SSブログ

ロシア音楽が萌え立つ頃、冬の日の幻想... [before 2005]

BISSACD1398.jpg
冬至は、まもなく... 本当に、寒くなって参りました。
澄んだ空の遠くに見える富士山。鮮烈な夕焼け。夜空を見上げれば、星々の輝きはますます冴え渡り... そんな冬のキーンと冷えた空気感、クリアさは、身が引き締まるようで、頭も冴えるようで嫌いじゃない。のだけれど、今は雪になりそうでならない冷たい雨... ウーン、このもどかしさは、かえって寒さを際立たせる?やっぱり、冬は応えます。ということで、そんな冬を乗り切る、冬の楽しい音楽を探してみた。チャイコフスキーの「冬の日の幻想」。まさに!な作品。でもって、1860年代の作品。オッフェバック・ブームがヨーロッパ中に広がり出し、スッペがウィーンを沸かしていた頃、1866年に作曲された、若きチャイコフスキーの最初の交響曲...
ネーメ・ヤルヴィと、彼がかつて首席指揮者を務めた、イェーテボリ交響楽団の演奏で、チャイコフスキーの1番の交響曲、「冬の日の幻想」と、劇音楽『雪娘』から4曲、幻想序曲「ロミオとジュリエット」(BIS/BIS-SACD-1398)を収録した1枚を聴く。

ロシアの音楽が萌え立つ1860年代... ロシア人によるロシア音楽を切り拓いたグリンカ(1804-57)はすでになく、チャイコフスキー(1840-93)と同世代の若く血気盛んなロシア5人組が活動を始めた頃。マリインスキー劇場が開場(1860)して間もない1862年、イタリアの巨匠、ヴェルディが、『運命の力』を初演するためにやって来て、その年、アントン・ルビンシテインは、サンクト・ペテルブルク音楽院を創設、法務省勤務の回り道をしたチャイコフスキーは、そのサンクト・ペテルブルク音楽院を卒業(1865)し、アントンの弟、ニコライ・ルビンシテインが創設を準備していたモスクワ音楽院の教授の職が決まる。
という、チャイコフスキー、26歳の作品、1番の交響曲、「冬の日の幻想」(track.1-4)。アントン・ルビンシテイン(1860年代に入るまでに3つの交響曲を作曲... )、リムスキー・コルサコフ(1番が完成したのが1865年... )に続いての、メイド・イン・ロシアの交響曲だったというから、ロシアの音楽はまだまだこれからという時代。チャイコフスキー自身にとっても、初めての本格的なオーケストラ作品でもあり、どこか手探り的に思えなくもないのだけれど... 一方で、すでにチャイコフスキーならではのサウンドが広がり、後に生まれる名作の断片が、ちらちらと聴こえて来るようで興味深く、才気溢れる若きチャイコフスキーの発露が、何とも初々しい。で、民謡のメロディをふんだんに取り入れての、バレエを思わせるようなキャッチーさで繰り広げてしまう交響曲... こんなに楽しい交響曲は、そう無いのかも... またその楽しさの中に、若いからこその感性の煌めきが、本当にフレッシュなサウンドを生み出していて。そうして描かれる「冬の日の幻想」は、思い掛けない一面の銀世界、今すぐにでもその雪景色の中へと飛び出して行って、雪と戯れたくなってしまうような、ワクワクさせられるものがある。
そんな若きチャイコフスキーの音楽を、丁寧かつ活き活きと奏でるネーメ、イェーテボリ響。ネーメがイェーテボリ響の首席指揮者から離任した2004年の録音だけに、それまで培って来たリレーション・シップが、そのまま音楽となって顕われているようで... まず、彼らの一体感がただならない。またそこから発せられる手慣れた感覚が、若きチャイコフスキーの作品に、地に足の着いた落ち着きを漂わせ、しっかりとした聴き応えをもたらす。一方で、サクサクとしたネーメ、イェーテボリ響ならではのリズム感が、若きチャイコフスキーのピュアな音楽性を捉えて、交響曲に爽快さを吹き込む。そうして生まれるワクワク感!そこに、北欧ならではの色彩感なのだろうか、イェーテボリ響の持つ鮮やかな音のパレットが、チャイコフスキーをより多彩に見せ、魅了される。
で、おもしろかったのが、アルバムの最後に取り上げられる、幻想序曲「ロメオとジュリエット」(track.9)。チャイコフスキー、20代、最後の作品にして、最初の傑作と言われる「ロメオとジュリエット」は、若きチャイコフスキーの総決算とも言えそうな迫力があるのだけれど、そうした若さゆえの猛進を、巧みにかわすネーメの指揮ぶりが、何とも不思議な聴き応えをもたらしていて... この作品の、ロマン主義が滴るようなドラマティッシズムを、色彩で見せてしまう新鮮さ!お馴染みの悲恋を強調せずに、若いふたりの恋心そのものを、カラフルに彩って、これまでになくフレッシュ!長いキャリアを誇るネーメだからこその捌きっぷりが、かえって青春の朗らかさを掘り起こしてしまうマジック... そんなネーメに全幅の信頼を寄せ、卒なくも鮮やかに奏でるイェーテボリ響もすばらしく、このコンビの充実ぶりに、今さらながらにして感服。改めて彼らのリリースを聴き直してみたくなる。
さて、冬の楽しい音楽... 劇音楽『雪娘』からの道化師の踊り(track.8)が最高!こういうラヴリーな曲を書けてしまうチャイコフスキーのセンスって、実は突出している気がするのだよね。『くるみ... 』もそうだけれど、お伽噺の世界を、まるでこどもに戻ったように、純粋に楽しい音楽を紡ぎ出せるって、いいなァ。とかく権威主義的になりがちなクラシックにあって、まったく希有なことだと思う。しかし、楽しい!この楽しさは、雪の降り積もった森の中を、ジェット・コースターのように魔法のそりが滑ってゆくよう!

Tchaikovsky ・ Symphony No.1 / Romeo And Juliet ・ GSO / Järvi

チャイコフスキー : 交響曲 第1番 ト短調 「冬の日の幻想」 Op.13
チャイコフスキー : 劇音楽 『雪娘』 Op.12 から 4曲
チャイコフスキー : 幻想序曲 「ロメオとジュリエット」

ネーメ・ヤルヴィ/イェーテボリ交響楽団

BIS/BIS-SACD-1398




nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。