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"Nymphéa" [2005]

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さて、梅雨に入りました。となると、春は終わりかァ...
と、寂しく感じるのは、何となく春が短かったように感じられるから。温暖化が待ったなしの段階へ踏み込みつつある中、ますます、暑い!寒い!の両極端になって、より情緒的な春や秋は存在を薄めてゆくのだろう。いや、近頃、思うのは、季節のみならず、あらゆる場面で白か黒か... まるでオセロでもしているような、異様な緊張感に包まれているように感じるのだけれど。世界は、白でも黒でもなく、より複雑なグラデーションで織り成されていることを、世の中は、どうも否定したがる傾向にある?何だか、そんな毎日に疲れてしまう。というところに、梅雨入り。見上げる空はグレー。となれば、気分が滅入るかなと思いきや、白でも黒でもないグレーに癒されたり。暑くもなく、寒くもなく、それでいて、しとしと雨が降る。当然、アクティヴにはなれない。そういう状況に、不思議な安堵感。春はあっという間だったけれど、こういう梅雨も悪くないのかもしれない。夏を前に小休止。的な。
で、そんな音楽を聴いてみる。モネの睡蓮にインスパイアされた、サーリアホによる"Nymphéa"... 2005年にリリースされた、シカダ弦楽四重奏団による20世紀後半の弦楽四重奏のための作品集、"in due tempi"(ECM NEW SERIES/472 4222)を聴き直す。

モネといえば、睡蓮... わざわざ睡蓮の咲く池まで造ってしまっただけに、膨大な睡蓮の作品を残している。画家、肝煎りの庭の緑に囲まれ、様々な表情を見せる水面に浮かぶ睡蓮の葉と花、その穏やかな情景を捉えた絵は、広く人気を集め... なんてことは、改めて言うまでもないが... その睡蓮にインスパイアされた、フィンランドを代表する現代の作曲家、カイヤ・サーリアホ(b.1952)の弦楽四重奏とライヴ・エレクトロニクスによる"Nymphéa(睡蓮)"(track.1)。それは、モネの穏やかな画面をイメージしていると、肘鉄を喰らうことになる。
が、モネの睡蓮も、その膨大な作品を丁寧に見て行くと、穏やかなばかりではない画面もある。晩年、視力が落ちて、そのぼやけた視界から繰り出される激しい筆致。様々な色が乱舞するパワフルな画面は、抽象画の世界へと踏み込むような新しさを放つ。そんな睡蓮なのだろうか?ノイジーなサウンドでヴィヴィットに睡蓮を捉えたのが、サーリアホの"Nymphéa"(1987)。弦楽四重奏の鋭い響きは、形を捉えるよりも素早く衝動的に走るモネの筆致を思わせて。それをエレクトロニクスが存分に増幅して、鮮やかなトーンでアコースティックなサウンドの余白を埋めてゆく。そこから生まれる思い掛けないリリカルな表情。そこに、冥府へとつながる?睡蓮の池の底を覗いてしまうようなミステリアスさも漂わせて、単なる情景を越えた深みを見せる。この仄暗い池の底に漂うような感覚は、ここまでバロック三昧で来た耳には新鮮というか、ある種の安らぎをもたらしてくれるから不思議。
さて、"ゲンダイオンガク"の時代、20世紀後半の弦楽四重奏のための作品集ということで、サーリアホの後に、ケージ、マデルナが続く、"in due tempi"。エスタブリッシュされたヨーロッパの前衛(マデルナ)と、ヨーロッパの対岸で、さらなる前衛を目指した反芸術(ケージ)と、エレキで前衛を乗り越えようとする新たな感性(サーリアホ)。現代音楽というニッチなカテゴリーにあって、それぞれに個性を際立たせた作曲家たち、三者三様を、1枚のディスクに乗せてしまう大胆さ... が、「前衛」という、バロックなどからしたら極めて狭い範囲の言葉の中にも「流れ」を読み、弦楽四重奏というストイックな編成で、巧みに遡る器用さは、今、改めて聴いてみると、目を見張る。それでいて、その流れの、思い掛けない、滔々とした表情!「前衛」にも風格が漂う?おもしろさ...
サーリアホからは一転、切り詰めた音で綴られるケージの弦楽四重奏曲(track.2-5)は、この作曲家ならではの、俳句を思わせるような"間"が、油彩の後の水墨画のようで、また心に沁みる。最後のマデルナの弦楽四重奏曲(track.6, 7)は、滴るような「前衛」が、イタリアの艶やかさに彩られて、抽象にしてグラマラス。サウンドこそ"ゲンダイオンガク"ではあるのだけれど、そこから喚起されるイメージは、ティツィアーノやティントレットのような、ルネサンス末の薄暗い中で繰り広げられるドラマティックさ。いや、ロマンティックですらあるのかも。で、睡蓮に始まったせいか、何となく絵画的なイメージを結びつけたくなってしまう"in due tempi"の3作品... それでいて、何か、今の時期にしっくり来るように思えてしまう... 展覧会での、絵を前にした静けさ... 弦楽四重奏の瑞々しさ... それは、現代音楽=難解、というイメージをすり抜けて、心を潤してくれるよう。
そんな演奏を聴かせてくれる、シカダ弦楽四重奏団。現代作品のスペシャリストだけあって、下手に身構えることなく、余裕を以って作品と向き合い、難解に捉われない、より豊かなイメージを聴く者に与えてくれる。いや、サーリアホ、ケージ、マデルナの、それぞれの魅力を器用にすくい上げ、丁寧につないでゆく感覚が、何か、いい... 「前衛」を、よりポエティックに響かせて、印象的。

CIKADA STRING QUARTET
SAARIAHO / CAGE / MADERNA


サーリアホ : Nymphéa 〔弦楽四重奏とライヴ・エレクトロニクスのための〕
ケージ : 4つのパートからなる弦楽四重奏曲
マデルナ : 2つのテンポによる弦楽のための四重奏曲

シカダ弦楽四重奏団
ヘンリック・ハンニスダル(ヴァイオリン)
オッド・ハンニスダル(ヴァイオリン)
マレク・コンスタンティノヴィッツ(ヴィオラ)
モーテン・ハンニスダル(チェロ)

ECM NEW SERIES/472 4222




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