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ダンス、イン・ザ・ハンガリー! [before 2005]

さて、ウィンナー・ワルツの勢いに乗って、もう少しダンス!
でもって、ウィーンからさらに東へ、ハンガリーへ... 19世紀、ウィーンの音楽を味わい深いものにしているのは、やはり、ハプスブルク帝国の東への広がりだと思う。多民族国家ならではのカクテル感と、ヨーロッパの中心から外れ、西欧の音楽とは一味違うローカルな温もりが程好く漂い人懐っこく、また魅惑的なものにしている。そして、ウィンナー・ワルツの時代、斜陽のオーストリアの一方で、中世以来の輝きを取り戻し始めるハンガリー... やがて、オーストリア・ハンガリー帝国の成立(1867)へと至り。そうした政治的な動きに呼応するかのように、音楽の世界でもまた、「ハンガリー風」は注目され、クラシックに欠かせないレパートリーが生まれる。
ハンガリー狂詩曲とハンガリー舞曲... イヴァン・フィッシャー率いる、ブダペスト祝祭管弦楽団の、この上なく"メイド・イン・ハンガリー"な演奏で、リストのハンガリー狂詩曲、全6曲(PHILIPS/456 570-2)と、ブラームスのハンガリー舞曲、全21曲(PHILIPS/462 589-2)を聴く。


"メイド・イン・ハンガリー"で、エンターテイメント!ハンガリー狂詩曲。

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リストは、自身をハンガリー人だと自認していた。が、ハンガリーで生まれ(父、アダムは、かのエステルハージ侯爵家に仕えていた!)、ハンガリーで育ったものの、ドイツ系であるリスト家... リストはハンガリー語を話せなかった。このあたりが、ハプスブルク帝国の民族構成の複雑さを垣間見る。そして、11歳でウィーン音楽院に入学、早くもハンガリーを離れ、やがて広くヨーロッパへと羽ばたくことになるわけだ。となると、リストにおけるハンガリー性というのは、極めて希薄のようにも思う。一方で、カリスマとして、インターナショナルに大活躍するようになって、かえって生まれ故郷のハンガリーの存在は、リストのアイデンティティの内に際立って行ったのかもしれない。そうした結晶としてのハンガリー狂詩曲... ピアノ作品として1853年に15曲が発表され、後に4曲が追加(1882-85)され、そこから6曲がオーケストレーションされ、ここで聴く、6つのハンガリー狂詩曲となった。
そんな作品を、徹底して"メイド・イン・ハンガリー"で響かせる、イヴァン・フィッシャー+ブダペスト祝祭管!1番の冒頭から、哀愁こぼれ出すツィンバロンの響きが印象的で、聴き知ったお馴染みのレパートリーを、一気に「ハンガリー」というエスニックに染め上げて来る。音楽史において、リストという存在は、ドイツ・ロマン主義の全盛期を担った作曲家というイメージがあるのだけれど、改めてブダペスト祝祭管の演奏でハンガリー狂詩曲に触れてみると、国民楽派的なトーンを強く感じずにはいられない。キャッチーな「ハンガリー風」の魅力を越えて、音楽の芯からハンガリーの魂で以って奏でてみると、リストのハンガリー性が濃縮されるのか?ハンガリーの広大な平原を思わせる重々しい響き、そこを疾駆してゆく馬の群れを思わせる軽やかなリズム、そして西欧から遠く東へやって来たローカルな素朴さ。ハンガリー狂詩曲に籠められているハンガリー性が徹底してホットに強調されて生まれる独特の感覚は、クラシックであるよりもシンフォニック・フォークロワといった様相を呈して、新鮮!
これができるのも(あるいは許されるのも... )、ハンガリー人の指揮者、ハンガリーのオーケストラならでは... で、またヤリ切るだけの度胸と技量が伴ってこそのもの... ハンガリー人の伊達っぷりというか、騎馬民族にルーツを持つ自由さとでもいうのか、リストに対して臆することの無い大胆さに脱帽。でもって、ソリスト級が結集した凄腕揃いのブダペスト祝祭管だけに、隅々まで精緻!そこから、希代のヴィルトゥオーゾ、リストが繰り出した超絶技巧が、オーケストラに置き換わって繰り出される冴え渡る音楽に、19世紀のエンターテイメントとしての音楽の楽しみを味わい尽くすよう。いや、見事!

LISZT 6 HUNGARIAN RHAPSODIES
BUDAPEST FESTIVAL ORCHESTRA - IVÁN FISCHER


リスト : ハンガリー狂詩曲 第1番 ヘ短調 〔オーケストレーション : リスト/ドップラー〕
リスト : ハンガリー狂詩曲 第2番 ニ短調 〔オーケストレーション : ドップラー〕
リスト : ハンガリー狂詩曲 第3番 ニ長調 〔オーケストレーション : リスト/ドップラー〕
リスト : ハンガリー狂詩曲 第4番 ニ短調 〔オーケストレーション : リスト〕
リスト : ハンガリー狂詩曲 第5番 ホ短調 〔オーケストレーション : リスト〕
リスト : ハンガリー狂詩曲 第6番 ニ長調 〔オーケストレーション : リスト〕

イヴァン・フィッシャー/ブダペスト祝祭管弦楽団
ミクローシュ・ルカーチ(ツィンバロン)、シャーンドル・クティ(ツィンバロン)

PHILIPS/456 570-2




"メイド・イン・ハンガリー"の、一曲入魂、ハンガリー舞曲!

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ベートーヴェンの受け継ぐシンフォニストとして古典主義を標榜し、またバッハの昔に帰ろうとする復古主義者でもあり、アカデミックな印象を強く受けるブラームス。一方で、ここで聴くハンガリー舞曲に代表されるような、フォークロワの要素を取り入れて、メローでキャッチーな音楽を繰り広げることにもやぶさかではない。そうした姿勢が、東欧の作曲家たちを刺激し、国民楽派への端緒を開く存在でもあり、このフォークロワへの眼差しこそが、ロマン主義そのものでもあって... アカデミックな古典的指向と、キャッチーでメローな同時代性(19世紀における... )が混在するブラームスの音楽は、一筋縄では行かないように思う(実は、そこが苦手... )。
そんなブラームスの音楽を、徹底して"メイド・イン・ハンガリー"で仕分けてくれる、イヴァン・フィッシャー+ブダペスト祝祭管。そのスタンスは、リストのハンガリー狂詩曲と変わらないものの、より自由(21曲中、7曲をイヴァン・フィッシャー自身がオーケストレーションしていたり... )に取り組んでいて、ある意味、「ブラームス」からも自由になってしまうような、独特の聴き応えをもたらす。まず、始まりの1番からして、ただならない。濃厚に東欧的にロマンティックなメロディを、弦楽器がたっぷりと歌い上げて、思い掛けなく深く、そして渋い表情で決めて来る。それは、リストのハンガリー狂詩曲の、エンターテイメントなサウンドの後で聴くと余計に際立って、ゾクゾクさせられる。一方で、ツィンバロンやジプシー・ヴァイオリンを絶妙にトッピングして、コンサート・ホールでのハンガリー舞曲ではなく、ダンス・ホールでのハンガリー舞曲を思わせ、味のある場末感を醸して見事!定番の5番(track.5)なんて、もう最高!で、これもまた、ブラームスの一筋縄では行かないあたりだろうか... 味のある場末感も醸し得る可能性を秘めたブラームスの音楽のフレキシビリティに、改めて興味深いものを覚えてしまう。
しかし、気持ちいいくらいにヤってくれている、イヴァン・フィッシャー+ブダペスト祝祭管!大丈夫かァ?!ってくらいにブラームスを弄り倒しながらも、絶対に壊さず、ブラームスの内からハンガリーの臭いを巧みに抽出し、増幅させ、揺るぎなく"メイド・イン・ハンガリー"をマーキングして来る大胆さ!海千山千でヤっているようで、よくよく聴けば、慎重に1曲、1曲と向き合い、それぞれに何ができるかを丁寧に探り、最高のハンガリーを響かせようとしていることも感じられる。さらに、全21曲、一曲入魂といった気迫すら漲っていて、西欧視点の「ハンガリー風」を、今一度、真のハンガリーに取り戻そうとするようでもあり、数多あるハンガリー舞曲のアルバムの中でも、際立って、力の入った演奏が繰り広げられて、刺激的!

BRAHMS HUNGARIAN DANCES BUDAPEST FESTIVAL ORCHESTRA FISCHER

ブラームス : ハンガリー舞曲 第1番 ト短調 〔オーケストレーション : ブラームス〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第2番 ニ短調 〔オーケストレーション : フィッシャー〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第3番 ヘ長調 〔オーケストレーション : ブラームス〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第4番 嬰ヘ短調 〔オーケストレーション : フィッシャー〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第5番 ト短調 〔オーケストレーション : フィッシャー〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第6番 ニ長調 〔オーケストレーション : パーロウ〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第7番 イ長調 〔オーケストレーション : フィッシャー〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第8番 イ短調 〔オーケストレーション : ショルム〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第9番 ホ短調 〔オーケストレーション : ショルム〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第10番 ヘ長調 〔オーケストレーション : ブラームス〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第11番 ニ短調 〔オーケストレーション : フィッシャー〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第12番 ニ短調 〔オーケストレーション : フィッシャー〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第13番 ニ長調 〔オーケストレーション : フィッシャー〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第14番 ニ短調 〔オーケストレーション : フィッシャー〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第15番 変ロ長調 〔オーケストレーション : ヒダシュ〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第16番 ヘ短調 〔オーケストレーション : パーロウ〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第17番 嬰ヘ短調 〔オーケストレーション : ヒダシュ〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第18番 ニ長調 〔オーケストレーション : ヒダシュ〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第19番 ロ短調 〔オーケストレーション : ドヴォルザーク〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第20番 ホ短調 〔オーケストレーション : ドヴォルザーク〕
ブラームス : ハンガリー舞曲 第21番 ホ短調 〔オーケストレーション : ドヴォルザーク〕

イヴァン・フィッシャー/ブダペスト祝祭管弦楽団
ヨージェフ・レンドヴァイ Jr(ヴァイオリン)
ヨージェフ"チョーチ"・レンドヴァイ Sr(ジプシー・ヴァイオリン)
ウクルシュ・オスカール(ツィンバロン)

PHILIPS/462 589-2




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