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ロシアからフランスへ、ドビュッシーの中のロシア... [before 2005]

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チャイコフスキーストラヴィンスキー、スクリャービン、ロシアが続きました。
寒いからか?ソチが近いからか?しかし、改めてロシア音楽を、"ロシア"の音楽として聴くと、実に興味深い。で、そういう個性を生み出した"ロシア"そのものに、ただならず興味を覚える。これは、音楽に限らず、ロシア文学の奥深さ、リアリズムを極めるかと思えば、色彩への鋭い感性を見せる絵画、やがて全てを超越し、西欧の伝統を破壊したロシア・アヴァンギャルド... 既存の価値観の破壊という点では、世界初の共産主義社会を到来させたことに帰結するのか... そんな、奥深さから破壊まで、この振幅の幅が本当に凄い。ヨーロッパの東端であるからこその、アジアと直接的に接して育まれた西欧にはない感性の広がりが、西欧の枠に留まっていた西欧の文化に、真の近代主義を目覚めさせた"ロシア"という存在が、近頃、とても気になる。
というあたりは、さて置き、ストラヴィンスキーの『春祭』に続いての1910年代の音楽... その『春祭』のすぐ傍にあった、ドビュッシーの最後の3つのソナタ... クイケン・ファミリー、ピリオド楽器によるアンサンブルで、ドビュッシーの室内楽作品集(ARCANA/A 303)を聴く。

ドビュッシー(1862-1918)のキャリアの始まりに、ロシアという場所があったことを見過ごしがちなのかもしれない... まだパリのコンセルヴァトワールの学生だった頃、夏休みの間、チャイコフスキーのパトロンとして知られるフォン・メック夫人のピアニストとして、ロシアはもちろん、ヨーロッパ中を旅している(今で言うなら、iPodを持ち歩く感覚なのだろうか?まだまだ駆け出しとはいえ、ドビュッシーをiPodにしていたフォン・メック夫人、19世紀のブルジョワジーって、オーチン・スゲェー!)。そうして、いち早くロシア音楽に触れ、ワーグナーよりも先にムソルグスキーの影響を受けていたことが、実に興味深い。ドビュッシーの印象主義には、ムソルグスキーのフォーヴでマッドな下地があって、その上にワグネリズムが塗り重ねられ... やがて、そこから反発することで次の次元へと進化し、近代音楽の扉を叩いたわけだ。そして、そこに覗かせる、深くミステリアスな情景(『ペレアス... 』とか... )、自然が放つバーバリスティックな表情(『海』とか... )、抽象へと踏み込むようなサイケデリックさ(『遊戯』とか... )には、ムソルグスキーと、そのこどもたち、ロシア・アヴァンギャルドのDNAが隠れているのかもしれない。ドビュッシーとロシアのつながりを見つめると、近代音楽の展開は、より広大で刺激的なものに思えて来る。
さて、ピリオドの名門、クイケン家の一族による、ピリオド・アプローチのドビュッシーの室内楽作品集。弦楽四重奏曲(track.1-4)に始まり、フルート独奏のシランクス(track.5)、ドビュッシー、最後の3つのソナタ、チェロ・ソナタ(track.6, 7)、フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ(track.8-10)、ヴァイオリン・ソナタ(track.11-13)を聴くのだけれど... 何か、「ロシア」を感じてしまう。チャイコフスキーからストラヴィンスキー、スクリャービンと、ロシア音楽を聴いて来たからだろうか?ピリオド・アプローチによる普段よりも深い音色が、ドビュッシーの音楽の下地にまで下りてゆき、その若き日の遠い記憶を掘り起こし、そこはかとなしにロシアを響かせるようで印象的。弦楽四重奏曲(track.1-4)の、ヴィブラートを抑えて、克明に浮かび上がるドビュッシーの引いた4声のラインの雄弁さ!3楽章、アンダンティーノ(track.3)のメローなあたりは、ピリオドの渋さがフォークロワな雰囲気、東欧的な気分をより濃くして、味わい深い。で、ヴァイオリン・ソナタの終楽章(track.13)では、有名なロシア民謡(ベートーヴェンのラズモフスキーの2番とか、『ボリス・ゴドゥノフ』とか、リムスキー・コルサコフ、ラフマニノフなども用いた... )が聴こえる?で、ハっとさせられる... ドビュッシー、最後の作品に、若き日のロシアの記憶が、一瞬、蘇ったような... そんな風に思うと、ちょっと切なくなる。いや、ドビュッシーにこうもロシアを見出すかと、新鮮...
もちろん、フランス、印象主義を代表する作曲家、瑞々しく色彩は躍り、エスプリを燻らせ、ダンディズムも漂う、その特有の音楽世界にも魅了される。また、そうしたステレオ・タイプも際立たせる、クイケン・ファミリー... 特に、ヴィーラントのチェロ・ソナタ(track.6, 7)の渋くも鮮やかな響きにはただただ魅了され。それから、バルトルドのフルート、アランクのハープ、シギスヴァルトのヴィオラによる、フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ(track.8-10)の響きの美しさには、息を呑む!ドビュッシーのトーンへの鋭敏な感性を見事に響かせるクラリティの高い演奏は、ただただ聴き入ってしまう。で、忘れてならないのが、ヴァイオリンとチェロのソナタでピアノを弾く、ピート!ピリオドのピアノの風合を大切に、派手に鳴らすことなく、楚々と在って存在感を示すタッチ。クイケン家のこどもたち世代にも、すばらしい才能がいることを示す好演!が、何より「ファミリー」であることの強み!互いを信頼し切って、手堅く編み上げられてゆくアンサンブルの密度たるや... そういう次元に至って、かえって演奏の存在感がスーっと後ろに引け、よりドビュッシーの音楽に集中できる環境を整えられるようでもあり、ピリオド云々を越えた聴き応えが、不思議なインパクトをもたらす。いや、久々に聴いてみると、ドビュッシーそのものに、様々な発見をし、刺激的ですらあって、ワクワクさせられる。

DEBUSSY ・ LA MUSIQUE DE CHAMBRE
LA FAMILLE KUIJKEN

ドビュッシー : 弦楽四重奏曲 Op.10
ドビュッシー : シランクス 〔無伴奏フルートのための〕
ドビュッシー : チェロ・ソナタ
ドビュッシー : フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ
ドビュッシー : ヴァイオリン・ソナタ

シギスヴァルト・クイケン(ヴァイオリン/ヴィオラ)
ヴェロニカ・クイケン(ヴァイオリン)
サラ・クイケン(ヴィオラ)
ヴィーラント・クイケン(チェロ)
ソフィー・アランク(ハープ : 1926年製、エラール)
バルトルド・クイケン(フルート : 1910年製、ボヌヴィル)
ピート・クイケン(ピアノ : 1894年製、エラール)

ARCANA/A 303




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