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1863年、パリ。ビゼー、ブレイク!オペラ『真珠採り』。 [before 2005]

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再び、150年前、1863年のパリへ...
前回、聴いた、ベルリオーズの『トロイアの人々』の初演の一ヶ月と少し前、同じ、パリ、リリック座で初演されたのが、ビゼーのオペラ、『真珠採り』。当時のビゼー(1838-75)は、まだ25歳... 駆け出しの頃で、ローマ賞を受賞(1857)し、ローマ留学(1858-60)も果たしながら、なかなかチャンスに恵まれず、生活は苦しかったらしい。そこに、大きなチャンスが舞い込む。リリック座の支配人、カルヴァロの抜擢で、オペラの委嘱を受ける。そうして完成した『真珠採り』は大成功し、ブレイク。やがて『カルメン』(1875)へと至るキャリアが始まる。
という、今となってはフランス・オペラの代名詞的存在とも言えるビゼーの、その起点となったオペラ... ミシェル・プラッソンの指揮、彼が率いたトゥールーズ・カピトール管弦楽団の演奏、バーバラ・ヘンドリクス(ソプラノ)ら、手堅いキャストで、ビゼーのオペラ『真珠採り』(EMI/7 49837 2)を聴く。

1863年に迫る前に、その前後を少し見渡してみると、また興味深い。まず2年遡った1861年、ナポレオン3世の勅命により、ワーグナーが、パリ、オペラ座にて『タンホイザー』を上演。が、政治的な思惑やら、何やらで、酷い大失敗となりスキャンダルに... 翌、1862年、ヴェルディは、サンクト・ペテルブルクのマリインスキー劇場で『運命の力』を初演。わざわざロシアまで足を運ぶも、それほどの好評は得られなかった。そして、1863年、マスネがローマ賞を受賞。1864年には、ブルックナーが最初の交響曲(番号が振られる以前の"宿題"... )を作曲。新たな世代の胎動が始まる。そんな時代、一世を風靡していたのがオッフェンバックのオペラ・ブッフ。『美しきエレーヌ』が、1864年にパリのヴァリエテ座で初演され、そのエレーヌのモデル(ナポレオン3世の皇后?)を巡って、話題となる。一方で、グランド・オペラの巨匠、マイアベーアが世を去る。翌、1865年に、その遺作となる『アフリカの女』が、パリ、オペラ座で初演。グランド・オペラの時代が頂点を迎える。
という時代に初演された、ビゼーのオペラ、『真珠採り』。インドを舞台にしたそのストーリーは、旧友、真珠採りの頭領、ズルガと、漁師、ナディールの2人が、かつて恋したレイラを巡っての三角関係を描く。となると、ヴェルディの『イル・トロヴァトーレ』(1853)などを思い出させる(って、ちょっと無謀か... )のだけれど、カップルの死によるバッド・エンドの『イル・トロヴァトーレ』とは違って、ズルガの自己犠牲(切な過ぎる!)によるカップルの救出で終わる『真珠採り』は、より印象的で、心に響くものがある。これがイタリア・オペラとフランス・オペラの違いだろうか?ギリシア悲劇を受け継ぐイタリアの血の濃さと、吟遊詩人の恋が育んだロマンスの国、フランスの本質を見るようで、興味深い(安易な比較はやっぱり無謀だけど... )。そして、エキゾティックな魅惑的な風景と、美しいメロディに彩られて、よりフランスらしさは際立ち、まさに真珠のような輝きを見せる『真珠採り』。
改めて聴いてみると、若きビゼーのピュアな感性が瑞々しく、ただただ魅了されてしまう。特に、有名なナディールとズルカの二重唱(disc.1, track.6)、ナディールのロマンス、「耳に残るは君の歌声」(disc.1, track.11)は、やっぱり美しく... でもって、この聴かせ所が、ともに1幕で歌われてしまうという贅沢さ!さらに、ベルカントの時代を受け継ぐ、レイラの美しいエール(disc.1, track.13)があって、カヴァティーヌ(disc.1, track.15)があって。また、コーラスが、要所、要所で美しく、時にドラマティックに盛り上げ。そうしてドラマが熱を帯びて来る後半では、デュオを中心に、歌と対話が絶妙に綾なし、より有機的なドラマを紡ごうという志向も見出せるようで、ナンバー・オペラ的な範疇から踏み出そうという、若きビゼーのチャンレンジングさも印象に残る。
という、『真珠採り』を、美しく仕上げたプラッソン!トゥールーズ・カピトール管(現在は国立... )をしなやかに鳴らし、このオペラの持つ繊細さと、フィナーレに向けてドラマが密度を増してゆくあたりを巧みに捉え、美しくもしっかとした聴き応えをもたらしてくれる。何より、フランスのオペラハウスのオーケストラだからこそと言うべきか、"フランス・オペラ"ならではの流麗さが見事に活き、イタリア・オペラとは一味違うセンスがくっきりと浮かび上がる!オペラはイタリアばかりでない... ということをつくづく感じさせられる演奏。そこに、レイラを歌うヘンドリックスの、この人ならではの透き通ったソプラノが、やわらかに広がり... ナディールを歌うエイラーの伸びやかなテノール、ズルガを歌うキリコの艶っぽさもあるバリトンと、絶妙なアンサンブルを聴かせ、惹き込まれるばかり。『カルメン』ばかりでない、ビゼーの音楽が持つフランスらしさ、美しさをたっぷりと堪能させてくれる。
一方で、本当に美しい"フランス・オペラ"を聴いてから、改めて『カルメン』を聴き直すと、そこに、ビゼーの野心的な姿を聴き取り、改めてその希有な魅力に感服させられる。ビゼーは、『カルメン』の初演(1875)のすぐ後、36歳という若さでこの世を去るのだけれど、もし、あと10年生きて、『カルメン』からのさらなる進化を見せたなら、オペラの流れは、また違ったものになったように感じる。歴史において、「もし」なんて考えるのは、蛇足に過ぎないとしても、つい、考えてしまう。

BIZET
LES PÊCHEURS DE PERLES
PLASSON

ビゼー : オペラ 『真珠採り』

レイラ : バーバラ・ヘンドリックス(ソプラノ)
ナディール : ジョン・エイラー(テノール)
ズルガ : ジーノ・キリコ(バリトン)
ヌーラバット : ジャン・フィリップ・クルティ(バス)

ミシェル・プラッソン/トゥールーズ・カピトール管弦楽団、同合唱団

EMI/7 49837 2




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