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流行の劇場のヴィヴァルディ。 [2005]

ヘンデルバッハに続いての、ヴィヴァルディ...
21世紀、バロックの三大巨頭と言えば、この3人。けれど、バロックの音楽をいろいろ聴いてみると、必ずしもこの3人がバロックの時代の全てではなかったことが見えて来る。というより、バッハは間違いなくローカルな存在であって。それでも、今では他の2人と肩を並べ。それどころか、クラシックというジャンルそのものを象徴する存在に... 音楽史というのは、音楽の歴史であって、スコア上での革新と成果を追う側面が強い。そうして形作られたクラシックのイメージは、ストイックで、硬い気がする(仰々しいカツラをかぶって仏頂面のバッハのポートレートのように?)。で、そうしたところに、スコアに目を落とすばかりでない、ソーシャルな音楽の歴史が浮かび上がると、クラシックはもう少し様々なテイストを持って、おもしろくなるような気がするのだけれど。
で、21世紀に入って、俄然、おもしろくなって来た存在、ヴィヴァルディ!オペラ都市、ヴェネツィアの熱狂を伝える彼の"歌"の数々... そのあたりに、ちょっと刺激を受けてみようかなと、引っ張り出してみた、2005年にリリースされた、ヴィヴァルディ、2タイトル... アンサンブル・アルタセルセの演奏で、カウンターテナーのスター、フィリップ・ジャルスキーが歌う、カンタータ集(Virgin CLASSICS/5 45721 2)と、フェデリーコ・マリア・サルデッリ率いる、モード・アンティクォの演奏で、サンドリーヌ・ピオーら、ピリオドで活躍する実力派歌手たちが結集してのアリア集(naïve/OP 30411)を聴き直す。


劇場を離れてヴィヴァルディ... 朗らかなカンタータ...

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今では考えられないのだけれど、"大人"のアミューズメント・パーク(綺麗なお姉さんたちがいて... 賭け事とか楽しめて... )と化していたらしい、バロック期、ヴェネツィアのオペラハウス。その目玉が、カストラート・スターのスペクタクル・ショウだった... と考えると、何だかラスベガスのよう。で、ヴィヴァルディは、そんなオペラハウスのひとつを、興行主として切り盛りしていたというから、21世紀のクラシックのイメージでは推し量れない派手な世界に、バロックの三大巨頭の一角は身を置いていたのだろう。そして、ここで聴くのは、その派手な世界の対極となるのか、ヴィヴァルディの室内カンタータ。そのサウンド、何と素朴な!
94ものオペラを作曲したと豪語しているヴィヴァルディ、カンタータに関しては36(と、アルバムの解説にはあるのだけれど... )と、グっと少ない。やっぱり、ヴィヴァルディは劇場人だったのだなと、その数字から窺い知る。が、当時のイタリアにおけるカンタータの位置付け(バッハの教会カンタータとはまったく別物... 劇場ではなく、宮廷やサロンのような閉ざされた場所で歌われる、ある種、エリートの音楽... ということで、純芸術的な性格が強い... )を考えると、ヴィヴァルディのカンタータというのは、とても興味深い。劇場での押し出しの強さ、テンションの高さを差し引いて響く、作曲家、ヴィヴァルディの素の姿、真の力量や如何に?
ということで、5つのカンタータを歌う、ジャルスキー。彼ならではのピュアな歌声もあって、浮世離れした牧歌的な風景(アルカディア的な... )が広がる。通奏低音によるシンプルな伴奏、特に、ファゴットのちょっとユーモラスなサウンドがリードするアンサンブル・アルタセルセの演奏は、のほほんとした空気感を絶妙に生み出していて、癒される。で、その毒気が抜けたようなヴィヴァルディ像が、新鮮!久々に聴くと、また余計に... 一方で、ヴィヴァルディはヴィヴァルディであって、コロラトゥーラには攻撃的な部分もあるし、たっぷりと歌い上げもする。いつもとは違うトーンに包まれながらも、ヴィヴァルディの劇場人として鋭さは、そこかしこに潜んでいる。牧歌的なスローな中にも、醍醐味はしっかりとあるあたりが、かえって魅惑的でもあったり。
それにしても、軽やかなジャルスキー!この人のキャラクターが、ヴィヴァルディをポップに響かせてしまうおもしろさ。大見得を切るような「バロック」を考えれば、そのポップ感に物足りなさを感じてしまうところも無きにしも非ずだけれど、改めて聴いてみると、例えば、ティエポロのような、カナレットのような、18世紀のヴェネツィア画派の画面で漂うハッピー感や、穏やかな風景が思い浮かばれ、これもまたヴェネツィアの気分かなと、興味深く感じる。一方、アンサンブル・アルタセルセの演奏は、そんなハッピーで穏やかさの中に、ヴィルトゥオージティ溢れるパフォーマンスを繰り広げており。パパセルジョのファゴット、グリオッツィのチェロの演奏は圧巻!特に、チェロと通奏低音のめのソナタ(track.13-16)は、このカンタータ集に絶妙なアクセントを加えていて、ジャルスキーの歌ばかりではない魅力をさり気なく聴かせてくれる。

PIERRE HANTAÏ BACH / CLAVIER BIEN TEMPÉRÉ PREMIER LIVRE

ヴィヴァルディ : カンタータ 「魂と心の狩りに」 RV.670
ヴィヴァルディ : カンタータ 「このような見知らぬ小道へ」 RV.677
オペラ 『オルランド・フリオーソ』 RV.728 から "Piangerò sinché l'onda"
前奏曲 ヴィヴァルディに基づく テオルボ・ソロによる
ヴィヴァルディ : カンタータ 「懐かしき森、友なる牧場」 RV.671
ヴィヴァルディ : チェロと通奏低音のためのソナタ RV.47
ヴィヴァルディ : カンタータ 「不実な心」 RV.674
ヴィヴァルディ : オペラ 『ティート・マンリオ』 RV.778 "Di verde ulivo"
ヴィヴァルディ : カンタータ 「涙と嘆き」 RV.676

フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)
アンサンブル・アルタセルセ

Virgin CLASSICS/5 45721 2




イメージが広がるヴィヴァルディ。より多彩なアリアと重唱...

OP30411
トリノ国立図書館に、フォア・コレクションとして、多数、所蔵されているヴィヴァルディの手稿譜... そのフォア・コレクション、28巻に収録されている、アリア、重唱といったオペラの断片... それは、ヴィヴァルディが国際的に飛躍しようとしていた頃、1717年から21年に掛けて作曲されたもので、作曲者自身によるセレクション... そこから編まれたのがこのアルバム。ということで、ヴィヴァルディのポートフォリオとでも言うのか、これぞヴィヴァルディ!というばかりでなく、より多彩なヴィヴァルディ・オペラの魅力が詰まっている!
例えば、四重唱... 『カンダーチェ』からの"Anima del cor mio"(track.5)。ナンバー・オペラしかあり得ないような時代に、舞台上に4人ものキャストを立たせて、レチタティーヴォではなく、見事に歌でドラマを描き出していることに驚かされる。こういう形、ヴィヴァルディの次の時代、オペラ改革を予兆するようにも感じられ。元来、持っている、ヴィヴァルディならではのドラマティックなサウンドと共鳴し、バロックのスケール感を越えて迫って来るものがある。一方、自然描写が得意なヴィヴァルディ... 『四季』などで聴かせるその描写力は圧巻なわけだけれど、そうしたあたりをオペラでも聴かせてくれるのが、やはり『カンダーチェ』からのアリア、"Usignoli che piangete"(track.6)。ナイチンゲールを歌うこのナンバー、コロラトゥーラで見事に鳥のさえずりを表現していて、夜のしじまに響き渡る感覚がたまらない。で、もうひとつ、小鳥を歌う『シルヴィア』のからアリア、"Quell'augellin"(track.8)。『カンダーチェ』からのアリアもそうなのだけれど、歌手とヴァイオリンが歌比べをするような展開がまた魅力的。そして、"Zeffiretti, che sussurrate"(track.4)!後に『テルモドンテのエルコレ』のアリアとして使われるナンバー... で、西風を歌うエアリーさがたまらない!こだまの絶妙な効果といい、ヴィヴァルディの創意に改めて感服させられる。何より、「ヴィヴァルディ」のイメージが広がるのか...
ヴィヴァルディ自身のセレクションで、ひとつひとつ丁寧に聴くアリア、重唱というのは、ヴィヴァルディの底力を見せられるようで、とても興味深い。また、カンタータを聴いた後だと、その表情の豊かさに、感じ入るものさえあるのか(もちろん、カンタータも素敵だ!)。何と言っても、そう思わせるすばらしい歌と演奏!クラッシーなピオー(ソプラノ)の歌声は、鳥のナンバーなどで、より色彩感を増し。深い低音で魅了してくれるハレンベリ(メッゾ・ソプラノ)は、チャーミングさでも聴かせ。ベテラン、ロランス(メッゾ・ソプラノ)は、重唱のサポートに回る形ではあるのだけれど、その矍鑠とした存在感は印象深く... 軽やかなアグニュー(テノール)は、少し、繊細過ぎるようにも感じるのだけれど、その明るい声は替え難い。そんな4人を、巧みにサポートするサルデッリ+モード・アンティクォ!少しマッドなトーンで、背景に奥行きを与えつつ、軽やかさと鮮烈さを器用に使い分け、随所でメンバーの妙技も聴かせる。この職人的な感覚!そこから紡がれるヴィヴァルディのおもしろさは、ヴィヴァルディの生きた時代、その喧騒と粋なあたりを、卒なく描き出して、誘惑して来るかのよう。

Vivaldi Arie d'Opera

ヴィヴァルディ : オペラ 『カンダーチェ』 RV 704 から "Certo timor ch'ho in petto"
ヴィヴァルディ : オペラ 『シルヴィア』 RV 734 から "È barbaro quel cor"
ヴィヴァルディ : オペラ 『試練の中の真実』 RV 739 から "Mi fe reo l'amor d'un figlio"
ヴィヴァルディ : "Zeffiretti, che sussurrate" RV 749.21
ヴィヴァルディ : オペラ 『カンダーチェ』 RV 704 から "Anima del cor mio"
ヴィヴァルディ : オペラ 『カンダーチェ』 RV 704 から "Usignoli che piangete"
ヴィヴァルディ : オペラ 『試練の中の真実』 RV 739 から "Quando serve alla ragione"
ヴィヴァルディ : オペラ 『シルヴィア』 RV 734 から "Quell'augellin"
ヴィヴァルディ : オペラ 『シルヴィア』 RV 734 から "Mio cor s'io ti credessi"
ヴィヴァルディ : オペラ 『ティート・マンリオ』 RV 738 から "Dar la morte a te mia vita"
ヴィヴァルディ : オペラ 『ティエテベルガ』 RV 737 から "L'innocenza sfortunata"
ヴィヴァルディ : "Se fido rivedrò" RV 749.13
ヴィヴァルディ : オペラ 『シルヴィア』 RV 734 から "Sei tiranna se un ben fedel"
ヴィヴァルディ : オペラ 『ティート・マンリオ』 RV 738 から "D'improvviso riede il riso"
ヴィヴァルディ : オペラ 『カンダーチェ』 RV 704 から "Chi s'oppone e miei voleri"
ヴィヴァルディ : オペラ 『カンダーチェ』 RV 704 から "Io son frà l'onde"

サンドリーヌ・ピオー(ソプラノ)
アン・ハレンベリ(メッゾ・ソプラノ)
ポール・アグニュー(テノール)
ギルメット・ロランス(メッゾ・ソプラノ)
フェデリーコ・マリア・サルデッリ/モード・アンティクォ

naïve/OP 30411

5月、バロック三大巨頭を聴く!
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コメント 4

koh da saitama

carrelage_phonique 様
はじめてコメントさせていただきます。よろしくお願いします。
紹介なさっているヴィヴァルディのカンタータ、わたしはまだ聴いたことがないですが、とても魅力的な作品のようですね。
アリア集もよさそうですが、やはりカンタータの方を聴いて見たくなりました。早速CDを買おうと決めました。
ヘンデルのカンタータと較べるとどうなのか、今から楽しみです。
by koh da saitama (2013-05-23 13:28) 

carrelage_phonique

koh da saitamaさん、はじめまして!
そして、コメント、ありがとうございます。

さて、ヴィヴァルディのカンタータって、珍しいですよね。ヘンデルのカンタータならば、よく取り上げられますが... そして、ヴィヴァルディも素敵ですよ!特に、ジャルスキーが歌うこのアルバムは、凄くいい味、出てます。

そこで、ジャルスキー盤を考えられているようでしたら... ジャルスキーが歌うヴィヴァルディのアリア集とセットになったお買い得盤がありました。ヴィヴァルディのカンタータとオペラのコントラストが凄いです。
もし、よろしかったら...

http://bit.ly/196LZoN



by carrelage_phonique (2013-05-23 18:09) 

koh da saitama

carrelage_phonique 様
ジャルスキーのCD聴きました(お薦めにもかかわらず、1枚ものの方を買ってしまいました、すみません)。
このCDに関する記事をアップするにあたり、こちらのサイトをリンクさせていただきたく、ご連絡しました。よろしくお願いいたします。
by koh da saitama (2013-06-16 17:59) 

carrelage_phonique

ぜひぜひ、こちらこそ、よろしくお願いします。
記事、楽しみにしております!



by carrelage_phonique (2013-06-16 21:59) 

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