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1863年、パリ。ベルリオーズ、グランド"グランド"オペラ、『トロイアの人々』。 [before 2005]

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100年前を振り返ったので、勢い150年前も...
ということで、1863年。日本では、明治維新(1867)の4年前、14代将軍、家茂が上洛し、新選組が結成され、まさに幕末!世界に目を向ければ、アメリカで奴隷解放宣言、そして、南北戦争、勃発。世の中が、大きく動こうとしていた頃か... そんな1863年の音楽をピックアップするのだけれど、今から150年前の音楽というと、19世紀、ロマン主義の最盛期!まさに、クラシック、ど真ん中の時代。そのど真ん中にあって、苦労の末、やっと1863年に初演に漕ぎ着けた大作、ベルリオーズのオペラ、『トロイアの人々』に注目する。
ベルリオーズのスペシャリストにして、イギリスを代表したマエストロ、今年の4月に亡くなった、コリン・デイヴィスを悼みつつ、彼が率いたロンドン交響楽団に、ベン・ヘップナー(テノール)、ミシェル・デ・ヤング(ソプラノ)、ペトラ・ラング(ソプラノ)ら、実力者たちを揃えたキャストによる、2000年のライヴ録音、ベルリオーズのオペラ『トロイアの人々』(LSO LIVE/LSO 0010)を聴く。

ウェルギリウスの叙事詩、『アエネーイス』による、トロイアの陥落と、落ち延びたアエネーアースの恋とトロイア再興の葛藤を描く、2部構成からなる長大なオペラ、『トロイアの人々』。まさに、グランド・オペラの時代、5幕立てで、バレエもしっかりと盛り込まれ、壮大な歴史劇にして、ロマンスがあり、スペクタキュラーあり... 何より、ベルリオーズらしく、単なるグランド・オペラのスケールを越えて、グランド"グランド"オペラといった、メガロマニアックな性格を持つ... という作品を、ベルリオーズは、1856年に取り掛かる。まず、2カ月足らずで台本を一気に書き上げると、すぐに作曲を始め、1858年に完成させた。そして、大作に相応しく、パリのオペラ座での上演を目指すのだが、グランド・オペラの時代にあっても、その長大さはネックとなり、なかなか受け入れてもらえず、結局、オペラ座は諦め、リリック座で、第2部のみを初演... それが、今から150年前、1863年。
いや、オペラ座が拒むのもわかる。この長大さは、どう考えても、一夜で上演するスケールを越えている... そういう意味で、第1部、第2部を分けて、第2部のみで初演したことは、とても健康的にも思える。第1部というのは、第2部のプロローグであって... 例えば、『リング』の『ラインの黄金』のような位置付け?となると、『リング』(1869年に『ラインの黄金』が初演され、全夜が通して上演されたのは1876年... )を先取りしているようにも思えて来る。また、ベルリオーズなればこそのオーケストレーションは、同時代の他のグランド・オペラを越える充実感があって、歌のみに留まらないあたり、ワーグナーの楽劇と通じるところがあるのかもしれない。リリック座での初演は、評論家筋には好評を以って迎えられたものの、観衆には不評だったらしい。それは、観衆の想像を越えた、グランド"グランド"オペラだったのだろう。が、長さはさて置き、この作品はまったく以って魅力的!
第1部、のっけから破滅を予見する、カサンドルの深くドラマティックなエール(disc.1, track.2, 3)の迫力。その破滅が訪れる、第1部、フィナーレ、トロイアの陥落を前に、カサンドルを囲んでのトロイアの女たちの集団自決のカタストロフ(disc.2, track.7)。カルタゴとトロイアの連合軍が結成される3幕のフィナーレ(disc.2, track.21)、出陣を前に、みんなが一丸となってのハイテンション!単独でも取り上げられる、ベルリオーズならではの絵画的なセンスが煌めく、4幕の冒頭、「王の狩りと嵐」(disc.3, track.1)。その4幕の最後、エネとディドンの二重唱「陶酔と限りない恍惚の夜よ」(disc.3, track.16)の甘美さは、夜を描くことに長けたベルリオーズのもうひとつの真骨頂... ワーグナーに負けないオーケストレーションに、ベッリーニを思わせる流麗さ、フランスならではのメローさ、植民地の時代を象徴するエキゾティシズムも色を添え、盛りだくさん!まさに、グランド"グランド"オペラ。で、その"グランド"なあたりを、ベルリオーズならではの独特の勢いで、一気に聴かせてしまう。そうして、この作品に籠められた、ベルリオーズの並々ならぬ思いが、ビンビンと伝わって来る。ヴェルディやワーグナーのように取り上げられることはなくとも、『トロイアの人々』は、19世紀、ロマン主義、そのものなのかも。
という『トロイアの人々』を、見事に聴かせるデイヴィス、ロンドン響!この作品を、フランス語で、全曲、初めて上演(1969年、ロンドン、ロイヤル・オペラにて... )したデイヴィスだけに、やはり強い思い入れがあるのだろう。そうしたものが、全ての瞬間から溢れ出していて、時折、サー・コリンも一緒になって歌っているのが聴こえて来るほど。例えば、第1部のフィナーレ(disc.2, track.7)、トロイアの女たちと一緒に、「イタリー!イタリー!」と... いや、歌いたくなるのもわかる!熱いシーンだもの... で、そんなデイヴィスの思い入れがまた、ベルリオーズの思い入れを掘り起こして、両者が共鳴するようなバイブスを発し、息衝き、よりパワフルなドラマを繰り広げられるから、ますます惹き込まれる。もちろん、粒揃いの実力者たちによる歌も見事!ラングの歌うカサンドルの迫力、ヘップナーが歌うエネの涼やかさ、デ・ヤングが歌うディドンの甘やかさ。とにかく魅了されずにいられない。さらに、ライヴの緊張感が生む魔法!4枚組も、あっという間だ。

London Symphony Orchestra BERLIOZ Les Troyens Sir Colin Davis

ベルリオーズ : オペラ 『トロイアの人々』

エネ : ベン・ヘップナー(テノール)
ディドン : ミシェル・デ・ヤング(メッゾ・ソプラノ)
カサンドル : ペトラ・ラング(メゾ・ソプラノ)
アンナ : サラ・ミンガルド(アルト)
コレブ : ペーテル・マッテイ(バリトン)
ナルバル : スティーブン・ミリング(バス)
イオパ : ケネス・ターヴァー(テノール)
イラス : トビー・スペンス(テノール)
エクトルの霊 : オルリン・アナスタソフ(バス)
パンテ : ティグラン・マルティロシアン(バス)
アスカーニュ : イザベル・カルス(メッゾ・ソプラノ)
プリアム : アラン・ユーイング(バス)
エキュブ : グゥアン・ヤン(メッゾ・ソプラノ)
第1の番兵 : アンドルー・グリーナン(バリトン)
第2の番兵 : ロデリック・アール(バス)
エレニュス : バレント・ベズダズ(テノール)
兵士/メルキュール : リー・メルローズ(バリトン)
ギリシアの指揮官 : マーク・ストーン(バリトン)

コリン・デイヴィス/ロンドン交響楽団、同合唱団

LSO LIVE/LSO 0010




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