SSブログ

ブリテンを改めて見つめる、生誕100年... [2005]

6028692.jpg
古典派をたっぷり聴いた反動か、近代音楽へシフト?
ということで、没後50年のヒンデミットに続いての、生誕100年のブリテン(1913-76)を聴いてみる。のだけれど、生誕100年である。つまり100歳... 今となっては、生きていてもそう驚くことのない100歳。もしかすれば、ブリテンだって健在だったかもしれない。なんて考えると、おもしろい。当然ながら、100歳のバースデーは、盛大に祝われただろう。しかし、最も気になるのは、世を去った1976年以後、ブリテンがどんな作品を作曲しただろうか?というあたり... もちろん、それは、想像の域を出るものではないけれど、ブリテンに、80年代、90年代、そして21世紀を生きて、紡がれる音楽があったとするならば、どんなだったろう?スタイルこそ保守的ではあっても、そのサウンドは、より現代的な感性を持っていたように感じるブリテン。「前衛」と距離を置いて、洗練させて行った近代音楽は、どんな境地へと至っただろう?などと考えると、ワクワクしてしまうのだが...
という妄想はさておき、2005年にリリースされた、サイモン・ラトル率いる、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団による演奏で、イギリスを代表するテノール、イアン・ボストリッジが歌う、ブリテンのオーケストラ伴奏付き歌曲集(Virgin CLASSICS/6028692)を聴き直す。

とにかく、ボストリッジ!この人の歌声に魅了される。繊細かと思うと力強いイリュミナシオン(track.1-10)。ボーイ・ソプラノを思わせるイノセンスさを見せた後で、ダークな表情も見せ荒ぶるところさえあるセレナード(track.11-18)。ポエティックであり、またドラマティックでもあるノクターン(track.19-26)。歌曲とは言え、オーケストラの伴奏が付いて、3曲とも20分を越える長さともなれば、まるでカンタータのような聴き応え。で、そうした規模を、巧みに歌い上げるボストリッジ。その表情の豊かさに、まず、惹き込まれる。ボストリッジならではの透き通った美声は、ブリテンが書き込んだわずかなニュアンスも拾い上げ、テノールという領域を越えるような様々な色を見せつつ、より奥行きの深い世界を描き出す。文学の国、イギリスのテノール... そんなイメージだろうか?どこか、朗読をするような、スコアに依存しないような姿勢を感じ、テキストからのイマジネーションを大切にする?いや、歌曲というのは、本来、そういうものか... そんな、原点を感じさせてくれる歌声が、魅惑的。
そして、ラトル+ベルリン・フィルの演奏も、ボストリッジの姿勢を引き立てて、ブリテンの音楽が放つヴィヴィットさに捉われるのではなく、ブリテンの音楽そのものを改めて見つめるような感覚があって、新鮮!それは、翳を帯びて、ドイツ・ロマン主義の仄暗さのようなものが漂い... ブリテンの保守性の根っこにあるだろうドイツ・ロマン主義を浮かび上がらせるのか?ラトルは、近代音楽としてのブリテンよりも、より伝統に根差したブリテンの姿を見つめ直すようで。そうすることで、より味わいを増すブリテンの音楽!その、「20世紀」、「近代」といった言葉に振り回されず、ドンと腰を据えて生まれるブリテン像は、どっしりとした重厚感と、描写力の雄弁さが圧倒的。またそれを実現するベルリン・フィルの、機能性ばかりでない豊かな音楽性にも、改めて聴き入ってしまう。で、忘れてならないのが、セレナード(track.11-18)での、ホルン・ソロを聴かせてくれる、当時のベルリン・フィル、首席ホルン奏者を務めていた名手、バボラーク!美しく突き抜けた透明感、鮮やかな響きは当然ながら、スっと表情を曇らせて、ボストリッジが歌う世界の風向きが変わる瞬間を捉えるような、微妙な切り返しが、作品に緊張感を生み、息を呑む。ただ上手いだけじゃない、バボラークの鋭敏な嗅覚を感じさせ、セレナードを刺激的に盛り上げる。
という、ブリテンのオーケストラ伴奏付き歌曲集。今、改めて聴き直してみて、ブリテンの聴き応えに驚いた。"歌曲"とはいえ、そこにはブリテンの魅力が凝縮していて。また、ラトル+ベルリン・フィルが、それをより強固なものとして、骨太なブリテンを炸裂させる!ドーバー海峡を渡った先にある音楽というのは、大陸にはない絶妙なライトさが魅力... なんて思って来たが、ブリテンはライトであるばかりでない... 大陸に負けない充実した音楽を聴かせてくれるのだなと。保守的であったからこそ生まれる充実感を前にして、同時代の大陸における先鋭的な試みが、虚仮威しにも感じられなくもない聴き応えに、ちょっとにんまりしてしまう。

BRITTEN: SONG CYCLES
BOSTRIDGE ・ RATTLE


ブリテン : イリュミナシオン Op.18
ブリテン : セレナード Op.31 *
ブリテン : ノクターン Op.60

イアン・ボストリッジ(テノール)
ラデク・バボラーク(ホルン) *
サイモン・ラトル/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

EMI/5 58049 2




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。