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寒い冬にホっと一息、古楽を聴く。 [selection]

大寒は過ぎましたが、まだまだ寒い... いや、寒過ぎる...
迎春だ、初春だと盛り上がっても、未だ、冬、真っ只中!何しろ、冬のオリンピックはこれからだし... となれば、「冬」で盛り上がるしかない!そこで、冬に聴きたいセレクション。春の古典派夏の近代音楽秋のロマン主義と来ての、冬は古楽。いや、何となく、古楽の素朴なサウンドで、この寒い季節、ほっこりできたらいいかな?くらいの思い付きではあるのだけれど。ルネサンスのやわらかなサウンド、中世の不思議なサウンドから、「冬」の景色や、空気感、あるいは気分を見出してみようかなと... そんな、セレクションの試み。
冬、こたつで丸くなりながら、あるいは、キーンと冷えた空気に包まれながら、スローな魅力を放つ、時にマジカルでもある古楽を、ひっそりと聴いてみる。そんな、10タイトル...

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普段、何気に、「古楽」という言葉を使ってしまうのだけれど、その言葉が定義する範囲というのは、思いの外、アバウトだったりする。モーツァルトも、古楽器を用いれば、「古楽」になってしまう?いや、古い音楽に限定されるべき?で、その古い音楽というのは、どこからが古いと言えるのか?バロックは含むのか?ルネサンスから遡るのか?中世こそが古楽か?改めて「古楽」という言葉に向き合うと、何だかよくわからなくなって来る。ということで、当blogとしましては、古楽器による演奏は"ピリオド"とし、ルネサンスから中世、さらにそれ以前を"古楽"としているのですが... それにしても、「古楽」に含まれる時間的な長さは尋常じゃない... クラシックの片隅にあるようでいて、時間軸においては、「古楽」こそ最も幅を取っているという事実!だから、「古楽」をひとつのイメージ、例えば、「冬」なんて、ひとつの季節で捉えることは難しいのだけれど... 強引にやってしまうセレクション...

最初は、ルネサンス・ポリフォニーから... ペレス+アンサンブル・オルガヌムによるディヴィティスとフェヴァンによるレクイエム(æon/AECD 1216)。美しいルネサンス・ポリフォニーを、地声もいとわないアンサンブル・オルガヌムが歌い上げるとどうなるか?キワモノかと思いきや、これが驚くほど温かな仕上がりで... 地声が生むやさしさは、幾分、冷たく感じられたルネサンス・ポリフォニーの世界を、大地に根差した音楽に変容させ、その懐の大きなサウンドで聴く者を得も言えぬ温もりを以って包み、まさにオーガニック!いや、こういう姿勢こそ、「古楽」な気がする。で、深く癒されてしまう... それから、ルネサンス・ポリフォニーの到来を告げる、ピッツ+トーヌス・ペレグリヌスによるダンスタブルのミサとモテット集、"Sweet Harmony"(NAXOS/8.557341)。中世の朴訥さを残しながらも、ルネサンスならではのやわらかな音楽に至ったダンスタブルの音楽。まだわずかに残る中世の臭いというのが、ルネサンス・ポリフォニーに人懐っこい表情を生み、何だかラヴリー。後に続くフランドル楽派の壮麗さとは一味違う、素直さと、絶妙にスウィートなあたりが、ほのぼのとしていて、ハッピーにしてくれる。
さて、声から楽器に視点を移しまして... ルネサンスのマルチ・クリエイター、レオナルド・ダ・ヴィンチは、すばらしいリュート奏者だった!という、ロナルディのリュートによる"La Musica a Milano al tempo di LEONARDO DA VINCI"(LA BOTTEGA DISCANTICA/DISCANTICA 103)。ロナルディの味わい深いリュートと、フスコのやわらかなソプラノが、得も言えない親密な空気感を生み出していて、壮麗なフランドル楽派とは違う、静かな時間が流れてゆくあたりが心地いい... しかし、リュートの響きは魅力的!普段、あまり聴かないからだろうか?アルカイックでありながら、現代的なものも感じ、独特の存在感がある。で、そんなリュートが束になって響いたら?という、デュメストル+ル・ポエ・ムルモニークの"Love is Strange"(Alpha/Alpha 081)。楚々としていながら、ヴィヴィットでもあるという、リュート・コンソートの不思議な感触は、たまらないものがある。まるで、澄み切った冬の夜空に浮かぶ満点の星々が、軽やかに踊り出すような、ファンタジックな気分に溢れている。

古楽のおもしろいところは、時としてクラシックのイメージを軽々と乗り越えてしまうようなところ... これまで体験したことのないようなサウンドに出くわして、ハっとさせられて、異次元に連れ去られるような感覚を味わうところ... で、そんな音楽、ポップ+VocaMeが歌う、ビザンツ帝国の修道女、カッシアのビザンティン聖歌集(CHRISTOPHORUS/CHR 77308)。ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(1098-1179)よりもさらに遡って、9世紀、ギリシアに生きたカッシアの音楽というのは、仄かな東方的なトーンを漂わせつつ、鮮やかにアルカイックでありながら、突き抜けた瑞々しさを湛えて、アンビエント... そんな音楽に包まれていると、まったく不思議な気分にさせられてマジカル!いや、中世でありながら、とても現代的にも思えて来るからおもしろい。そもそも、時代を遡り過ぎると、あまりに遠過ぎて、古いのか新しいのかよくわからなくなるような感覚がある。そうしたあたりを美しく繰り広げる、トルヴェ+ヴォクス・クラマンティスの"Filia Sion"(ECM NEW SERIES/476 4499)。グレゴリオ聖歌を中心に、ヒルデガルト・フォン・ビンゲンや、ゴシック期の音楽を差し挟み、中世ならではのアンビエントさをリリカルに響かせて、ただならず美しい... で、この美しさ、時代を超越していて、やっぱり不思議...
ここで、さらにさらに時代を遡って、古代ギリシア!アンサンブル・メルポメンによる、"MELPOMEN"(harmonia mundi FRANCE/HMC 905263)。さて、ここで奏でられているものが、どこまで実際の古代ギリシアに迫れているのかは、タイム・マシーンが無いとわからないのだけれど、それでも、そこから流れ出てくる音楽のイニシエ感に圧倒されてしまう。素朴で、謎めいていて、どういうわけか懐かしい!不思議な音楽... そもそも音楽とは不思議なものなのかもしれない... そして、もうひとつ、イニシエ感で圧倒して来るのが、レーヌ+アラ・フランチェスカによる、中世版、『トリスタンとイゾルデ』、"Tristan et Yseut"(Zig-Zag Territoires/ZZT 051002)。かのワーグナーが後に楽劇とする中世の物語を、中世に歌われた詩から再構成した興味深い音楽物語... 粗削りな中世が剥き出しで響く音楽に彩られながら、そこに深い癒しが籠められていて、ただならず圧倒されてしまう不思議さ... 中世のプリミティヴさが、洗練され豪華に飾られたワーグナーに負けない存在感を漂わす。
一方で、中世のプリミティヴさが、絶妙にファンタジックに展開する、おもしろい物語... ライオンズ+デュファイ・コレクティヴによる、中世のオペラとも言われる典礼劇、『ダニエル劇』(harmonia mundi/HMU 907479)。旧約聖書に綴られた預言者ダニエルをめぐるミラクル... それを、イマジネーション豊かに描き出すデュファイ・コレクティヴの妙!聖書だからといってけして辛気臭くない... というより、スペクタキュラーな旧約聖書の魅力を見事に音楽にし、何だか絵本を読み聞かされるようでもあり、ワクワクさせられる。

そして、最後は、ショル(カウンターテナー)が歌う、"English Folksongs & Lute Songs"(harmonia mundi FRANCE/HMC 901603)。古楽のフレキシブルさと、だからこその瑞々しく雄弁である様を、これ以上なく感じられるアルバム... クラシック云々、古楽云々ではない、ただそこにある音楽、歌うことと真摯に向き合って生まれるピュアな音楽は得も言えず伸びやかで美しく、何より、聴く者に何とも言えず訴え掛けて来るものがある。リュート・ソングとフォーク・ソング、という興味深い視点もありつつの、スローな音楽の魅力は、この寒い季節に、ポっと温かな灯を点すよう。




タグ:古楽
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