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ヴェルディ・イン・ロシア、 [before 2005]

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マイアベーア、オーベール、トマ...
前回、聴いた、ロッシーニの小ミサ・ソレムニス。その、1863年、パリ、プレ・ヴィル伯爵邸における初演を聴いた作曲家たちの名前に、とても興味深いものを感じた。これが、当時のパリにおける巨匠たち... 今でこそ省みられることは少ないものの、当時はヒット・メーカーであり、あるいはコンセルヴァトワールの院長を務め、楽壇に大きな影響力を持っていた作曲家たち。音楽史の、ある瞬間を切り取って見えて来る、いつものクラシックとは違う風景。そうした当時のリアルな音楽シーンが掘り起こされると、クラシックはまた新鮮な表情を見せるような気がする。そんな新鮮さを求めて、1863年、パリから、1862年、サンクト・ペテルブルクへ。
ヴァレリー・ゲルギエフ率いる、マリインスキー劇場と、マリインスキー劇場のスターたちによる、そのマリインスキー劇場のために作曲された、ヴェルディのオペラ『運命の力』。1862年、サンクト・ペテルブルク、マリインスキー劇場で初演された、原典版(PHILIPS/446 951-2)で聴く。

ソチにデモ専用スペースを設けると聞いて、びっくり。デモって、そういうもの?もっと言うなら、オリンピックにデモほど不似合いなものは無い。オリンピック期間中は、休戦するくらいの平和のイヴェントのはずが... 平和でないところでオリンピックをやると、こうなるわけだ... ということで、近頃、ますますロシアがキナ臭い(ま、政府が社会を管理したがっているのは、ロシアに限らずだけれど... )。メディアを再編してより統制を強めようとしている... なんてニュースも聞くと、何だかソヴィエトが帰って来たかのよう。そもそも、「デモ専用スペース」って、つまるところは、政府制御下のデモ?デモすら検閲する?という21世紀から、150年、遡りまして、1860年代のロシア... 実は、非常に検閲が緩やかだったとのこと。そんなロシアから、オペラのお誘いを受けたのが、イタリアの巨匠、ヴェルディ。でもって、イタリアよりも自由にオペラが書けるかもしれないと勇んでロシアへ!そうして誕生したのが、人気作、『運命の力』だった。で、一般的な、ミラノ・スカラ座での再演(1869)のために改訂された版ではなく、1862年、サンクト・ペテルブルク、マリインスキー劇場で初演された原典版を聴くのだけれど...
久々に聴くと、その長大さに面喰う(こんなにも長かったっけ?)。それから、聴き慣れたミラノ版に比べると、どこか冗長というか、ヴェルディならではの引き締まった音楽とは少し違う、全体にぼやけたような印象を受けるサンクト・ペテルブルク版。いや、だから長大に感じるのかも... 実際は、ミラノ版の方が長いのだけれど... やはり、ブラッシュ・アップされたミラノ版の方が聴き易い?という一方で、やりたいことができる!という、ロシアに来てのヴェルディの解放感のようなものも感じられ。挑戦できるだけ挑戦して、それらが盛り込まれた結果の冗長にも思える。また、その冗長に、ミラノ版では味わえないスケール感を見出すのか、絞り切らない姿に、荘重な雰囲気を漂わせ。そうして生まれる大時代的なロマンティシズムには、グランド・オペラのような風格が。さらには、ある種のダークさだろうか?原作に忠実な原典版ならではの、バッド・エンドの陰鬱さもあるかもしれないのだけれど、全体の仄暗さは「ロシア」を思わせて、イタリアの切っ先の鋭いドラマとは何か違う、得体の知れない深みが、魅惑的なのかも。そうして改めて見つめる『運命の力』は、まるでギリシア悲劇のようで... ストーリー自体は、ヴェルディらしいドラマティックを極めた展開(これがまた、極まっている!)を見せるのだけれど、それだけではない、何か超然としたままならなさ(というのが、運命... )が際立ち、ミラノ版とは違う、ブラッシュ・アップされる前の未整理な状態ばかりでない、サンクト・ペテルブルク版の個性というものがインパクトに成り得ていて、惹き込まれる。
そんな、サンクト・ペルブルク版を聴かせてくれた、ゲルギエフ+マリインスキー劇場。序奏(いつもの『運命の力』序曲とは違う、原典版の序曲... )からして雰囲気たっぷりで、古き良き19世紀のオペラハウスをイメージさせる、独特のヴィンテージ感を醸し出すようで印象的。マリインスキー劇場管ならではの、職人気質を感じさせる、卒無く渋めのサウンドが、ヴェルディの音楽により映え、大いに魅了されてしまう。そんな演奏に乗って歌い上げる、マリインスキー劇場が誇るロシアのスターたちが、またいい味を出している!それは、まさにロシア、というのか、良い意味でのローカル性が活き、ロシア風の迫力ある歌唱と、纏わりつくロシア訛りが、それぞれのロールに重みを与えてしまうおもしろさ!いや、これこそがサンクト・ペテルブルク版(1863年の初演は、イタリア人歌手をわざわざ呼び寄せているのだけれど... )の魅力なのかも。ロシアの臭いがして来るヴェルディ...
鳴り物入りの、イタリアの巨匠の訪露ではあったものの、その初演は微妙なものだったらしい。また、まだまだ若かったロシア国民楽派の面々が、イタリアの巨匠に対し、激しい反発の姿勢を見せつつ、大いに影響も受けたらしい。ゲルギエフ+マリインスキー劇場の、ロシアの臭いのするヴェルディを聴いていると、ムソルグスキーの歴史大作オペラを予感させるものがあって、1860年代に成された、ヴェルディからロシアへの、少し意外にも思える音楽的リレーに、興味深いものを感じた。何より、そうしたつながりを想起させたゲルギエフの、このサンクト・ペテルブルク版に掛ける意気込みに、感服させられる。

VERDI ・ LA FORZA DEL DESTINO
KIROV OPERA ・ GERGIEV


ヴェルディ : オペラ 『運命の力』 〔1863年、サンクト・ペテルブルク初演、原典版〕

カラトラヴァ侯爵 : アスカル・アブドラザーコフ(バス)
レオノーラ : ガリーナ・ゴルチャコーワ(ソプラノ)
ドン・カルロ : ニコライ・プチーニン(バリトン)
ドン・アルヴァーロ : ゲガム・グリゴリアン(テノール)
プレツィオシッラ : オリガ・ボロディナ(メッゾ・ソプラノ)
修道院長 : ミハイル・キット(バス)
メリトーネ : ゲオルギー・サセスタヴニー(バス)
クルラ : リーア・シェブツォーワ(アルト)
村長 : ゲンナジー・ベズズベンコフ(バス)
トラブーコ : ニコライ・ガシーエフ(テノール)
外科医 : ユーリ・ラプテフ(テノール)
マリインスキー劇場合唱団

ヴァレリー・ゲルギエフ/マリインスキー劇場管弦楽団

PHILIPS/446 951-2




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