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新しい時代の息吹、ゴセックのレクイエム! [before 2005]

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バロックから古典主義へ... その狭間、1760年代...
前回、ハイドンと、J.C.バッハの交響曲を、1760年代にフォーカスして、改めて聴いてみたのだけれど、古さ(=バロック)と新しさ(=古典主義)が錯綜する、過渡期ならではの定まらなさが、かえっておもしろく。また、定まらないあたりを、よりよく見ようとすると、18世紀全体が違ったものに見えて来るようで、刺激的。何より、過渡期でありながらも、独特の存在感を見せる1760年代の不思議さ!古いものが必ずしも古いとは言えず、新しいものが新しく感じられないような、アベコベさ... そのアベコベの中に、1760年代流の洗練さえ見て取れて、過渡期を越えた何かを見出せそうな気さえして来る。そんな1760年代を、さらに探ってみることに。
フランス・ピリオド界の鬼才、ジャン・クロード・マルゴワール率いる、ラ・グラン・エキュリ・エ・ラ・シャンブル・デュ・ロワの演奏、ナミュール室内合唱団と、ピリオドで活躍する歌手たちを揃えての、1760年、パリで初演された、ゴセックの死者のためのミサ(K617/K617152)を聴く。

フランソワ・ジョゼフ・ゴセック(1734-1829)。
現在のベルギー(当時は、オーストリア領、南ネーデルラント... )、フランス語圏、フランス国境からはすぐの、小さな村、ヴェルニエの農家に生まれたゴセック。村の教会で歌った(司祭が驚くのほどの美声だったとか... )ことが切っ掛けで、近くの街、ヴァルクールの教会付属の学校で音楽を学び始める。が、間もなく、アントヴェルペンのノートルダム大聖堂の聖歌隊に加わり、高度な音楽を身につけ、1751年、17歳にしてパリへ... すぐにその才能はラモー(1683-1764)の目にとまり、かつてラモーが楽長を務めた、財務官、ラ・ププリニエール(1693-1762)のオーケストラの団員に推薦され、1755年には、ゴセックもその楽長(マンハイム楽派の巨匠、ヨハン・シュターミッツの後任... )となった。まだ20歳だったというから、凄い... そうして、1760年、26歳のゴセックは、レクイエムを作曲し、大成功させる。いや、大成功に納得!何と堂々たるレクイエム!
1760年代の、新しい世代を象徴する音楽のフレッシュさ!これが、21世紀の今にしても感じられるから凄い... フランス・バロック、最後の巨匠、ラモーが未だ現役で、その最後のオペラ、『レ・ボレアド』(1763)が生み出される前に、若き作曲家は、堂に入った古典主義を鳴り響かせている!それがまた、モーツァルトのレクイエムよりも、ベートーヴェンのミサを思わせる壮麗さであって... 何より、死者を送るというドラマティックさに、ロマン主義を予告するような音楽も覗かせて、驚くばかり。ゴセックのレクイエムは、後のベルリオーズのレクイエム(1837)に影響を与えたと言われるわけだけれど、まさに!当時としては大規模なオーケストラ、バンダから降りそそぐブラスのサウンドは、18世紀版"ベルリオーズのレクイエム"そのもの。異形とも言えるレクイエムを生み出したベルリオーズの、その際立った個性は、唯一無二のようでいて、そういう個性を生み出す準備が、実は1760年代に、ゴセックによって成されていたとは!?ハイドン(1732-1809)、J.C.バッハ(1735-82)と同世代のゴセック... 誰よりも早く、古典主義を呑み込み、さらには、その先をも捉える先進性を見せて、恐るべし...
もちろん、先進性ばかりでなく、バロックを思わせるところも... 冒頭、イントロドゥツィオーネ(disc.1, track.1)の、静々と死者を送るトーンは、フランス・バロックの名作、ジル(1668-1705)のレクイエムを思い起こさせ。また、要所、要所で聴かせる劇的なコーラスには、イタリア・バロックを思わせる鮮烈さも。締め括り、レクイエム・エテルナム(disc.2, track.8)の、聴き応え満点のフーガは、バッハばり!という、過去も包括した1760年代らしさもある。一方で、そうした古いあたりに、その後の音楽... パリを席巻することになるグルックの疾風怒濤のオペラや、ベルリオーズを思わせるロマンティックさを感じるようでもあり。古典主義の端正さ、明朗さに対し、バロックの劇的で重々しいあたりに、疾風怒濤からロマン主義へとつながるドラマティックさ、パワフルさを見出すことができ、まったく興味深い。そして、古典主義、バロック(から滲み出す、疾風怒濤、ロマン主義... )の、新旧2つのトーンが、心臓の拍動のように交互に脈打ち、2枚組にも及ぶ壮大なレクイエムに推進力を与えて。美しさと力強さ、フレッシュでありながら荘重という、多面的であるからこそ生まれる魅力!その魅力は、教会のスケールを越え、19世紀の作曲家たちを思わせる、純音楽としての"レクイエム"を意識させるようでもあり。宮廷や教会から独立した、近代的な音楽の在り方を予兆するのか、死者を送りながらも新しい時代の息吹を感じる。
というゴセックのレクイエムを聴かせてくれた、マルゴワール+ラ・グラン・エキュリ・エ・ラ・シャンブル・デュ・ロワ。切れ味の鋭い演奏を繰り広げつつ、この作品のスケールの大きさを巧みに引き出していて、見事!そこに、ピリオドで活躍する歌手たちの、朗々たる歌声が乗り、教会音楽の辛気臭さを感じさせないメローさ(フランス音楽ならではの... )が強調され、瑞々しい。で、全体を締めるのが、ナミュール室内合唱団!「室内」ならではのクリアさと、クリアでありながらカラフルなトーンを保ったハーモニーが、フランス音楽の流麗さと、ゴセックのドラマティックさを絶妙に表現していてすばらしく。ライヴ盤の熱気もあり、1760年、パリの音楽ファンたちを圧倒したであろう興奮を、今、再び、呼び覚ますかのよう。

François-Joseph Gossec Missa Pro Defunctis

ゴセック : 死者のためのミサ

サロメ・アレ(ソプラノ)
イングリッド・ペリュシェ(ソプラノ)
カタリン・ヴァルコニイ(アルト)
シリル・オヴィティ(オート・コントル)
ブノワ・アレ(テノール)
アラン・ビュエ(バス)
ナミュール室内合唱団
ジャン・クロード・マルゴワール/ラ・グラン・エキュリ・エ・ラ・シャンブル・デュ・ロワ

K617/K617152


今から250年前、1763年、パリ、オペラ座で準備されていた、ラモーのオペラ、『レ・ボレアド』を思い出しながら、1760年、パリで初演された、ゴセックのレクイエムを聴くと、何だか調子が狂ってしまう。ラモーは、本来のイメージ(ロココのギャラントなオペラ・バレのイメージ?)よりも、ずっと古く感じたし、ゴセックの新しさは、思いの外、先を行っていて... ソプラノが歌う、オッフェルトリウム(disc.1, track.1)は、ほとんどロマン主義オペラのシェーナのよう... C.P.E.バッハの多感主義が絶好調を迎えるのが1770年代、グルックの疾風怒濤のオペラがパリを席巻するのも1770年代... となると、古典派の全盛期はその後に来るわけで... 音楽史を丁寧に見つめれば見つめるほど、「バロック」、「古典主義」と、ひとつのワードで割り切れない姿が露わとなる18世紀の音楽。これまで漠然と捉えていた音楽史観について、改めて考えさせられる。




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