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敵さえ取り込むヴィヴァルディの粋! [2005]

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さて、ヴィヴァルディが続きます。
で、そんなヴィヴァルディを聴いていて思う... 今、広がるクラシックの情景と、その音楽が生まれた当時の情景では、どれほどの開きがあるのだろう?戸口幸策著、『オペラの誕生』の、ちょうどヴィヴァルディが活躍した頃のヴェネツィアの章を開いて、読み直してみると、まったく驚かされてしまう。
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十七世紀の最後の二十年間を通じて、ヴェネーツィアは絶えず六つの歌劇団を維持し... 一七〇〇年ごろのヴェネーツィアの観光案内にはオペラ専門の劇場が七つ挙げられており... 一七〇〇年から一七四三年までに四三二曲初演されたという報告もある。当時のヴェネーツィアの人口は十二―十三万ほどであった。これは今日(1995年、出版... )の日本で言えば、ほぼ山口市(現在は20万弱とのこと... )あたりに該当し... このような状況や数字は、一九五〇年ごろの日本における映画の状況とよく似ていると言えるのではないだろうか。
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50年代の映画?と言われても、それすでに「クラシック」であって、ピンと来ないのだけれど。今、自分が住んでいる街のことを考えると、多少、抵抗もありつつパチンコ?なんかが思い浮かんだり。でもって、もし、パチンコでオペラを上演していたら?と考えると、何だか可笑しくなってしまう。新作入りました... 向かいの店の方が出るらしい... みたいな... いや、バロック期のヴェネツィアは、そんな感じだったのかもしれない。
ということで、ヴィヴァルディのオペラを聴くのだけれど、これがヴェネツィアではなくヴェローナの初演ということで、ちょっと複雑... いや、その分、興味深く... そんな、2005年にリリースされた、ファビオ・ビオンディ率いる、エウローパ・ガランテの演奏で、豪華、歌手陣による、ヴィヴァルディのパスティッチョ『バヤゼット』(Virgin CLASSICS/5 45676 2)を聴き直す。

1735年、ヴェネツィアではなく、ヴェローナで初演された『バヤゼット』。それは、ヴェネツィア楽派の凋落を象徴する作品だったらしい... とはいえ、「ヴィヴァルディ」という名前はヨーロッパ中に知れ渡り、各地で人気を集めていたというから、状況は複雑。『バヤゼット』が初演された年は、ナポリ王国がスペインから独立した年でもある。そして、"産""官""学"ではないけれど、"民""宮""学"(民間劇場+宮廷+音楽学校)で、じわりじわりと存在感を見せ始めたナポリ楽派の新しいスタイルは、ヨーロッパに先駆けて、流行の最先端にあったヴェネツィアでブレイク!ヴィヴァルディの新作は、ヴェネツィア共和国のイタリア本土領の中心都市、ヴェローナでの初演となった。つまり、ヨーロッパ全体ではまだまだヴェネツィア楽派が人気だったものの、主導権はすでにナポリ楽派へと移り始めていたわけだ。で、ヴィヴァルディの凄いところは、そういう状況すら作品に反映させてしまったところ!物語の対立軸に、自身の音楽とナポリ楽派の音楽を並べて、そのせめぎ合いを際立たせるという離れ業...
ティムールに占領されたバヤゼットの宮廷を舞台に、オスマン・トルコ、ビザンツ、トレビゾンドの皇族たちが入り乱れてのセレヴ愛憎劇... というのは、当時のオペラ・セリアの定番なのだけれど。タイトルロールたる、国を失い苦境に陥ったオスマン・トルコの皇帝、バヤゼットと、その娘、アステーリアのアリアが、ヴィヴァルディによる音楽。この親子を翻弄するセレヴたちが、ナポリ楽派による音楽、という構成。「パステッィチョ」は、すでに書かれていたオペラのアリアなどを寄せ集めて、作曲の手間を省いて安直にひとつのオペラに仕上げたもの。というイメージを覆す『バヤゼット』。確信犯的に、戦略的に寄せ集めているヴィヴァルディ。それも、国を失い、すっかり押され気味の主役親子担当なのがヴィヴァルディというのが、セルフ・パロディ?というか、自身の劣勢を冷静に巧みに捉えてしまう余裕... さすが、ヴェネツィア人、遊びに長けている!で、見事に、敵、ナポリ楽派の音楽を読み切って、バヤゼット親子を苦しめる敵のキャラクターに当てる。そういうセンスも冴えてしまうヴィヴァルディ。
例えば、トレビゾンド(ビザンツの分国、現在のトルコ北東、黒海沿海に存在したギリシア系の国)の女帝、イレーネの、気位の高い姫様キャラには、スター・カストラート、ファリネッリのために、兄、ブロスキが書いた、華麗にしてアクロバティックなコロラトゥーラが炸裂するアリア(disc.1, track.17)が当てられ。アリステーアの恋人、ビザンツの皇子、アンドローニコのあまやかさには、ハッセによるナポリ楽派ならではの流麗なアリア(disc.2, track.18)が当てられる。そうしたナポリ楽派のカラフルさに取り囲まれて、バヤゼット親子の実直さが浮かび上がるのか... ヴィヴァルディによるバヤゼットが歌う最初のアリア"Dal destin non dee lagnarsi"(disc.1, track.5)の、堂々たる風格。野心などないと訥々と歌うアステーリアのアリア"La cervetta timidetta"(disc.2, track.6)の素直さは印象的。いや、どれもすばらしい音楽で... バロックが絶頂を迎えようとした時の、最もホットなイタリアのオペラ・シーンの諸相が、ひとつのオペラの中に存在している贅沢さ!『バヤゼット』は、まるで音楽博物館のようなパスティッチョだ。どこを切っても魅惑的な音楽がこぼれ出す。
そんな作品を、見事に歌いつなぐ歌手たちが凄い!いや、これがまた贅沢なキャスティングで... タイトルロールのダルカンジェロ(バリトン)の雄弁なバヤゼット、華麗にして感情の幅を見せつけるジュノー(メッゾ・ソプラノ)のイレーネ、深みの中に穏やかさも湛えるミヤノヴィチ(メッゾ・ソプラノ)のアリステーア、そのアリステーアが恋をしてしまうのもわかる、やわらかで花のあるガランチャ(メッゾ・ソプラノ)のアンドローニコ... すばらしい歌声とともに、それぞれにキャラが立ち、物語をより立体的に聴かせてくれるかのよう。で、忘れてならないのが、ビオンディ+エウローパ・ガランテ!全ての音が洗練されていて、聴き惚れるばかり... で、ありながら、ヴィヴァルディが持つ勢い、激しさを、さらりと捉えて気持ちがいい!これ以上なく美しくありながら刺激的であるという驚くべき仕上がりに、圧倒される。『バヤゼット』というヴィヴァルディの挑戦を、これほど鮮やかに21世紀に蘇らせることができたのも、彼らが在ってこそ。彼らにとっても、これは大いなる挑戦であったはず。そして、やり切っている... 今、改めて聴き直してみて、さらに魅了されてしまう。

VIVALDI Bajazet
EUROPA GALANTE - FABIO BIONDI


ヴィヴァルディ : パスティッチョ 『バヤゼット』 RV 703

タメルラーノ : デイヴィッド・ダニエルズ(カウンターテナー)
バヤゼット : イルデブランド・ダルカンジェロ(バス)
アステーリア : マリヤナ・ミヤノヴィチ(メッゾ・ソプラノ)
アンドローニコ : エリナ・ガランチャ(メッゾ・ソプラノ)
イレーナ : ヴィヴィカ・ジュノー(メッゾ・ソプラノ)
イダスペ : パトリツィア・チョーフィ(ソプラノ)

ファビオ・ビオンディ/エウローパ・ガランテ

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5月、バロック三大巨頭を聴く!
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