SSブログ

時間よ止まれ!20世紀、ロマン主義は未だ美しかった。 [before 2005]

さてさて、2013年も、押し迫って参りました。
で、やっぱり、あっと言う間だった、12月。焦る暇すら無く、今日に至っていることに、何だか衝撃を受けております。そもそも、2013年があっという間だったなと... さて、11月から思い付きで始めた音楽史を復習う旅... きっちりと遡って、じっくりと下って来て、年が改まる前に、一区切り付けようかなと。そして、最後は1910年代のロマン主義。勃興する近代音楽を向こうに回して、最後の輝きを放った、ロマン主義の興味深さ!
デイヴィッド・ジンマン率いる、チューリヒ・トーンハレ管弦楽団の演奏で、リヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲(ARTE NOVA/74321 92779 2)。ヒラリー・ハーンのヴァイオリン、コリン・デイヴィスの指揮、ロンドン交響楽団による、エルガーのヴァイオリン協奏曲(Deutsche Grammophon/474 5042)。ジェイムズ・レヴァインの指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、シベリウスの4番と5番の交響曲(Deutsche Grammophon/445 865-2)、1910年代のロマン主義を聴く。


引き返してロマン主義... リヒャルト・シュトラウス、1915年、アルプス交響曲。

74321927792.jpg
『サロメ』(1905)、『エレクトラ』(1909)と、最先端を走って来たリヒャルト・シュトラウス(1864-1949)が、1910年代に入り、『ばらの騎士』(1911)で、大きく過去へと引き返す。『春祭』(1913)が誕生した時代を俯瞰し、そこからリヒャルトの存在を改めて見つめると、もの凄く興味深いものを感じる。過去への後退は、「近代」という時代において、白旗を上げるようなものだろうけれど、ポスト・モダンの慣れ果てを生きる我々からすると、何か、リヒャルトの態度に、勇気すら見出せそうな思いがする(とか言うと、何だか右向きな、今風な発言っぽくて、能が無いようでイヤなのだけれど... )。過去への回帰、というより、過去への憧憬を綴る『ばら... 』以後のリヒャルトの音楽というのは、時間の感覚が消失して、「近代」という時間の先端を走り続けなくてはいけないという呪いを振り払った、新たな次元の音楽のように感じる。で、1915年、アルプス交響曲を聴くのだけれど...
「近代」の彼岸にある音楽?それは、思い掛けなく見つけた、アンティークのアルプスの絵葉書のようで。19世紀の音楽とは違う、19世紀風の音楽に、何だか懐かしさが漂い... アンティークの絵葉書を手に取って見つめると、今度は、瑞々しく、その風景が広がり、その当時のアルプスの、爽やかで、清冽でもあって、それでいて雄大な風景に包まれて、得も言えない感動を味わう。交響曲とはなっているが、リヒャルトお得意の交響詩的な、楽章で断ち切られることなく、一気に描かれて行くその風景は、詳細に情景を描き込んでいて、どこか映画的。アンティークな「総天然色」が謳われた時代の映画を見るような、独特の瑞々しさを放つ。
また、そうしたアルプス交響曲の性格を際立たせる、ジンマン+チューリヒ・トーンハレ管の演奏があって... 19世紀、ロマン主義の回顧でありながらも、視点は常に現代的。ジンマンは、リヒャルトならではのたくさんの音を綺麗に捌き切り、油彩で分厚く描かれた19世紀の風景画ではなく、ありのままをクリアに捉えた映像的な音楽を響かせる。そうして、生まれる軽やかさと、よりスムーズな流れ。リヒャルトの音楽をステレオ・タイプから解き放ち、現代の聴き手に聴き易さをもたらしてくれるのか。久々にアルプス交響曲を聴いたのだけれど、何だかスルスルっと聴けて、大いに魅了されてしまう!

Richard Strauss: Eine Alpensinfonie ・ Festliches Präludium

リヒャルト・シュトラウス : アルプス交響曲 Op.64
リヒャルト・シュトラウス : 祝典前奏曲 Op.61

デイヴィッド・ジンマン/チューリヒ・トーンハレ管弦楽団

ARTE NOVA/74321 92779 2




貫かれるロマン主義... エルガー、1910年、ヴァイオリン協奏曲。

4745042
さて、アルプス交響曲から5年を遡って、イギリス... 1910年、ロンドン、クライスラーのヴァイオリンで初演(いやー、何か、豪華!)された、エルガーのヴァイオリン協奏曲。リヒャルトの後にこの長大なコンチェルトを聴くと、エルガーの19世紀的な性格がむせ返るほどに充満していて、クラクラして来る。いや、こんなにも!だったか?と、ちょっと驚いてしまう。リヒャルト(1864-1949)の7つ年上になるエルガー(1857-1934)、リヒャルト同様に19世紀後半のロマン主義の中で成長して来たわけだけれど、ドーバー海峡を渡った先のイギリスの辺境性というのか、良くも悪くもロマン主義の伝統が折り目正しく保存されていたのだろうなと... リヒャルトとは明らかに異なる、滴るように19世紀、ロマン主義が繰り広げられる序奏から、何だか面喰ってしまった。
が、その堂々たる音楽!大陸では、ロマン主義から近代主義へと移行が始まりつつある中、どこ吹く風と貫かれるオールド・ファッションが、かえって風格となり、何だか圧倒されてしまう。真正面から雄弁なロマン主義が紡がれて生まれる気高さ... 1910年代における近代音楽のセンセーショナリズムの対極にあって、揺ぎ無い説得力を放つそのサウンドに捉えられてしまうと、何だか逃れようがないような、そんな思いにさせられる。一方で、終楽章(track.3)では、イギリスならではのポップ性が滲み、そのあたりが現代的なスパイスとなって、最後の最後で濃厚なロマンティシズムを少し違ったものへと変容させるのか... ヴィヴィットな音楽を繰り広げて、クール!というエルガーのヴァイオリン協奏曲を、実直に、思い掛けなく渋く奏でる、ハーンのヴァイオリン。彼女の可憐の容姿とは裏腹に、凛として落ち着いた響きが、とても印象的。イギリス音楽の本家とも言うべき、デイヴィス指揮、ロンドン響の演奏も、19世紀的な豊潤さをたっぷりと響かせて、エルガーの見事。
そこから、一転、ただならずリリカルなヴォーン・ウィリアムズの揚ひばり(track.4)!エルガーのコンチェルトからちょうど10年後、1920年に完成した作品は、イギリス音楽ならではの圧倒的な瑞々しさと、どことなく東アジアの感性に通じるような、おぼろげな佇まいを見せて... ひばりが飛ぶ姿を、ターナーが一幅の掛け軸に描いたならば... そんなイメージが思い浮かぶ。大陸とは違うイギリス音楽が持つ特有の感性を感じつつ、繊細なハーンのヴァイオリンが映え、その伸びやかな美しさに、息を呑む...

ELGAR: VIOLIN CONCERTO ・ VAUGHAN WILLIAMS: THE LARK
HAHN ・ LONDON SYMPHONY ORCHESTRA ・ DAVIS


エルガー : ヴァイオリン協奏曲 ロ短調 Op.61
ヴォーン・ウィリアムズ : 揚げひばり

ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)
コリン・デイヴィス/ロンドン交響楽団

Deutsche Grammophon/474 5042




苦悶し進化するロマン主義... シベリウス、1911年、4番、1915年、5番の交響曲。

4458652
19世紀、ロマン主義の伝統と、20世紀、近代音楽の革新が混在する1910年代。改めて俯瞰してみると、その多様性に驚かされる。単に新旧という構図だけではない広がりがあって... 「新」ならばともかく、「旧」に関しても、それぞれに伝統を進化させ、新たな境地へと至っているおもしろさ!そうした中、異彩を放つシベリウス。個性際立つモダニストたちの音楽と対峙しても、そのロマンティックにして、伝統を象徴する「交響曲」という形で書かれた音楽は、独特な存在感とインパクトを放つ。そして、1911年に作曲された4番と、1915年に作曲された5番の交響曲... アンチ・モダンの結晶の、時代を超越した輝きに、大いに惹き込まれる!
まずは、4番(track.1-4)。シベリウスが喉の病で苦悩していた頃の作品... いや、喉ばかりでなく、近代音楽が押し寄せる中、音楽そのものに対する在り方に苦悶し始めるシベリウスの心象をそのまま音楽にしたような、仄暗く悲痛な交響曲。ただひたすらに切なくなって来るようなその仄暗さが生み出す美しさは、まさにロマンティックで、深く、深く... 改めて聴いてみると、何だかヤミツキになりそう... シベリウスのナイーヴさをたっぷりと味わった後で、5番(track.5-8)は、シベリウスの50歳を祝うコンサートのために作曲されただけに、晴れがましい。いや、そういう人間臭いイヴェントを越えて、フィンランドの雄大な自然をそのまま音楽で活写してゆくような、圧倒的な風景を見せてくれるようで... その風景を構成する音の連なりというのは、実はどこか抽象的でもあり、終楽章(track.8)のトレモロで疾走する感覚は、ミニマリズムのパルスへとつながってゆくようで、ジョン・アダムズを聴く感覚すらある。そう言う点で、やはりシベリウスも、時間の感覚が消失した音楽と言えるのかもしれない。
それにしても、シベリウスはクール!で、それを可能な限り際立たせる、レヴァインのアメリカンな感性と、ベルリン・フィルならではのスーパー・サウンド!下手な雰囲気に一切流されることなく、ロマン主義であるということすら忘れてしまうようで、シベリウスの音だけを見つめ、ありのままをフル・スロットルで輝かせる。何気にポップなレヴァインの音楽性と、ベルリン・フィルの気持ちいいぐらいに鳴る高機能性が、最高の相性を見せて、クラシック云々を越えたカッコいい音楽を展開する!

SIBELIUS: SYMPHONIEN NOS.4 & 5
BERLINER PHILHARMONIKER/LEVINE


シベリウス : 交響曲 第4番 イ短調 Op.63
シベリウス : 交響曲 第5番 変ホ長調 Op.82

ジェイムズ・レヴァイン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

Deutsche Grammophon/445 865-2




nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。