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古典主義、ロマン主義、揺らめく音楽、フンメル。 [2005]

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梅雨入りともなれば、そろそろシーズン・オフ...
けれど、家聴き、となると、梅雨こそクラシック!なんて、思う。雨の日は、しっとりとクラシック... ま、しっとりとばかり行かないのも、幅の広いクラシックの真実ではあるのだけれど。雨の日は、自宅合宿でクラシック。幅広いクラシックにあって、最も「クラシック」なロマン主義と集中的に向き合ってみようかなと(実は、当blogの苦手カテゴリー?)。クラシックのイメージを決定付けるイズムと言っても過言ではないロマン主義を、改めて聴いてみる。ということで、6月はロマン主義下り。ライン下りみたいな... ドナウも含みつつの...
その始まりの1枚として、古典派とロマン派をつなぐ存在、フンメルを手に取ってみる。2005年にリリースされた、クリストフ・ハンマーの弾くピリオドのピアノによる、フンメルの2番と3番のピアノ・ソナタ(OEHMS CLASSICS/OC 360)を聴き直す。雨は降っていないけれど...

モーツァルトの弟子にして、ベートーヴェンのライバル、シューベルト、メンデルスゾーン、ショパンらに影響を与えたフンメル... と、改めてフンメルという存在を説明してみると、18世紀と19世紀をつなぐ、重要な連結器としての役割が浮かび上がる。が、普段のクラシックではあまりに目立たない。で、例の如くマニアック。こういうあたりが、何かもどかしいのだけれど。何がフンメルをメインストリームから遠ざけているのか?そのあまりに過渡的な姿だろうか?だからこそのおもしろさ(場合によっては不思議さ!)、興味深さがあると思うのだけれど... とにかく、フンメルの音楽の中には、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、メンデルスゾーン、ショパンが共生している。それはちょっと奇妙なのだけれど、間違いなく他にはない魅力!
そして、ハンマーが弾く2つのピアノ・ソナタ... モーツァルトの死から10年が過ぎ、ベートーヴェンが「ワルトシュタイン」(1803)や「熱情」(1805)といったソナタを発表していた頃、1805年に出版された2番と、1807年に完成した3番を聴くのだけれど。まずは、2番(track.1-3)。のっけから、グレゴリオ聖歌のアレルヤが織り込まれ、古い音楽へのアカデミックな興味を示した古典派の生真面目さが漂う。かと思えば、ベートーヴェンを思わせる激しさを垣間見せ... また、見事にモーツァルト的な、キラキラとしたサウンドに彩られてしまう。この新旧の間を揺らめく感覚が独特で。モーツァルトのつもりが、いつの間にかベートーヴェンになっていて、ベートーヴェンかと思っていたらモーツァルトに戻っている。いや、それは、モーツァルトでもベートーヴェンでもなくて、フンメルなのだけれど... この何を聴いているのかがよく分からなくなる感覚が、ちょっと刺激的だったり。
続く、3番(track.4-6)は、モーツァルトの「ジュピター」の1楽章のテーマが用いられることで知られる作品... それは、終楽章(track.6)の後半で力強く展開され、モーツァルトというよりはベートーヴェンのような盛り上がりを見せ、見事なフィナーレを迎える。のだけれど、まず耳を捉えるのは1楽章... 短調の物悲しさにロマンティシズムが帯びて、古典派の端正さからよりアグレッシヴなところへと踏み込み、ドラマ性を濃くし、やはりベートーヴェンのような雄弁さで魅了して来る。いや、こういう音楽をベートーヴェン以外の作曲家から聴くことが興味深い。フンメルのソナタにして、ベートーヴェンの同時代性が浮かび上がり、ベートーヴェンが必ずしも孤高の存在でなかったことを再確認させられる。ベートーヴェンばかりでは見えてこない世界が広がる。
そして、アルバムの後半、1800年製、アントン・ヴァルター(複製)のピアノから、1815年製、ヨーゼフ・ブロードマン(複製)のピアノに代えて、よりふくよかなサウンドで、より自由なスタイルの作品が繰り広げられるのだけれど。そこでは、ヴィルトゥオーゾ・ピアニストの先駆けとしてのフンメルの性格が、2つのソナタ以上に輝き出す。で、印象に残る、グルックのオペラをテーマに繰り広げられる変奏曲(track.7)。愛らしいフレーズを縦横無尽に変奏し... その縦横無尽さに、モーツァルトの時代を脱したセンスを見出し、ヴィルトゥオーゾの時代の到来を感じさせ。続く、幻想曲「瞑想」(track.8)は、まさしく瞑想的であるスローさに、シューベルトのような抒情性を湛え、瑞々しいロマンティシズムに包まれる。最後のポラッカ「ラ・ベッラ・カプリッチョーザ」(track.9)は、ロマン主義なればこその歌謡性の中にベートーヴェン流の激しさを見せる前半の一方で、軽やかにポラッカ(ポロネーズのイタリア語読み... という認識でいいのか?)を踊る後半が印象的で。それは、まさにショパンを予見させるキャッチーさ!いや、1曲でこの盛りだくさん!また、その盛りだくさんが生む華麗さが魅惑的...
というフンメルを聴かせてくれたハンマーのタッチがすばらしい。淡々としているようで、激しいところは激しく、時に荒ぶる打鍵が、ピアノ線のみならず楽器全体をも揺るがしてしまうところもあって、大胆。なのだけれど、全体としては、19世紀初頭の繊細なピアノを丁寧に鳴らし、一音一音をキラキラと輝かせる。下手に派手なことをするのではなく、スコアと実直に向き合いつつ紡がれる、19世紀初頭の新旧の揺らめきが何とも言えない味わいをもたらしてくれる。この揺れがまた心地良い。

Johann Nepomuk Hummel
Works for Pianoforte


フンメル : ピアノ・ソナタ 第2番 変ホ長調 Op.13
フンメル : ピアノ・ソナタ 第3番 ヘ短調 Op.20
フンメル : グルックのオペラ 『アルミード』 の主題による変奏曲 Op.57
フンメル : 幻想曲 「瞑想」 〔6つのバガテル Op.107 から 第3曲〕
フンメル : ポラッカ 「ラ・ベッラ・カプリッチョーザ」 Op.55

クリストフ・ハンマー(ピアノ : 1800年製、アントン・ヴァルター、複製/1815年製、ヨーゼフ・ブロードマン、複製)

OEHMS CLASSICS/OC 360

6月、ロマン主義下り。
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