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オーガニック・ルネサンス・ポリフォニーな癒しの奇跡! [2012]

何となく、気になって読み始めた本、『叱り叱られ』...
えーっと、クラシックからは離れるのだけれど。サンボマスターのヴォーカル、山口隆氏と、日本の"ロックンロール"を切り拓いて来たマエストロたちの対談集。けして詳しいわけでも、よく聴いているジャンルでもない。それでも気になって読み始めたのは何でだろう?そうして惹き込まれてしまったのは何だろう?クラシック、ロック、ジャズ、ポップス、そういう枠組みは関係なく、音楽そのものにストイックに向き合って、いや格闘してと言うべきか、音楽の魔法を探りつつ、音楽の時代や社会とのつながりを考える、山口君の真摯な姿勢(同世代として、同じ空気感の中、呼吸して来た者として、ただならずシンパシーを感じてしまうのだよね... )。何より、音楽への愛に充ち満ちていて。あー、クラシックは、これができるだろうか?と、考えさせられてしまう。考えさせられつつ、やっぱ音楽は凄いし、凄いということを再確認できたことがすばらしい!そんな、音楽賛歌な一冊に、元気をもらう。というのも、音楽に対して、元気に向き合えていない自分がいるからか。こんな時こそ、音楽と格闘すべきなのかも。
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さて、クラシックに話しを戻しまして、ルネサンス期の音楽を聴くのだけれど、ここでは、ただならず癒された。とはいえ、美しくアンビエントなルネサンス・ポリフォニーに癒されたのではなく、生命感に充ち溢れ、不器用にも力強くルネサンス・ポリフォニーを織り上げてゆく、人間臭いアンサンブルに癒された... そんな力強い一枚、古楽界切っての鬼才、マルセル・ペレス率いる、アンサンブル・オルガヌムによる、ディヴィティスとフェヴァンによるレクイエム(æon/AECD 1216)を聴く。

アンサンブル・オルガヌムは、これまでもルネサンスをレパートリーとしているし、その強烈な地声で、何でも歌い切ってしまうことはわかってはいるのだけれど。やっぱり、彼らの突き抜けたオーガニックなハーモニーと、ヘイブンリーなルネサンス・ポリフォニー(今となっては、多少、ステレオ・タイプなのかもしれないけれど... )、この異質なる2つのセンスを、どう折り合いを付けるのだろう?と、興味深く感じる。そして、フランスの宮廷に仕えた2人の作曲家、アントワン・ディヴィティス(ca.1475-ca.1530)と、アントワーヌ・ドゥ・フェヴァン(ca.1470-1511 or 12)の音楽によるレクイエムを聴くのだけれど... 始まりの入祭唱からして、ただならない...
地声というイメージを越えてしまっている地鳴りがしそうな低音部と、クラシカルな美しさも見せる高音部を、躊躇することなく重ねて、生まれる独特のトーン。まるで、ブルガリアン・ヴォイスを聴くような、そんな感覚すらあって、その粗削りとも言えるハーモニーは、多少のピッチのズレも含まれているのか、不協和音も混入して、いわゆるルネサンス・ポリフォニーならではの美しさとは一線を画す。が、こうして、アンサンブル・オルガヌムのセンスで歌い上げられてのルネサンス・ポリフォニーは、これまでになく力強い存在感を示す。裏漉しされた美しい声のハーモニーで聴くのではない、様々な声が集って響く、ルネサンス・ポリフォニーの、人間臭さ... 美しい音響が広がるアンビエントさは薄れ、エモーショナルな音楽のうねりすら生み出していて、いつもと違って、強く訴え掛けて来るものがあるのか。いや、訴え掛けて来るというより、聴く者の魂に揺さぶりを掛けて来るような、不思議なパワーを感じてしまう。その不思議さを際立たせるのが、端々に散りばめられた、アラベスクなメリスマ!それらがスパイスとなって、東方正教会の聖歌のような、エスニックさすら立ち込めて、その濃さに、惹き込まれる。
さて、ルネサンス期の歌声はどんなものだったのか?今となってはわからないところだけれど、ベルカントが生まれる遥か以前の歌声ともなれば、大いに"地声"はありかなと... そして、アンサンブル・オルガヌムによるディヴィティス、フェヴァンによるレクイエムを聴いていると、これが正解かも... とすら、思えて来る。美しくも、どこか冷たく感じていたルネサンスのポリフォニーが、地声で織り成されると、何だかどっしりと、地に足が着いたようで、これまでにない安定感が生まれるからおもしろい。何より、音楽がみるみる息衝いて、体温を孕み出すような、この温度感がたまらない。そんな温度感を以って歌われるレクイエムは、死者を送るやさしさに充ち溢れて。死を大袈裟に悲しむのではなく、死者のこれまでの人生に思いを寄せ、懐かしみつつ、その死を受け入れ、送り出す。アンサンブル・オルガヌムならではのオーガニックさが、やがて土へと帰る肉体を、しっかりと抱き留める... そんな抱擁感に癒される!何だろう、この癒され感... とてつもなく、灰汁の強いハーモニーでありながら、不思議と心地良いハーモニー。これこそが、ペレス+アンサンブル・オルガヌムの凄さなのだろう...
ひとりひとりが、しっかりとした個性を持ち、またそれを調整することなく、素のままで発してゆく。となると、個性と個性がぶつかってしまうのではないか?そもそもひとつのアンサンブルとして成立するのだろうか?ペレスがやろうとしていることを改めて見つめると、かなりのギャンブラーに思えて来る。が、やり切ってしまうペレスのバランス感覚は、きっとタダモノではないのだろう。とにかく、見事にまとめ上げる!いや、まとめ上げるというよりは、個性を束ねる、というのが正しいのかもしれない。それでいて、きつく縛ってひとつに束ねることはしない。遊びの余地も残していて。そこにこそ、音楽の旨味のようなものを生み出してしまう魔法!そういう、絶妙の緩さで束ねるからこそ、ひとつひとつの個性が、雄弁に存在感を示し、なおかつそれらが束となった時のさらなる存在感は、凄まじい... そうして、ルネサンス・ポリフォニーに命を吹き込む。レクイエムでありながら、蘇生させてしまうのだから、これはある種の奇跡?なんて言いたくなる。

DIVITIS ・ DE FÉVIN LUX PERPETUA ORGANUM

ディヴィティス/フェヴァン : レクイエム

マルセル・ペレス/アンサンブル・オルガヌム

æon/AECD 1216

3月、源流を目指して...
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