SSブログ

目の覚める!道化師の朝の歌。 [2005]

OC541.jpg
ここ数日の、思い掛けない過ごし易さ!
暑さ疲れも一段落して、何だか身も心も軽くなって、あらゆることがスムーズに動き出す... ちょっと気温が下がるだけで、こんなにも楽?なんて、改めて認識させられるのだけれど。こどもの頃(えーっと、そんな昔のつもりではないのだけれど、あれは、80年代... って、すでに四半世紀前であることに、軽く衝撃を覚える... )の記憶を手繰り寄せると、夏の暑さは、こんなものだったように感じる。もちろん暑い日もあった。が、熱中症のニュースなんてあっただろうか?そもそも「熱中症」という言葉すら知らなかったような気もする。そんな記憶を振り返ると、「温暖化」という言葉の重みが、ズシリと圧し掛かる。21世紀の「夏」は、あとどれくらい暑くなるのだろう?
さて、音楽でも、以前の記憶を手繰り寄せて... 今やベテランとして一角を占める、ヘルベルト・シュフ。彼の、2005年にリリースされた、ソロとしてのデビュー・アルバム、シューマンの『クライスレリアーナ』と、ラヴェルの『鏡』(OEHMS CLASSICS/OC 541)を、聴き直す。

シュフをおもしろい!と思ったのは、ラッヘンマンとシューベルトを組み合わせてしまったアルバム(OEHMS CLASSICS/OC 593)を聴いて... 現代音楽の、その最も"ゲンダイオンガク"な音楽(と、言えるのか?!)と、まだ若きロマン主義の時代、その若さの結晶のような音楽と組み合わせる大胆さ!大丈夫なのか?と思わせるほどの距離のある2つの時代感、音楽性を、見事にそとつのディスクに盛り付けてしまう... ラッヘンマンのラディカルさに、ロマンティックな気分を呼び込み、シューベルトのロマンティシズムは、どこか解体されてゆくような不思議さがあって、あり得ない組合せに、組合せの妙を見せ付けて来たセンス!に、ノック・アウト。その後も、モーツァルトからホリガーまで、幅広いレパートリーで「夜」を綴った"Nachtstücke"(OEHMS CLASSICS/OC 733)、ワルツの黎明期、ロマン派の作曲家による「ワルツ」にスポットを当てた"Sehnsuchtswalzer"(OEHMS CLASSICS/OC 754)と、シュフと言えば、何かおもしろい切り口で、クラシックの新たな一面を聴かせてくれる... という印象で見つめて来たのだけれど。ある意味、それらはギミックでもあり、ピアニスト、シュフ、そのものは、見え難くなっていたかもしれない。そこで引っ張り出して来た、ソロ・デビュー・アルバム...
シューマンの『クライスレリアーナ』(track.1-8)に、ラヴェルの『鏡』(track.9-13)。その後にリリースされたアルバムに比べれば、何とも素直というか、物足りない?良くも悪くも名刺代わりのソロ・デビュー・アルバム... そんなイメージを持って来たのだけれど、いや、このソロ・デビュー・アルバムこそ、シュフの本質に迫っているのかも。今、改めて聴いてみて、彼のタッチが持つ、独特の透明感に、大いに魅了される。単にクリアなのとは違う、一音一音が均質に並べられて、何か、点描画でも見るような感覚。まず、一音一音が美しい... 音楽として以前に、音が美しい... という希有な聴き応えがある。そして、その美しい音の連なりを、スーっと引いて見つめると、やさしい音楽の形が見えて来る。実は、『クライスレリアーナ』(track.1-8)が苦手だったりする。シューマンならではの起伏の激しさに、振り回されるような思いがして... が、シュフは、そういう感情の塊を解き解し、響きそのものに焦点を合わせる。ロマン主義なればこその迸りに捉われず、一音一音こそを大切に奏でる。すると、シューマンの起伏の激しさから、次の時代、さらに次の時代の兆しが、ぼんやりと浮かび上がるようで、おもしろい。
そして、『クライスレリアーナ』以上に、シュフのタッチが活きる、『鏡』(track.9-13)。ラヴェルならではの印象主義の音楽を、やはり点描のように捉え直す... すると、絵画同様に、色の鮮やかさが際立つ!それも、ひとつひとつの色が軽やかで、明るく、輝きに充ちていて。ラヴェルが描き込んだ全ての音が、一切、濁らず、鳴り切る爽快さ!これまで味わったことの無いような風通しの良い『鏡』。一方で、この作品に籠められた象徴主義的な気分は薄まるのかもしれない。が、かえって、そういう雰囲気的なものに流されることなく、ストイックにラヴェルの音と向き合って聴こえて来る響きの美しさは、替え難い。また、そこから見えて来るラヴェルの先進性... フェルドマンのアンビエントさを思わせる「悲しい鳥」(track.10)、ケージの東洋的な感性を思わせる「鐘の谷」(track.13)。鋭敏なタッチが、ラヴェルをヨーロッパの古い型枠から解き放ち、より自由な音楽へと再生するようで、真新しさすら感じられ。クラシックの重苦しさは消え去って、ひたすらに瑞々しい音楽が現れる。
それにしても、「道化師の朝の歌」(track.12)など、けして簡単ではない... というより、まさに難曲!だけれど、シュフの指は恐ろしく回る... そうして、見事に刻まれるリズム!こういうただならない技術力があってこそ、独特の透明感は生み出されるのだなと... 彼の凄さを再確認させられる。そもそも、このアルバムが評判になって、シュフの名前は知られるようになったわけで、ギミックな組合せに頼ることのない、真っ向勝負しての、見事なシューマンとラヴェル。今、改めて、聴き入るばかり。

HERBERT SCHUCH
ROBERT SCHUMANN: KREISLERIANA ・ MAURICE RAVEL: MIROIRS


シューマン : 『クライスレリアーナ』 Op.16
ラヴェル : 『鏡』

ヘルベルト・シュフ(ピアノ)

OEHMS CLASSICS/OC 541




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。