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1773年、ヴェルサイユにて。グレトリ、『セファルとプロクリス』。 [2010]

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先日は、真夏日でありました。10月も半ばだというのに...
もう、秋なんだか、夏なんだか、いろいろと混乱してしまう。とはいえ、黄色いお化けカボチャが目立つようになれば、あっという間にクリスマス・ツリーが飾られて、すぐに正月飾りに置き換わって、2013年なんて終わってしまうのだろう。という前に、ヴェルディ、ワーグナーばかりではない、2013年、メモリアルを迎える作曲家をざっと振り返ってみようかなと。で、10月後半は、ヴェルディ、ワーグナー以外のメモリアルの作曲家たち!
まずは、没後200年、フランス、オペラ・コミックの成長期に活躍した作曲家、グレトリ。ギィ・ヴァン・ワース率いる、ベルギーのピリオド・オーケストラ、レザグレマンの演奏による、グレトリのバレエ・エロイーク『セファルとプロクリス』(RICERCARE/RIC 302)を聴く。

アンドレ・エルネスト・モデスト・グレトリ(1741-1813)。
18世紀後半、古典派の時代のフランス・オペラで、大きな成果を残した作曲家だけに、てっきりフランス人かと思っていたのだけれど、出身はベルギー。中世期、音楽の一大中心地だったフランス語圏、リエージュ(当時は、神聖ローマ帝国、リエージュ司教領)の音楽家の家に生まれたグレトリ。音楽の基礎をリエージュで学び、やがてイタリアへ留学。ローマで上演された、オペラ『ラヴェンデンミアトリーチェ』(1765)で成功し、1867年にはパリへ。やがて、ブフォン論争(1750年代)に端を発するオペラ・コミックのジャンルにおいて活躍し、『獅子心王、リシャール』(1784)など、革命以前のオペラ・コミックに欠かせないレパートリーを残す。フランス革命(1789)が始まると、他のフランスの作曲家たち同様に、革命のプロパガンダ的オペラも作曲。財産こそ失いはしたものの、巧みに時代を乗り切り、ナポレオンの宮廷からも厚遇され、今から200年前、71歳でこの世を去る。
という、グレトリの、オペラ・コミックを足掛かりに、人気を博していた頃、1773年、アルトワ伯、シャルル(後に復古王政で王位に就く、シャルル10世... )の婚礼のために、ヴェルサイユ宮で初演されたバレエ・エロイーク『セファルとプロクリス』を聴くのだけれど... これは、オペラ・コミック(歌と台詞による... )とは違って、バレエ・エロイーク(英雄的バレエ)とある通り、1幕の終わりに充実したバレエ・シーン(disc.1, track.14-19)が置かれ、さらに終幕のフィナーレ(disc.2, track.23-29)では、コーラスを伴っての壮大なバレエも踊られる。そして、その物語は、古代ローマの詩人、オウィディウスの『変身物語』から、ケパロスとプロクリスのエピソードが採られ、バレエと神話と、まさにリュリ以来のフランスのオペラが堂々と繰り広げられる。そこに、オペラ・コミックで培われたであろう、メロドラマのフランスならではのメローさが、エールのみならず、あちらこちらに散りばめられ、花やかさを見せつつ、ブフォン論争以来のオペラ・コミックが持つ牧歌性が、セファル(ケパロス)とプロクリスの夫婦を包むアルカディア的な風景を絶妙に描き出す。旧きフランス(バレエ、神話、古典美)と、新しきフランス(オペラ・コミック、牧歌性)のセンスが、古典派の時代に集大成されたような、雅やかでありながら、しっかりとした聴き応えが印象的な、『セファルとプロクリス』。グルックが巨匠として君臨し、その対抗馬としてナポリ楽派が持て囃され、国際色の強かった古典派の時代のパリの、よりフランス的なオペラの姿をきちっと聴かせてくれるようで、興味深く、魅惑的。
そんなグレトリのオペラを取り上げたヴァン・ワース+レザグレマン。ベルギーのピリオド・オーケストラとして、ベルギー出身のグレトリの作品を丁寧に紹介して来た彼らならではの、手堅さというのか、気負うことなく、淡々とグレトリを見つめることで掘り起こされる、グレトリが活躍した時代の、フランスの音楽が持つやわらかさが、得も言えず心地良く、印象的。宮廷の婚礼用に作曲された『セファルとプロクリス』は、パリの音楽ファンを熱狂させたグルックの疾風怒濤に比べればインパクトに欠け、ナポリ楽派のカラフルでキャッチーなあたりからすれば、ぼんやりとしているようにも感じるのだけれど、ヴァン・ワース+レザグレマンの手堅さが、かえって、グレトリの音楽に内包されたエスプリを探り当て、それらを匂わせるよう。そこに、歌手陣のナチュラルな歌声が乗り、ふんわりとしたアンサンブルを成して、このオペラの牧歌的な表情をより際立たせる。さらに、要所、要所で美しいコーラスを聴かせてくれるナミュール室内合唱団!クリアかつ美しい色彩を備えて輝くその歌声は、このオペラを象徴するかのよう。聴く者を、アルカディアへと導いてくれる。

ANDRÉ MODESTE GRÉTRY CÉPHALE ET PROCRIS
LES AGRÉMENS GUY VAN WAAS


グレトリ : バレエ・エロイーク 『セファルとプロクリス』

セファル : ピエール・イヴ・プリュヴォ(バリトン)
プロクリス : カティア・ヴェレタズ(ソプラノ)
オーロル : ベネディクト・トラン(ソプラノ)
ペレス/嫉妬 : イザベル・カルス(ソプラノ)
フロール : オレリー・フランク(メッゾ・ソプラノ)
愛 : カロリーヌ・ヴェイナンツ(ソプラノ)
ナミュール室内合唱団

ギィ・ヴァン・ワース/レザグレマン

RICERCARE/RIC 302




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