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"Concerti Napoletani" [2005]

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ヘンデルバッハヴィヴァルディには、強力なライバルがいた...
普段のクラシックからすると、ちょっと想像がつかない。が、バロック三大巨頭の人生を丁寧に紐解いてみると、必ずナポリ楽派の姿が視野に入って来る。ロンドンのヘンデルには、その強力なライバルとして招聘されたポルポラの存在があって。バッハに関しては、ライバルなどとは言えないかもしれない... ずっと求めていたドレスデンでのタイトル、ないしポストを、あっさりとひと回り若いハッセに持って行かれた。ヴィヴァルディに関しては、目の前でヴェネツィア楽派からナポリ楽派へと人気が移ってゆくのを見届けたわけだ。しかし、クラシックにおける「バロック」は、ナポリ楽派ではない。歴史は興味深い逆転をもたらし、それはまた残酷でもある。
が、今、ナポリ楽派の発掘が目覚ましい!で、彼らの音楽に触れてみれば、バロック三大巨頭のライバルとしての魅力に大いに納得させられる。さらには、そこから、モーツァルトやロッシーニの音楽が生み出されて行ったであろうことを見出し、音楽史のより大きな流れすら感じることができる。ということで、バロック三大巨頭に続いての、ナポリ楽派を聴くのだけれど... スター・カストラートたちを率いての歌モノのイメージが強いナポリ楽派によるチェロ協奏曲集... 2005年にリリースされた、キアラ・バンキーニ率いる、アンサンブル415の演奏、バロック・チェロの名手、ガエターノ・ナシッロのソロによる"Concerti Napoletani per Violoncello"(Zig-Zag Territoires/ZZT 050302)を聴き直す。

ファリネッリら、スター・カストラートを育てたことで知られるニコラ・ポルポラ(1686-1768)。そう多くはない18世紀のチェロのコンチェルトで、貴重なレパートリーを提供するレオナルド・レオ(1694-1744)。このあたりまでなら、珍しくはない存在だけれど、ニコラ・フィオレンツァ(?-1764)、ニコラ・サバティーノ(1705-96)となると、誰それ?ナポリ楽派の発掘は進んでも、まだまだ知られていない存在は多いのだろう。けれど、聴き慣れない名前の方が刺激的だったりする?そんな"Concerti Napoletani per Violoncello"の1曲目、フィオレンツァによるコンチェルト(track.1-4)。その1楽章から、圧倒される。
ロカッテリ(1695-1764)を思わせるような、激しさと艶やかさが、オーケストラとソロの対置で奏でられ、このコントラストが生むインパクトがまず凄い。それは、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714-88)のような多感主義を思わせて、「バロック」に留まらない気分を孕み。またそこに、イタリアならではのカラフルさも乗り、チェロという楽器の渋さの一方で、ヴィルトゥオージティが見事に花開き、アルプスの向こう側の多感主義とは一味違う、芳しさが広がる。それから、サバティーノのコンチェルト(track.17-20)。印象的なのが、2楽章(track.18)のフーガ!ちょっと、イタリア・バロックでは聴けないような、大バッハ(1685-1750)ばりの荘重なフーガで始まり、驚かせてくれる。続く3楽章(track.19)、アダージョの後半のカデンツァ。ドローンのような低い弦の響きの上を、チェロがアラベスクなメリスマを効かせて、ゾクっとさせられて... オリエントとオクシデントがまだ分断されていなかった地中海文明の残り香だろうか?ナポリの土着性のようなものを、瞬間、漂わせるナシッロのセンスが、見事なスパイスとなる!だからこそ、前古典派のような明るさに溢れる終楽章(track.20)の、ヨーロッパ性が際立ち、鮮やかに映える!何でも呑み込んで来た、ナポリの懐の深さを、さり気なく聴かせてくれるあたりが、粋。
もちろん、定番のレオのコンチェルト(track.9-12)、珍しいポルポラのコンチェルト(track.5-8)も魅力的。特に、ポルポラ!歌モノのイメージが強いだけに、コンチェルトのポルポラというのが、かなり新鮮なのだけれど、歌が独奏楽器に置き換わったと考えれば、コンチェルトもまたポルポラの音楽性を引き出すスタイルだったと言えるのかもしれない。いや、1楽章(track.9)から、ただならず惹き込まれる... 緩急緩急という構成こそバロック的なのかもしれないけれど、その「緩」で始まる1楽章の流麗さは、まるでハイドンの2番のチェロ協奏曲を聴くよう。そうか、ハイドンはポルポラについて学んでいたっけ... なんてことも思い出す。そして、何より、ソロを際立たせることに長けたポルポラ!そのあたりが、古典派すら通り越して、19世紀的なヴィルトゥオージティを予兆するようなところも。しかし、こんなにも魅惑的だったっけ?というより、ポルポラがコンチェルトを書いていることすら頭から消えていたのが正直なところ... 聴き直して良かった!定番のレオのコンチェルトより素敵かも...
それにしても、見事な演奏!まず、録音の良さも大いにあるのだけれど、バンキーニ+アンサンブル415の、びっくりするほどジューシーなサウンドにやられてしまう。瑞々しく、鮮やかで、悲喜交々、あらゆるものをたっぷりと含んで滴るように繰り広げるその演奏は、ちょっとマジカル。ヨーロッパの明快さだけではない、ナポリの眼前に広がる地中海を思わせるスケールを見せる。そこに、意気揚々と航海するのが、ナッシロのチェロだろうか。スター・カストラートの時代を彷彿とさせる技巧的で華麗なあたり、イタリアなればこその歌い、何よりその雄弁さ... 18世紀から、思い掛けない聴き応えを引き出し、魅了して来る。

Concerti Napoletani per Violoncello ・ Nasillo - Ensemble 415‎ - Banchini

フィオレンツァ : チェロとヴァイオリン群、通奏低音のための協奏曲 ヘ長調
ポルポラ : チェロ協奏曲 ト長調
レオ : チェロとヴァイオリン群のための協奏曲 イ長調
フィオレンツァ : チェロとヴァイオリン群、通奏低音のための協奏曲 イ短調
サバティーノ : チェロと2つのヴァイオリン、通奏低音のための協奏曲 ト長調

ガエターノ・ナシッロ(チェロ)
キアラ・バンキーニ(ヴァイオリン)/アンサンブル 415

Zig-Zag Territoires/ZZT 050302




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