SSブログ

マゼールとベルリン・フィル、達観のワーグナー、 [before 2005]

74321687172.jpg
昨日は、ヴェルディの200歳の誕生日。けれど、聴くのはワーグナー...
正直に言うと、ワーグナーはずっと苦手だった。もちろん、今は克服されているのだけれど、それでもどこかで取っ付き難さを感じるというか、そう安易には聴けないような、身構えてしまうようなところがある。このあたりは、ヴェルディとは大違い。なのだけれど、アバドが率いたベルリン・フィルノリントンが率いたロンドン・クラシカル・プレイヤーズ、モダンとピリオドで、改めてワーグナーを集中的に聴いてみると、やっぱりワーグナーは凄かったのだなと思い知らされ、今、改めてはまってしまう。で、ワーグナーばかり聴いている今日この頃。何だかんだで、メモリアルらしく、ワーグナー熱は高まってしまう。で、モダン、ピリオドと聴いて来ての、再びモダン!
ピリオドによる演奏も興味深いのだけれど、ピリオドの後で聴く、モダンのワーグナーの輝きに充ち満ちたサウンドは、有無を言わせないものがある... ということで、そんな演奏、ロリン・マゼールの指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の組合せによる2枚目のワーグナーの管弦楽曲集、"LORIN MAAZEL CONDUCTS WAGNER VOL.II"(RCA RED SEAL/74321 68717 2)を聴く。

さて、当blogで紹介したタイトルは、どれくらいになるのだろう?って、数えません。何かもう、凄い数になっているので... で、そういう数を、散々、聴いて来て、最も好きな1枚かもしれない、そんなアルバムが、マゼールの指揮、ベルリン・フィルによるワーグナーの管弦楽曲集、vol.2。そう安易には聴けないワーグナー... やっぱりあの壮大な音楽は、それを受け止めるだけの気力、体力が充実していないと向き合えない(って、大袈裟?)。けど、このアルバムは、例えば寝起きの本調子でない状態でも聴ける!朝から無理なく聴けてしまう希有な演奏(当blog比... )。それでいて、どんなに気分が乗らない朝でも、このアルバムを聴くと、何となく元気になってしまう!パワー・ミュージック... 始まりの『リエンツィ』序曲から、何か不思議なパワーに充ちている。
『リエンツィ』は、ワーグナーがブレイク(1842)する切っ掛けとなった作品で、ワーグナーのスタイルが確立する以前の作品。となとる、後の傑作に比べれば、やっぱりどこかで弱さを感じてしまう。が、そういう初期の作品にこそパワーを吹き込むマゼール。信号音のように吹かれる最初のトランペットの吹奏から、何かが違う。ベルリン・フィルから放たれる、匂い立つようなサウンドに彩られた『リエンツィ』序曲は、パリで作曲された史劇ということもあってか、ダヴィドが描いた歴史画の大作(『ナポレオンの戴冠』など... )を思わせて、ヨーロッパの真髄を知らしめるような、泰西名画の底知れぬ堂々たる姿を聴くようで、極東の小さな島国の人間には、もうただひたすらに圧倒されるしかないような... これぞヨーロッパというものを、徹底して鳴らし切る演奏に、酔わされてしまう。
そして、興味深いのが、『リエンツィ』の2年前に、同じくパリで作曲された「ファウスト」序曲(track.3)。いや、こういう作品があったのか?と、ワーグナーの盲点を補ってくれるわけだけれど。で、『リエンツィ』より前となると、ワーグナー独自の音楽世界はまだまだ遠く、いやかえって、19世紀前半、ロマン主義の時代の当世風の音楽を響かせるワーグナーの律儀さに、新鮮な思いがする。で、『リエンツィ』序曲同様、初期だろうが何だろうが、しっかりと響かせるマゼールの手を以ってすれば、メンデルスゾーンやシューマンによる序曲にまったく引けを取らず、凌駕すらして聴こえ、また魅了されてしまう。何より凄いのは、ワーグナー独自の音楽世界が築かれてからの傑作と並べて、聴き劣りすることなく繰り広げられていて、このアルバムにもうひとつの色を添えていること。
前半3曲を初期の作品で、後半3曲を後期の作品で綴るこのアルバム。もちろん初期ばかりでなく、定番の後期の作品でも魅惑的な演奏は繰り広げられる。『ニュルンベルグのマイスタージンガー』の第1幕への前奏曲(track.4)では、全ての楽器が見事に息衝くベルリン・フィルにより、この喜劇の明るさは、さらなる煌びやかさにまで昇華され、まるでリヒャルト・シュトラウスのオペラを聴くようなグラマラスさに目を見張る!続く、ジークフリート牧歌(track.5)では、ベルリン・フィルの深く艶やかな弦楽の響きが薫り出し。今、改めて聴いてみると、これほどまでに美しい作品だったかと、驚かされてしまう。そして、最後は、輝かしき「ジークフリートのラインへの旅」(track.6)!やっぱり、パワー・ミュージック、元気になれる!美しさが元気へと向かう、おもしろさ!
かつて、ベルリン・フィルと距離を置いたマゼール。カラヤンの後任を確実視されながらも、音楽監督のポストはアバドへ... そういう経緯を思い出しつつ、アバドとのベルリン・フィルによるワーグナーの管弦楽曲集を聴き、こうしてマゼールによるものを聴くと、実に興味深い。アバドは、凝った構成で、ワーグナーの先進的にして圧倒的な独自性を浮かび上がらせる。一方のマゼールは、凝ったことなどは特にせず、ベルリン・フィルの最高のパフォーマンスを素直に引き出し、そこから音楽がもたらしてくれるピュアな悦びを呼び起こす。アバドはある意味、より音楽監督らしくあり、マゼールはそういう役職的な枠組みを越えて、ピュアなのかもしれない。いや、長いキャリアを刻んでの「ピュア」という状態は、なかなか難しいことのように思うのだけれど... だからこそ、ピュアであることで持ち得るパワーの圧倒的な様!心の芯から音楽のすばらしさを叫ぶような清々しさをこのワーグナーに感じ、再びベルリン・フィルを振るに至った、マゼールの達観に感慨を覚えずにはいられない。そうして生まれたサウンドの、生命力に溢れる鮮やかさに感動する。

LORIN MAAZEL CONDUCTS WAGNER VOL.II Berliner Philharmoniker

ワーグナー : オペラ 『リエンツィ』 序曲
ワーグナー : オペラ 『ローエングリン」 から 第3幕への前奏曲
ワーグナー : 「ファウスト」 序曲
ワーグナー : 楽劇 『ニュルンベルクのマイスタージンガー』 第1幕への前奏曲
ワーグナー : ジークフリート牧歌
ワーグナー : 楽劇 『神々の黄昏』 から 「ジークフリートのラインへの旅」

ロリン・マゼール/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

RCA RED SEAL/74321 68717 2




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。