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二〇一二、オペラから... [overview]

近頃、どうも、ぼんやりとしてしまう。
春だから?というばかりでなくて、今の「世の中」を、どう見据えていいのか、わからなくなって、よく見ようとしたり、見るのが疲れたり、している内に、焦点がぼやけて、ぼんやりとしてしまう。それは、難しく考えるでもなく、単に「世の中」に着いて行けないだけなのかもしれないけれど、「世の中」そのものも、どこか定まらなくなっていて、ぼんやりとしているのでは?21世紀も10年代に突入して、間違いなく20世紀的なスケールでは推し量れなくなって来ていて、一方で、21世紀的なスケールが見つからない... そうした中で、クラシックはどうなるのだろう?このぼんやりとした雰囲気の中で、どうやってその存在意義を訴えて行くのだろう?
なんて考えても、そもそもぼんやりとしている頭では、どうにも答えは導き出せません。ので、まずは目の前のことから片付けなくては... ということで、2012年のリリースを振り返る。交響曲からピアノまでを振り返った前半に続いての後半は、オペラから...
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オペラで、まず印象に残るのが、チェコの歌手たちを結集しての、ビエロフラーヴェクの指揮、ロンドン響によるスメタナのオペラ『売られた花嫁』(harmonia mundi/HMC 902119)。序曲に、舞曲は、よく聴いている... けれど、本編が聴きたい!と、思い続けて来ただけに、リリースされると知った時点ですでに感動していたり... で、実際に聴いて、想像通り、楽しかった!チェコの歌手たちによる見事なアンサンブルと、作品をクリアに捉えるビエロフラーヴェクのセンスが相俟って、最高のエンターテイメントに!
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そして、2012年のオペラで、最も驚かせてくれたのが、カウンターテナーのスターたちが結集し、カストラートの時代のオペラの栄光に肉薄した、ファゾリスの指揮、コンチェルト・ケルンによるヴィンチのオペラ『アルタセルセ』(Virgin CLASSICS/6028692)!男声の高音ばかりで、どんなドラマが紡げるのか?半信半疑なところもあったのだけれど、いや、これが独特の空気感を生み出していて、まず驚いた... そして、それを可能とした現代のカウンターテナーたちの高いレベルにも驚いた... そうして、驚くほど魅惑的なナポリ楽派の巨匠のオペラ!
ところで、バロックのオペラというと、ヴィンチの『アルタセルセ』が象徴するように、カストラートの独壇場であった... スターといえば、とにかくカストラートだった... という話しをいろいろ聞かされるのだけど、女声スターはいなかったのか?と、不思議に思って来たところに、ジュノー(メッゾ・ソプラノ)が歌う、"A TRIBUTE TO Faustina Bordoni"(deutsche harmonia mundi/88691944592)。18世紀前半、インターナショナルに活躍したプリマ、ハッセ夫人として知られるファウスティーナ・ボルディーニにスポットを当てた1枚は、カストラートばかりでなかったバロック期のオペラの新たな一面をクローズアップして新鮮!で、このファウスティーナが、にわかに注目を集めている?インヴェルニッツィ(ソプラノ)もファウスティーナを取り上げたり(GLOSSA/GCD 922606)と、ちょっと気になるファウスティーナ・ルネサンス...
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ヴォーカル... まずは、ロイス+エストニア・フィルハーモニック室内合唱団が、メンデルスゾーンとクレークの詩篇を歌う"PSALMS"(ONDINE/ODE 1201)。ロマン主義がまだ瑞々しさを失っていなかった頃のメンデルスゾーンと、ロマン主義の最後の残光とも言える20世紀のクレーク。ア・カペラというスタイルでしっかりと結び、新たな輝きを見出すおもしろさが印象に残る。また、北欧のコーラスならではの透明感の美しさ!この美しさでロマン主義を捉えて生まれる独特のスウィートさというのか、不思議な心地にしてくれる。
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そして、スウィートからは一転、衝撃的だったのが、クリスチャン・ヤルヴィ+MDR響らによるオルフの『カルミナ・ブラーナ』(SONY CLASSICAL/88725446212)。今さら、改めて聴くほどでも... と思いきや、まったく真新しい『カルミナ・ブラーナ』を繰り広げられていて... というより、『カルミナ・ブラーナ』とは、こういう作品だったのかと、初めて知るような感覚すらあって... 始まりと終わりのド迫力なコーラスのインパクトばかりでない、描き込まれた緻密な表情の全てを鮮やかに魅せるクリスチャンの音楽性に、圧倒される...
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2012年は、"ゲンダイオンガク"のアイコン、ケージの生誕100年のメモリアル!そして、没後20年でもあって... はてさて、そんな人物を、「現代音楽」というカテゴリーに入れていいのだろうか?なんて考えさせられた、ペシャの弾くプリペアド・ピアノによるケージのソナタとインターリュード(æon/AECD 1227)。現代としての生々しさ、前衛であるがゆえの危なっかしさが完全に抜け切って、20世紀の記念碑的作品として、堂々と繰り広げられる演奏に、ただならず魅了される。ケージもクラシック...
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にわかに、西洋音楽の源流にこだわりを持って、いろいろ聴いてみた2012年... 改めて音楽の原点に立ち返って、考えさせられるところもあったり... そうした中で、まず印象に残るのが、グレゴリオ聖歌と西洋音楽の黎明を歌う、トルヴェ+ヴォクス・クラマンティスの"Filia Sion"(ECM NEW SERIES/476 4499)。まったく以ってシンプルな音楽だけれど、シンプルであることの力強さ、突き抜けてゆくような真っ直ぐな様に、圧倒される。また、シンプルなものをシンプルに歌い上げるヴォクス・クレマンティスの歌声の透明感に、深く深く魅了される。
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さて、ヴォクス・クレマンティスとはまた違うセンスで、遠い昔を蘇らせた、ペレス+アンサンブル・オルガヌムによるディヴィティスとフェヴァンによるレクイエム(æon/AECD 1216)も印象に残る1枚。アンサンブル・オルガヌムならではの地声によるルネサンス・ポリフォニーの不思議さ!それこそ神々しく、浮世離れしたイメージのあるルネサンスの音楽を地上に降ろして、より人間臭く歌い上げたレクイエムの生命感に溢れるおもしろさ!けど、だからこそしっくり来るところも... で、ただならず癒されてしまう。
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最後は、ジャンルを越境する1枚... ということで、あのタローがジャズ?!と驚かされた1枚、様々なアーティストが集い、1920年代のパリのキャバレーを再現する、"LE BOEUF SUR LE TOIT"(Virgin CLASSICS/440737)。とにかく、凄いのは、1920年代、ジャズ・エイジのパリに迷い込んでしまったような錯覚を覚えること。エスプリと、猥雑さと、実在したキャバレーを、見事に再現し切っているあたり、ある種のピリオド?とすら思えて来る。そういう徹底したあたりにタローイズムを感じるのだけれど、タローの弾けっぷりも凄い...

ということで、2012年のリリースを10のカテゴリーでざっと振り返ってみたのだけれど、そこに、ぼんやりと、21世紀、10年代のクラシックのあり様を感じ取れた気がしている。それは、20世紀的な価値観に囚われず、思い切りよく信じた道を突き進む... とでも言おうか... 21世紀的な価値観がどうなるかはともかく、周囲がぼんやりとしているからこそ、自身を信じるしかない。そんな感じだろうか?また、そうした姿に、聴く側としては、これまでになく気持ちの良さを感じる。どこかでアカデミズムの箍が外れて、クラシックはより自由な感覚を取り戻そうとしているのか。作品が生まれた頃の、時代のクリエイティヴィティの最先端にあって、当然、「古典」ではなくて... 問題は、そういうクラシックが、今の時代にどれほどの存在意義を示せるか。なのだよな。

さて、次回、2012年のベストを選んでみたい。

交響曲 | 管弦楽曲 | 協奏曲 | 室内楽 | ピアノ
オペラ | ヴォーカル | 現代音楽 | 古楽 | ボーダーライン上のエリア




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