音楽史を遡って、ルネサンスの入口に立ち、ゴシックの大聖堂へ! [2005]
さて、何となく音楽の源流へと旅してみたくなって... 3月は古楽!
というのも、散々、クラシックを聴き散らかして来て、クラシックの始まりについては、おぼろげにしか把握できていないのだなと、少し思うところあって。そもそも、クラシックの始まり、つまり西洋音楽の始まりは、どこにあるのだろう?グレゴリオ聖歌!と、簡単に片づけることができる一方で、音楽史を丁寧に遡ったなら、どこまで遡れるのだろうか?そういう挑戦みたいなことをしてみたくなる。けれども、それは、立派な音楽史家でもなければ、なかなか難しいことは、重々、承知の上で... 未知なる源流を探検してみたくなる。やっぱ、探検好き。
ということで、2005年にリリースされた、アントニー・ピッツ率いる、古楽と現代作品を専門とするイギリスのコーラス、トーヌス・ペレグリヌスによる2つのアルバム... ルネサンス・ポリフォニーを聴いたので、そこから、ちょっと遡って、中世からルネサンスへと舵を切ったイギリスの作曲家、ダンスタブルのミサとモテット集"Sweet Harmony"(NAXOS/8.557341)と、さらに遡って、ゴシック期、ノートルダム楽派の巨匠、レオナンとペロタンによる聖歌集(NAXOS/8.557340)を聴き直す。
というのも、散々、クラシックを聴き散らかして来て、クラシックの始まりについては、おぼろげにしか把握できていないのだなと、少し思うところあって。そもそも、クラシックの始まり、つまり西洋音楽の始まりは、どこにあるのだろう?グレゴリオ聖歌!と、簡単に片づけることができる一方で、音楽史を丁寧に遡ったなら、どこまで遡れるのだろうか?そういう挑戦みたいなことをしてみたくなる。けれども、それは、立派な音楽史家でもなければ、なかなか難しいことは、重々、承知の上で... 未知なる源流を探検してみたくなる。やっぱ、探検好き。
ということで、2005年にリリースされた、アントニー・ピッツ率いる、古楽と現代作品を専門とするイギリスのコーラス、トーヌス・ペレグリヌスによる2つのアルバム... ルネサンス・ポリフォニーを聴いたので、そこから、ちょっと遡って、中世からルネサンスへと舵を切ったイギリスの作曲家、ダンスタブルのミサとモテット集"Sweet Harmony"(NAXOS/8.557341)と、さらに遡って、ゴシック期、ノートルダム楽派の巨匠、レオナンとペロタンによる聖歌集(NAXOS/8.557340)を聴き直す。
さて、まずはルネサンスをちょっと遡ってみる。といっても、「ルネサンス」自体が、クラシックというジャンルにとって、遥か昔になるのだけれど... そのルネサンスの入口。中世からルネサンスへの扉を開けたのが、イギリスの作曲家、ジョン・ダンスタブル(ca.1390-1453)。何とも尖がった印象を受ける中世の音楽を、やわらかくした人物... そんなイメージ?ここで聴くアルバムのタイトル、"Sweet Harmony"が、まさに!なのだけれど、ダンスタブルが活躍した頃というのは、ちょうど百年戦争(1337-1453)の後半。極めて厳しい国際情勢が続いた時期で、とてもスウィートとは言えない状況があった。北フランスはイギリス領となり、フランスの摂政となったベドフォード公(イギリス国王、エドワード5世の弟... )に仕えていたダンスタブルもまた、占領軍の一員としてフランスへ渡ることに... が、そうしてイギリスからもたらされた新たなセンスが、その後のルネサンスの音楽に、大きな繁栄をもたらしたことを考えると、百年戦争の音楽史における意味合いというのは、大きいのかなと...
という、背景はさて置き、"Sweet Harmony"。今、改めて聴き直してみれば、そのスウィートさに、いろいろなものが見えて来る。まず、ダンスタブル以前の、フランスの音楽、例えばマショー(ca.1300-77)などを思い返してみると、ダンスタブルは本当にスウィートに響く。それでいて、ルネサンス・ポリフォニーの壮麗なる多声にはまだ至らないシンプルな声部が、かえって聴き易いようなところもあって。また、そうしたところから覗かせる、メロディー、ハーモニーに、おおっ!?となる瞬間が。もちろん、中世の名残りはあるし、ポリフォニーによる音楽自体がとてつもなくアルカイックではあるのだけれど、何か、現代に通じる感覚が滲むような気がしてしまう。その後のルネサンス・ポリフォニーにはない、時を越えて、現代人の耳をも捉えるセンス... それこそが、ダンスタブルの「スウィート」さだろうか?またそれが、イギリスの音楽ならではのポップな感覚にもつながるようで。大陸の音楽には見出せないポップさ... エルガーやヴォーン・ウィリアムズ、ホルスト、ブリテン、あるいはビートルズ、ワンダイレクションまで行ってしまうのは無謀?等々、U.K.におけるポッピズムの源流が見えた気がする。
そうしたあたりを、また強調するのか?ピッツ+トーヌス・ペレグリヌスの歌声というのは、下手に精緻になるのではなく、ふんわりとしていて、そのふんわり感がもの凄く心地良い。極めてハイ・レベルなコーラス・グループはいろいろあって、徹底してクリアさを極めるアプローチ(声部が異様に多くなるウルトラ・ポリフォニーともなれば、そうでなくては話しにならないわけだけれど... )が、ルネサンスのイメージを形作っているように思うのだけれど。そうして、研ぎ澄まされて生み出される浮世離れした天上感みたいなものは、極上の美しさでありがたく鳴り響く反面、何か近寄り難いものを感じる時もある。そのあたり、トーヌス・ペレグリヌスの歌声というのは、寄り添ってくれるような距離感で、ほんのりと、温もりすら感じさせてくれる。もちろん、彼らがレベルに達していないということではなくて... 何だろう?そうあるべき... という固定観念に捉われない自由さ、「現代っ子」感覚のようなものを感じるのか。そこから紡がれる音楽は、けして硬くならない魅力がある。
DUNSTABLE: Sweet Harmony
■ ダンスタブル : あなたは何者にもまして美しい JD 44
■ ダンスタブル : キリエ JD 1
■ ダンスタブル : 4声のグローリア JD 11
■ ダンスタブル : 4声のクレド JD 12
■ ダンスタブル : グローリア "Jesu Christe Fili Dei" JD 15
■ ダンスタブル : クレド "Jesu Christe Fili Dei" JD 16
■ ダンスタブル : サンクトゥス JD 6
■ ダンスタブル : クレド "Da gaudiorum premia" JD 17
■ ダンスタブル : サンクトゥス "Da gaudiorum premia" JD 18
■ ダンスタブル : アニュス・デイ JD 14
■ ダンスタブル : 来れ聖霊よ ― 来れ創造主なる聖霊 JD 32
■ ダンスタブル : カノン形式のグローリア 〔マーガレット・ベントによる再構成〕
アントニー・ピッツ/トーヌス・ペレグリヌス
NAXOS/8.557341
■ ダンスタブル : あなたは何者にもまして美しい JD 44
■ ダンスタブル : キリエ JD 1
■ ダンスタブル : 4声のグローリア JD 11
■ ダンスタブル : 4声のクレド JD 12
■ ダンスタブル : グローリア "Jesu Christe Fili Dei" JD 15
■ ダンスタブル : クレド "Jesu Christe Fili Dei" JD 16
■ ダンスタブル : サンクトゥス JD 6
■ ダンスタブル : クレド "Da gaudiorum premia" JD 17
■ ダンスタブル : サンクトゥス "Da gaudiorum premia" JD 18
■ ダンスタブル : アニュス・デイ JD 14
■ ダンスタブル : 来れ聖霊よ ― 来れ創造主なる聖霊 JD 32
■ ダンスタブル : カノン形式のグローリア 〔マーガレット・ベントによる再構成〕
アントニー・ピッツ/トーヌス・ペレグリヌス
NAXOS/8.557341
ルネサンス期の入口から、ゴシック期へと遡る。ダンスタブルからだと、マショー(百年戦争、前半に活躍した... )あたりを聴くのがいいのかもしれないけれど、どうもマショーの時代、アルス・ノヴァの音楽というのが苦手でして... 現代人の耳には、やっぱり尖がって聴こえると思うのだけれど... で、さらに遡って、ノートルダム楽派。その2人の巨匠、レオナン(12世紀後半)と、ペロタン(12世紀末から13世紀初頭)による、パリのノートルダム大聖堂で歌われた聖歌集を聴き直すのだけれど。まず、そのイニシエの歌声のインパクト!音楽史もだいぶ遡って来ました!最上流です。というトーンに、ガツーンとやられる。普段、如何に、音の多い世界(音楽のみならず!)に塗れているのかを思い知らされる1曲目、ペロタンの「祝せられた胎よ」!からして凄い...
雨音を背景に、美しいソプラノが、一本筋の通った単旋律の歌を歌い上げるのだけれど、その凛とした佇まいと、そこから発せられる、想像以上にヴィヴィットな響き!シンプルなメロディーが研ぎ澄まされて広がるヴィジョンというのは、下手な交響曲よりも雄弁で、何と言う存在感!雨音というのは、ちょっとズルい気もするけれど、これが醸すウォータリー感に、現代人のドライ気味な心は間違いなく潤わされる。そして、この雰囲気が「ゴシック」の空気感だったのだろうなと、イマジネーションは膨らむ。そこから、グレゴリオ聖歌(track.2)を聴くのだけれど... たっぷりの残響の中で響く男声アンサンブルは、ドーンと広がりを見せて、さらに惹き込まれるのだけれど、その後で、レオナンのオルガヌム、「地上のすべての国々は」(track.3-16)の、2声部となった雄弁さには、さらにさらに... ユニヴァーサルにすら感じる低音部の上で、まるで蝋燭の火が揺らめくように旋律を歌うテノールの瑞々しさは、ゾクゾクしてしまう。そして、ペロタンのオルガヌム、「地上のすべての国々は」(track.23-29)... レオナンのものを拡大し発展させた4声部のハーモニーの、鮮やかさたるや!シンプルでありながらも、巧みに声部を重ねて、反復させ、広がりを見せるあたり、まるでミニマル・ミュージック。ルネサンスからさらに遡って、朴訥としたシンプルに留まるゴシックの音楽だけれど、そのあたりがまたシックでもあって、それでいてサイケデリックでもあるおもしろさ!今、改めて聴いてみて、こんなにもおもしろかった?!と、驚いてしまう。
そんなノートルダム楽派を聴かせてくれた、ピッツ+トーヌス・ペレグリヌス。より色彩感のあるアンサンブルが印象的で、中世の音楽の峻厳さのようなものからは距離を取って、活き活きとした中世像を提示する。その魅惑的な様は、ゴシック期の独特のセンスを、まるでニューエイジのような感覚で捉えて、強烈にイニシエでありながらも、奇妙にも、古さを感じさせない新鮮さを以って、歌い響かせる。いや、中世の人々にとっては、ノートルダム楽派こそニューエイジだったのかもしれない。絶妙に声部を増やしてゆく展開で、その都度、はっとさせられる感覚は、中世の人々にとって、さらに驚きだったはず。
LEONIN ・ PEROTIN: Sacred Music from Notre-Dame
■ ペロタン : 祝せられた胎よ 〔単旋律コンドゥクス〕
■ グレゴリオ聖歌 「地上のすべての国々は」
■ レオナン : 地上のすべての国々は
■ 作曲者不詳 : 2声のクラウズラ 「ドミヌス」
■ ペロタン : 地上のすべての国々は
■ 作曲者不詳 : 地上のすべての国々は
■ 作曲者不詳 : 主よ、我々にではなく
■ ペロタン : 支配者らは集まりて 〔4声のオルガヌム〕
■ 作曲者不詳 : 古き法は廃れ
アントニー・ピッツ/トーヌス・ペレグリヌス
NAXOS/8.557340
■ ペロタン : 祝せられた胎よ 〔単旋律コンドゥクス〕
■ グレゴリオ聖歌 「地上のすべての国々は」
■ レオナン : 地上のすべての国々は
■ 作曲者不詳 : 2声のクラウズラ 「ドミヌス」
■ ペロタン : 地上のすべての国々は
■ 作曲者不詳 : 地上のすべての国々は
■ 作曲者不詳 : 主よ、我々にではなく
■ ペロタン : 支配者らは集まりて 〔4声のオルガヌム〕
■ 作曲者不詳 : 古き法は廃れ
アントニー・ピッツ/トーヌス・ペレグリヌス
NAXOS/8.557340
コメント 0