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1913年、パリ。フォーレ、ワーグナーと近代を結んで、オペラ『ペネロープ』。 [before 2005]

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さて、次は何を取り上げるべきか?
新譜を追うはずが、2012年のリリース以後、新譜はまったく聴いておらず... 追い切る経済力が無いのだから、致命傷... そして、2005年を振り返り終えて以後、これからどういう指針を持つべきか、迷走中... でもって、2013年のメモリアルあたりでお茶を濁し... 嗚呼、どうしたらよいのか?どうしたらいいと思う?このblogで、何ができる?そもそも、そんなことを、あーだこーだ考えること自体、大それている?
と、悩みは深まる一方の秋、11月となりました。そんな季節にしっくりと来るオペラを久々に引っ張り出して聴いてみる。シャルル・デュトワの指揮、モンテ・カルロ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、ジェシー・ノーマン(ソプラノ)をタイトルロールに、フォーレのオペラ『ペネロープ』(ERATO/2292-45405-2)を聴く。のだけれど、1980年の録音!まさか、当blogで、30年以上も前のタイトルを取り上げることになるとは... 過去に囚われず、前進するクラシックを応援したい!はずが、情けなくなって来る。しかし、フォーレの音楽は美しい... で、『ペネロープ』、初演100年のメモリアル!なのであります。

今年は、ストラヴィンスキーのバレエ『春の祭典』、初演100年のメモリアル。作曲家ではなく、作品のメモリアルが祝われ、盛り上がるという事態に、この作品の存在の大きさというものを改めて思い知らされるのだけれど... 今からちょうど100年前、その1913年という年を、今一度、見渡してみると、とても興味深いものがある。『春の祭典』が一大センセーションを巻き起こした背景、19世紀の伝統を断ち切る「近代音楽」という最初の衝撃の周囲にあった音楽というのは、どんなものがあったのか?リヒャルト・シュトラウスの『ばらの騎士』の初演(1911)が2年前、シェーンベルクの『月に憑かれたピエロ』の初演(1912)が前年。ホルストは、その翌年から『惑星』(1914-16)の作曲に取り掛かり、3年後、レスピーギはローマ三部作の1曲目、「ローマの噴水」(1916)を完成させる。4年後、プッチーニは『つばめ』を初演(1917)、5年後、バルトークは『青ひげ公の城』を初演(1918)した。まさに、時代の転換点を思わせる様々な作品に彩られていた頃。そうした時代の作品のひとつ、ここで聴く、フォーレのオペラ、『ペネロープ』は、1913年3月4日にモナコで初演された後、『春の祭典』が初演される19日前のシャンゼリゼ劇場で、パリ初演(5月10日)を迎え、大成功を収めた。
で、その『ペネロープ』... 古代ギリシアの古典を代表する叙事詩、『オデュッセイア』に題材を採り、モンテヴェルディの『ウリッセの帰還』と同じ、夫、オデュッセウスの帰り待つ、ぺネロペの物語を描く。となると、まるでオペラの原点に帰るような、そんな雰囲気(ある種の素朴さ?)もあるかもしれない。また、フランスの印象主義の作曲家には、古代への関心(例えば、ドビュッシーの牧神の午後減り前奏曲や、ラヴェルの『ダフニスとクロエ』... )が見て取れるわけだけれど、そうしたアルカイックさも漂い、印象的。もちろん、フォーレならではの色彩感と流麗さに彩られ、全編に渡ってとても美しい。が、一方で、興味深い、ワーグナーの影!序曲(disc.1, track.1)の、深く、ロマンティックな表情は、より直接的にワーグナーの楽劇を思い起こさせ。その後も、ワーグナー流の重厚さがしっかりと土台を造り、いつものフォーレとは一味違う聴き応えをもたらしてくれる。そして、そのあたりを久々に聴いてみると、もの凄く新鮮!もちろん、ワグネリズム一辺倒ではなく、ワーグナーをきっちりと自身の芸術性に取り込んで、新たな形も示しており。ワーグナーの進化系としてフランスの印象主義を繰り出して来るあたりが、思い掛けなく魅惑的!ワーグナーにはないフランス流のエレガンス、ワーグナー(1813-83)を拒絶したドビュッシー(1862-1918)の『ペレアスとメリザンド』(1902)にはない、より具体的なドラマティシズム、ダイナミズム。時には、フォーレ(1845-1924)の次世代、ルーセル(1869-1937)や、教え子、フローラン・シュミット(1870-1958)を思わせる、フォーヴな表情も垣間見せ、1913年のオペラ、『ペネロープ』の同時代性というのも意識させられる。そして、それらが、見事にひとつに縒り合されて、『ペネロープ』というひとつの作品に結晶していることに、魅了される!
という『ペネロープ』、1980年の録音で聴くとなると、そのキャストには、当然ながら、今とはまったく異なる面々が並ぶ。そして、30年前の第一線では、こういう人たちが活躍していたのか... と、かえって新鮮な印象を受け、また、往年のオペラの黄金期を支えた歌手たちの、層の厚さをそこはかとなく感じさせる骨太の歌声に、「かつて」なればこその魅力を見出す。一方で、そうした時代感を突き抜ける、タイトルロールを歌うノーマンの、現役バリバリだった頃の見事な歌声!極めて美しくありながら、底知れぬ深さを見せる、この人ならではのソプラノには、聴き入るばかり。いや、この人がペネロープを歌うからこそ、このオペラから引き出されるスケール感は、より大きなものに感じられて... ディーヴァとは、こういうものかと、圧倒される。そして、若きデュトワ!当時は、まだ40代半ば... そうしたあたりが、程好いエモーショナルさを生み出していて、またデュトワならではのクリアな感覚が、『ペネロープ』に籠められた、新旧、様々な要素を、丁寧に響かせ、絶妙にブレンドし、より美しく聴き応えのある音楽としていて、感服させられる。それにしても、何と魅力的な!で、このすばらしいオペラを、初演から100年目の今、21世紀に活躍する歌手たち、指揮者、オーケストラで聴くことができたなら、どんな印象を受けるだろうか?間違いなく、魅惑的な、新たなフォーレ像を提示できるように思うのだけれど...

FAURÉ ・ PÉNÉLOPE
CHARLES DUTOIT

フォーレ : オペラ 『ペネロープ』

ペネロープ : ジェシー・ノーマン(ソプラノ)
ウリクレー : ジョスリーヌ・タイヨン(メッゾ・ソプラノ)
アルカンドル : コレット・アリオット・ルガズ(ソプラノ)
フィロ : クリスティーヌ・バルボー(ソプラノ)
リディエ : ダニエレ・ボルスト(ソプラノ)
メラント : ミケーレ・コマンド(ソプラノ)
クレオーヌ : ノルマ・レーレル(ソプラノ)
ユリス : アラン・ヴァンゾ(テノール)
アンティノウス : ジャン・デュピュイ(テノール)
クテジペ : ポール・ジーグ(テノール)
レオデス : ジェラール・フリードマン(テノール)
ウリマケ : フィリップ・フッテンロッヒャー(バス)
ウメ : ジョセ・ヴァン・ダム(バリトン)
ピザンドル : フランソワ・ルルー(バリトン)
ジャン・ラフォルジュ・アンサンブル・コラール

シャルル・デュトワ/モンテ・カルロ・フィルハーモニー管弦楽団

ERATO/2292-45405-2




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