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モダニスト、パリのアメリカ人。 [2005]

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暑い日が続くと、食欲は減退気味... で、音楽も減退気味?
気温は少し落ち着いて、暑さは小休止といった観もあったのだけれど。連日、高音注意報が出され、熱中症のニュースが続く中を過ごしての小休止は、かえって一息付けたことで、どっと疲れが出てしまったような... いや、もう、これぞ夏バテ状態。そして、音楽を聴くのも、何かしんどい... 夏バテが、音楽へも浸潤してしまったか?いや、クラシックというのは、かなり暑っ苦しいところがある。そのアカデミックなあたり?フォーマルなあたり?もうちょっと、身軽になれないのか?なんて、時折... てか、まさに、今、思うのだけれど... 連綿たる音楽史の重み、そのものであるクラシックは、暑っ苦しくて当たり前なのだけれど。それでも、軽めの音楽を求めて...
2005年にリリースされた、フランスの異才、フランク・ブラレイのピアノで、ガーシュウィン(harmonia mundi FRANCE/HMC 901883)。オーケストラ無し、ピアノ・ソロによる、いつもより小ざっぱりしたラプソディー・イン・ブルー、パリのアメリカ人を聴き直す。

『ポーギーとベス』からのジャズボ・ブラウンのブルースで始まる、ブラレイのガーシュウィン。のっけからヴィヴィットで、パワフルで、ちょっとクラクラしてしまうのだけれど... クラシックという型枠からジャンプしたその音楽の独特の輝き!冒頭の、まるでネオン・サインの明滅のような大胆な華麗さに、目が覚める思い。もちろんジャジーで、ニューヨーク流の粋がそこかしこに煌めいていて。また、アメリカのドライなモダニズムを感じさせて、クール... 1曲目から、ワクワクさせられるブラレイのガーシュウィン。
そこから、絶妙に始められるラプソディー・イン・ブルー(track.2)。まず、作曲者によるピアノ・ソロ版があったことに驚かされる。このブラレイ盤に出会わなかったら、未だに知らないままだったかもしれない... そして、そのピアノ・ソロ版の新鮮さ!あの幕開けを告げるクラリネットのグリッサンドも、しっかりとピアノに置き換わっていて、クラリネットに負けず、魅惑的。雰囲気に欠けることは、一切無い。というより、グローフェがオーケストレーションしたいつもの版とは一味違う瑞々しさがあり。グローフェというトレースを経ない、よりダイレクトなガーシュウィンの姿に、大いに惹き付けられる。また、ピアノ・ソロで奏でられることで、コンチェルト風の伝統の形式からも解放され、オーケストラのたくさんの音に捉われることなく、活き活きと弾むピアノが印象的。その一方で、オーケストラが奏でていた音が一台のピアノに集約され、焦点が絞られ、よりスタイリッシュなイメージも受ける。クラシックからは逸脱するカッコよさはありながらも、ガーシュウィンの時代のオールド・ファッションのジャズが、どこかノスタルジックにも感じられたラプソディー・イン・ブルーだったけれど。ピアノ・ソロ版は、そうしたノスタルジックさで曇らすことなく、ガーシュウィンの時代の輝いていたモダニズムを怜悧に捉えて、真新しく、クール!
そんな、ラプソディー・イン・ブルーの後は、肩の力を抜いて、私の彼氏(track.3)、ス・ワンダフル(track.5)、アイ・ガット・リズム(track.6)、魅惑のリズム(track.10)... ガーシュウィンのヒット・ナンバーが18曲、『ソング・ブック』(track.3-20)として、さらりとピアノで奏でられるのだけれど。お馴染みのメロディを、凝ったことはせず、シンプルに並べて、耳元を擽る感覚は、何とも言えず。どこか、ホテルのラウンジから聴こえて来るような、程好いユルさがたまらない。いや、だからこそ、ガーシュウィンのメロディー・メイカーとしてのセンスも際立ち。何気ないようで、聴く者の耳をしっかりと捉える、キャッチーなメロディ... 押しつけがましさの無い、それでいて、知らず知らず楽しい気分にしてくれる18曲。夏バテの耳には、最高な18曲かもしれない...
そんなガーシュウィンを聴かせてくれた、ブラレイ。フランスのピアニストの洒脱さが、ガーシュウィンのジャズにはしっくりと来て。また、クラシックのピアニストの、一音一音をきちっと鳴らす硬質さが、ガーシュウィンの、多少、軟派なあたりをキリっとさせていて。この絶妙なバランスが、見事。で、このバランスがあってこそ浮かび上がる、ジャズにしてクラシックを目指したガーシュウィンの独特の音楽観。ジャズではあっても、ただ「ジャズ」ではない、より洗練された音楽を響かせつつ、クラシックの堅っ苦しさには近寄らない、不思議なポジション。かのラヴェルが認めたという、「ガーシュウィン」という完成形... ブラレイのピアノで聴くガーシュウィンは、まさに、そうしたガーシュウィンを強く印象付けて来る。その音楽は、まったく以って独特なのだなと。
そして、その独特さの結晶に感じたのが、パリのアメリカ人(track.21)。この作品のどこか取っ散らかったようなイメージ... パリを行くアメリカ人の姿を数々のスナップでコラージュするような大胆さは、プーランク... いや、アイヴスすら思い浮かべることができ。また、そのパリの街の描写には、サティを思わせるところがあって、同時代のヨーロッパの音楽の息吹を思いっきり吸い込んで、それを近代音楽の都、「パリ」に昇華させる巧みさに、今さらながら、感心させられる。これもまた、オーケストラではなく、ピアノ・ソロだったからこそ、見えて来るものなのかもしれない。そいいう点で、ブラレイのガーシュウィンは、発見が多い... 何より、ガーシュウィンとは、こんなにもおもしろかったか?!と驚かされる。

GERSHWIN FRANK BRALEY

ガーシュウィン : ジャズボ・ブラウンのブルース 〔オペラ 『ポーギーとベス』 から〕
ガーシュウィン : ラプソディ・イン・ブルー 〔作曲者によるピアノ・ソロ版〕
ガーシュウィン : 『ソング・ブック』 〔作曲者による18のヒット歌曲編曲集〕
   私の彼氏/楽園への階段を作ろう/ス・ワンダフル/アイ・ガット・リズム/もう一度やってごらん/
   手をたたこう/オー・レディ・ビー・グッド/魅惑のリズム/誰かが私を愛している/マイ・ワン・アンド・オンリー/
   素敵な気持ち/スワニー/スウィート・アンド・ロウ・ダウン/君のほかは誰も/ストライク・アップ・ザ・バンド/
   フー・ケアーズ?/ドゥ・ドゥ・ドゥ/ライザ
ガーシュウィン : パリのアメリカ人 〔ウィリアム・デイリーによるピアノ・ソロ版〕
ガーシュウィン : 前奏曲(メロディー 17番)
ガーシュウィン : 前奏曲(四度のノヴェレッテ)
ガーシュウィン : 3つの前奏曲
ガーシュウィン : 即興曲 「2つの調性による」
ガーシュウィン : ハ調の2つのワルツ
ガーシュウィン : メリー・アンドリュー
ガーシュウィン : スリー・クウォーター・ブルース
ガーシュウィン : プロムナード/前奏曲

フランク・ブラレイ(ピアノ)

harmonia mundi FRANCE/HMC 901883




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