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1813年、ヴェネツィア。ロッシーニ、出現!オペラ『タンクレーディ』。 [before 2005]

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『真珠採り』から、50年遡って、1813年...
こうなったら、もう、遡れるところまで遡るぞ!と、若干、自棄になっているのかも。一方で、50年というタームで、音楽史にメモリを打ってゆく作業は、実に刺激的。今から100年前、フォーレは、まだワーグナーの影を抱え。その50年前、ベルリオーズはグランド・オペラを独自に展開し、ビゼーはフランス・オペラの美しさを極めてブレイク。普段は何気なく聴いていたレパートリーも、初演された年代を見据えて並べてみると、また違ったベクトルでその音楽に触れることができる。で、新鮮にすら感じる。そして、今からちょうど200年前... そう、ワーグナー、ヴェルディが生まれた年、1813年の音楽シーンには、どんな情景が広がっていただろうか?
ベートーヴェンが7番の交響曲をウィーンで初演し、シューベルトがコンヴィクト(寄宿性神学校)を卒業する前に1番の交響曲を作曲した頃、ヴェネツィア、フェニーチェ劇場では、21歳のロッシーニが、最初のオペラ・セリア、『タンクレーディ』を初演、大成功させる。その名は、一躍、ヨーロッパ中に知れ渡り、やがてベートーヴェンすら苦しめるロッシーニ・ブームが到来することに... というオペラ... ロベルト・アバドの指揮、ミュンヒェン放送管弦楽団の演奏、ヴェッセリーナ・カサロヴァ(メッゾ・ソプラノ)のタイトルロールで、ロッシーニのオペラ『タンクレーディ』(RCA RED SEAL/09026 68349 2)を聴く。

1813年、それは、ナポレオンによる体制がまもなく終焉を迎えようとしていた頃、古典派の巨匠たちと、ロマン主義の第一波が同時期に存在した過渡期... ナポリ楽派、最後の巨匠、パイジェッロ(1740-1816)は、ナポレオンのお気に入りとして名声を保ちながらも、すでに過去の存在になりつつあり。一方、ケルビーニ(1760-1842)による古典派の時代を脱するエモーショナルなオペラがパリで成功すると、ベートーヴェン(1770-1827)にも刺激を与え、『フィデリオ』(1814)へと至る。そのベートーヴェンが人気を集めていたウィーン、モーツァルト(1756-91)が健在だったならば、まだ60歳になっておらず、サリエリ(1750-1825)は元気に宮廷楽長としてウィーンの音楽を取り仕切り、次世代の教育にも力を入れていた。その次世代、シューベルト(1797-1828)はサリエリに師事し、独自の道を模索する中、プラハのオペラハウスで芸術監督として活躍を始めたウェーバー(1786-1826)は、すでにロマン主義オペラの道を歩み始めていた。そこに、ロッシーニは、突如、出現する!
モーツァルトが世を去って間もなく、ペーザロに生まれたロッシーニ(1792-1868)。ボローニャの音楽学校で学んでいたところを、ヴェネツィアのサンモイゼ劇場の支配人からスカウトされ、18歳で、『婚約手形』(1810)を作曲。早くも評判を呼ぶと、20歳、『試金石』(1812)で、スカラ座にデビュー。若手、注目株として知られるように。そして、1813年、ヴェネツィア、フェニーチェ劇場にて、『タンクレーディ』を成功させると、これを足掛かりに、ロッシーニは20代前半にして、ヨーロッパ中を熱狂させる存在となって行く。そんなロッシーニの『タンクレーディ』を聴くのだけれど、改めて、その「1813年」のオペラとして、音楽史における過渡期の作品として聴いてみると、より興味深い姿が浮かび上がるよう。まず、オペラ・セリアとして、18世紀、古典派の時代の端正さというものを感じ、そこから繰り出されるドラマというのが、19世紀初頭のダヴィッドらによる、新古典主義の歴史画を思わせて、スケールは大きく、荘重にして流麗。そういう全体像を生み出す、ひとつひとつ見事に描き込まれているアリアは、随所、随所で、鮮やかなコロラトゥーラに彩られ、18世紀のオペラ・セリアを思わせるフォーマルさを残しつつも、すでに「ロッシーニ」の音楽そのものであって揺るぎなく、何より、美しく軽やかに紡がれる旋律には息を呑む。
ロッシーニの人気のオペラ・ブッファに比べれば、上演される機会は少ない『タンクレーディ』ではあるけれど、19世紀、ひたひたと寄せ来る新たな波、ロマン主義とは一線を画しながら、18世紀、ヨーロッパのオペラを主導したナポリ楽派の志向を進化させ、"ベルカント"へと至った瞬間の輝きのようなものをこのオペラに見出す。まさに、「ロッシーニ」という、新たな時代の幕が切って落とされた、鮮烈さ!さらに、どこを切っても瑞々しいという、若きロッシーニの才気溢れる音楽!若いからこその、生意気なくらいに絶好調な音楽というのは、もうそれだけで圧倒されてしまうところがある。そして、その若さを見事に活かし切る、ロベルト・アバドの指揮!今から18年前、1995年の録音ということで、ロベルトはもちろん、歌手たちも若い!タイトルロールを歌うカサロヴァ(メッゾ・ソプラノ)、その恋人役、アメナイーデを歌うメイ(ソプラノ)、アメナイーデの父、アルジーリオを歌うヴァルガス(テノール)と、まさに、彼らがメジャー・レーベルと契約し、活躍を始めた頃のフレッシュさが、若きロッシーニの音楽と響き合い、若いからこその曇りの無さが、歴史劇に爽快さを生み出して、さらりと聴けてしまうからおもしろい。
さて、この『タンクレーディ』には、2つのフィナーレが用意されている。オペラはハッピー・エンドでなくてはならないという、如何にも18世紀的な在り方に疑問を持ったロッシーニが、ヴェネツィアでの初演の翌月、フェッラーラでの再演にあたって書き直したフェッラーラ版。めでたしめでたしのヴェネツィア版とは違い、ヴォルテールの原作に忠実なタンクレーディの死で終わるフェッラーラ版は、新たな時代を感じさせる、ロマンティックな英雄の死が印象的で、静けさの中で物語が閉じられるのだけれど。このロベルトの指揮による全曲盤では、フェッラーラ版で物語を閉じた後、ヴェネツィア版による大団円のフィナーレ(disc.3, track.9-14)が用意されているのがおもしろい!なかなか他に探せない静かなロッシーニのフィナーレ... これもやはり、若さが成せるものだと思う。そして、ロッシーニならではの大団円の魅力!並べてみると、ヴェネツィア版からフェッラーラ版へのブラッシュ・アップというか、絶妙な削ぎ落しが、まったく興味深い。

ROSSINI―TANCREDI
KASAROVA ・ MEI ・ VARGAS ・ PEETERS ・ CANGEMI ・ PAULSEN ・ ABBADO

ロッシーニ : オペラ 『タンクレーディ』 〔ヴェネツィア版、フェッラーラ版、それぞれのフィナーレを収録〕

タンクレーディ : ヴェッセリーナ・カサロヴァ(メッゾ・ソプラノ)
アメナイーデ : エヴァ・メイ(ソプラノ)
アルジーリオ : ラモン・ヴァルガス(テノール)
オルバッツァーノ : ハリー・ピータース(バス)
イザウーラ : メリンダ・パウルセン(コントラルト)
ロッジェーロ : ヴェロニカ・カンヘミ(メッゾ・ソプラノ)
バイエルン放送合唱団

ロベルト・アバド/ミュンヒェン放送管弦楽団

RCA RED SEAL/09026 68349 2




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