調べ』 より 祈り

アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)

PHILIPS/420 156-2



『展覧会の絵』、2枚目の絵となる古い城(track.4)は、グリンカの『ルスランとリュドミラ』の舞台美術のデザイン画とのこと... こういうつながりが、おもしろい。




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