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美しきエレーヌからガラテアへ... パリの喧騒とウィーンの温もり... [before 2005]

ホームセンターに足を運んだら、もう"年の瀬"フェス!みたいな...
クリスマス・ツリーで森のようになっているし、光るサンタに、電飾各種、リースに、ポインセチアだのが並びつつ、その隣りに正月飾りがあって、鏡餅がピラミッドのように積まれ、しめ縄だの、松飾りだのが、めでたいものがズラーっと... それはそれは、もうお祭りのような有り様でして、ちょっと、テンション上がってしまった。それにしても、このごった煮感というか、見境の無さというか、年の瀬の狂騒の楽しさ!極めてニッポン的な気がして、酉の市などのDNAは、ホームセンターにも受け継がれている気がして、つくづく日本は日本だと感じた。
さて、そういった"年の瀬"は、日本に限らずか?西欧のオペラハウスでは、オペレッタは、年末年始の風物詩... ということで、ヴェルディがロシアを訪れていた頃、1860年代、パリとウィーンを沸かせた楽しいオペラ!マルク・ミンコフスキ率いる、レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの演奏で、フェリシティ・ロット(ソプラノ)のトンデモ・マダムっぷりが炸裂する、1864年、パリで初演された、オッフェンバックのオペラ・ブッフ『美しきエレーヌ』(Virgin CLASSICS/5 45477 2)。ブルーノ・ヴァイルの指揮、カペラ・コロニエンシスの演奏で、エレオノール・マルゲール(ソプラノ)が、元彫像のトンデモ美女をキュートに歌う、1863年、ベルリンで初演された、スッペのオペレッタ『美しきガラテア』(CAPRICCIO/60134)を聴く。


1864年、パリ、ヴァリエテ座。鋭く毒も含んで、オッフェンバック、『美しきエレーヌ』!

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トロイ戦争の前日談を、1860年代、フランス第二帝政期の世相と巧みに重ね合わせて、風刺を効かせ毒づいて、しょうもないドタバタを鮮やかに繰り広げる、オッフェンバックの『美しきエレーヌ』。モンテヴェルディの『ウリッセの帰還』から、モーツァルトの『イドメネオ』、リヒャルト・シュトラウスの『エレクトラ』まで、多くのオペラに題材を与えたトロイ戦争の悲劇とその後の苦難の始まりに、しょうもない"笑い"を持って来てしまったオッフェンバックの洒脱さ!で、「しょうもない」を見事に創り上げるオッフェンバックのセンス!浮気な王妃がふらふらしている姿に、抜け目ないお坊ちゃまっぷりを炸裂させる隣国の王子、それに翻弄される情けない王様たち... 旧時代のオペラ・セリアのカリカチュアか?セレヴたちのグダグダ感に大いに笑わされつつ、1幕で夫が旅立ち、2幕で間男が追い出され、3幕で王妃が仕方なく旅立つ、3つの旅立ちで幕切れになる絶妙な展開のテンポの良さ。一方で、古代ギリシアの古典を器用に利用し、爆笑の裏に知的なゲームが見え隠れし、オペラとしてこれほど水際立った作品は無いんじゃないかとすら思えて来る。いや、ヴェルディやワーグナーばかりがオペラじゃない!
そんな作品を、これ以上ないほどに息衝かせるミンコフスキ!まさに、彼の真骨頂... レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルから引き出されるパリっとしたサウンドが、パリっ子たちを大いに沸かせた"笑い"を鮮やかに描き出し、クラシックの辛気臭さなんて微塵も感じさせず、高尚さよりもコミカルであることに焦点を合わせる。そうありながら、この上ない音楽に至る見事さ!キャッチーで、リズムが弾けて、「シャンゼリゼのモーツァルト」と呼ばれたオッフェンバックの音楽の魅力を徹底して輝かせる。さらには、ピリオドであるからこそ生々しく立ち上って来る、1860年代のパリの喧騒... その刺激的な様に、ゾクゾクさせられる。で、忘れてならないのが、恐ろしくキャラの立った歌手たち!美しき... 有閑マダムな王妃、エレーヌを歌うロットの演じ切りっぷりには脱帽しつつ最高に楽しませてくれる。そのダメ亭主、メネラス王を飄々と歌うセネシェルのしょうもなさは、もう最高!トンチンカンな祭司、カルカスの不器用っぷりを鮮やかに聴かせるル・ルーもいい味を醸し。で、物語を引っ掻き回す、トロイの王子、パリスを歌うブロンの、胡散臭い好青年っぷりの絶妙さ!全ての歌手がきっちりと歌いつつ、強烈な個性で活き活きとドラマを紡ぎ出し、強力なアンサンブルで、本物の楽しさをはち切れんばかりに膨らませる。
それにしても、何とブリリアントな!キレのある音楽、1860年代へと立ち返る興味深さ、何よりの楽しさ!全てが揃い、昇華されて得られる感動は、ちょっと他には探せない。ミンコフスキ+レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルのすばらしさは今さら言うまでもないのだが、改めて聴き直すと、とにかく圧倒されて、本当に楽しくて、2枚組を聴き終える頃には元気になってしまう。

Offenbach : La Belle Hélène
Marc Minkowski


オッフェンバック : オペラ・ブッフ 『美しきエレーヌ』

エレーヌ : フェリシティ・ロット(ソプラノ)
パリス : ヤン・ブロン(テノール)
メネラス : ミシェル・セネシャル(テノール)
アガメムノン : ロラン・ナウリ(バリトン)
カルカス : フランソワ・ル・ルー(バス)
オレステ : マリー・アンジェ・トドロヴィチ(ソプラノ)
アシール : エリック・ウシェ(テノール)
アジャックス 1 : アラン・ガブリエル(テノール)
アジャックス 2 : ロラン・アルヴァロ(テノール)
バキス : ヒャルディス・ティボール(ソプラノ)
パルテニス : マガリ・レジェ(ソプラノ)
レオナ : ステファニー・ドゥストラック(ソプラノ)
フィロコム : ホセ・カナレス(語り)
コール・デ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル

マルク・ミンコフスキ/レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル

Virgin CLASSICS/5 45477 2




1863年、ベルリン、マイゼル劇場。ファンタジックに、麗しく、スッペ、『美しきガラテア』。

60134
フランツ・フォン・スッペ(1819-95)。
漠然とウィーンのオペレッタで活躍した人、というイメージがあったのだけれど、ダルマチアの生まれと知って、驚いた(例の如く不勉強ゆえ... )のは、そう以前のことではなくて... で、よくよく調べてみると、ベルギーにルーツのある貴族の出身で、ダルマチアではイタリア系の上流階級(長年、ヴェネツィア共和国領だった性格もあってか... )に属し、ドニゼッティが遠縁なのだとか。で、スッペは、ドニゼッティの故郷(ベルガモ)にも近い、ストラディヴァリウスを生んだ街、クレモナで音楽を学び始め、やがてウィーンに出て、シューベルトからブルックナーまでをも教えた重鎮、ゼヒターに師事し研鑽を積みながら、劇場の指揮者として活躍を始める。
そうした中、パリのオッフェンバック・ブームがウィーンにも到来し、同い年のオッフェンバック(1819-80)の活躍に刺激を受けたスッペも、オペレッタの世界へと足を踏み入れることに... パリに対抗して、ウィーン流のスタイルを模索し、『寄宿学校』(1862)で大成功。一躍、人気オペレッタ作曲家となり、1865年、ベルリンのマイゼル劇場で初演したのが『美しきガラテア』。オッフェンバック人気を目の当たりにしての、よりウィーンらしさを打ち出した音楽の在り様がとても興味深い。また、ヨハン・シュトラウス2世がオペレッタの世界に進出(1871)する以前の、ウィーンの雰囲気を知る貴重な機会でもあって。普段は序曲ばかりを聴いているスッペのオペレッタの、その序曲の後の本編の音楽というのが、極めて新鮮!で、オッフェンバックの鋭く毒づく音楽とは異なり、とにかく麗しいのがウィーン流。オッフェンバックの後に聴くと、何ともユルく感じてしまうところもあるのだけれど、そのユルさにこそ美しさを見出し得るウィーン特有の音楽センスに魅了される。ハプスブルク帝国の汎東方的な性格を仄かに匂わせるオペレッタのローカルな気分に、ピグマリオンが彫り出したガラテアに命が吹き込まれるファンタジックさが絶妙に結び付き、何とも言えない風合を見せ、人懐っこい音楽が、耳に心地良い。
というオペレッタを、丁寧に響かせるヴァイル、カペラ・コロニエンシスの演奏。モダンのオーケストラとは違う、ピリオド・オーケストラだからこそ生まれる程好いさじ加減と言うのか... ことさらウィーンが強調されることなく、甘くなり過ぎず、彼らならではのクリアなサウンドが、スッペの音楽の隅々までに光を当て、ドイツ―オーストリアのしっかりと構築された手堅い音楽というものをきっちりと鳴らし(こういうあたりに、オッフェンバックへの対抗心を感じさせる!)、充実した聴き応えをもたらしてくれる。そこに、朗らかな歌声を乗せて来る歌手たち... 特に、ガニュメートを歌うキーランドの深みのあるメッゾ・ソプラノが印象的。で、全体に素直で伸びやかな歌が繰り広げられ、そうして生まれるほんわかした空気感が、耳に心地良く。それがまた、スッペによるウィーン流の楽しさ... あるいは人情味を醸していて、ぽっと温かい。

FRANZ VON SUPPÉ DIE SCHÖNE GALATHÉE

スッペ : オペレッタ 『美しきガラテア』

ピグマリオン : イェルク・デュルミュラー(テノール)
ガニュメート : マリアンネ・ベアーテ・キーラント(メッゾ・ソプラノ)
ミダス : クラウス・ハーガー(バリトン)
ガラテア : エレオノール・マルゲール(ソプラノ)
クリスティアン・ブルックナー(語り)
ルール・コーアヴェルク

ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシス

CAPRICCIO/60134




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