SSブログ

周縁性から紡がれる、フランス流、ロマン主義、ロパルツ... [2005]

1C1093.jpg05sym.gif
フランスの芸術音楽が再び息を吹き返す頃、19世紀後半以降...
というのが、ちょっと教科書的というか、アカデミック視点で、釈然としない気持ちもあるのだけれど(大時代的なグランド・オペラも、猥雑で辛辣極まりないオペラ・ブッフも、ヴィルトゥオーゾたちによる華麗なるコンチェルトも、時代を象徴していて、実に魅力的!)。そうした時代、フランスの芸術音楽の復興の担い手となったのが、印象主義の面々... となるのか?いや、前回、聴いた、フォーレなどを改めて見つめてみると、"フランスの芸術音楽が再び息を吹き返す頃"というのは、新旧入り乱れ、思い掛けなく多様で、刺激的だったのかもしれない。それは、19世紀以降、音楽史のメインストリームを占めていた、ドイツを凌ぐ多様さだったように感じる。
そこで聴いてみるのが、ドビュッシーの2つ年下で、印象主義の対岸にあって、ドイツ・ロマン主義を拠り所としたフランキストのひとり、ロパルツの音楽。2005年のリリース... セバスチャン・ラング・レッシングが率いた、ロレーヌ国立歌劇場のオーケストラ、オルケストル・サンフォニク・エ・リリク・ドゥ・ナンシーによる、ロパルツの1番と4番の交響曲(timpani/1C1093)を聴き直す。

ジョゼフ・ギイ・ロパルツ(1864-1955)。
フランス、ブルターニュの出身。パリのコンセルヴァトワールにて、昨年、静かに盛り上がったデュボワ(1837-1924)に作曲を学び、マスネ(1842-1912)らにも師事。ドビュッシー(1862-1918)と同世代でありながら、近代音楽が勃興してゆく傍らで、ドイツ・ロマン主義を移植して、フランスの芸術音楽を復興しようとしたフランク(1822-90)に心酔し、"フランキスト"のひとりとして、ロマンティックな作品を20世紀に入ってからも臆することなく生み出して行ったロマンティスト。となると、なかなか目立ち得なかったか。何しろ、フランスが薫る、モダンで洒落たドビュッシーやラヴェル、新しいムーヴメントに溢れたパリの喧騒を伝えるフランス6人組など、19世紀末から20世紀前半のフランスの音楽は、個性的で魅惑的な近代音楽でいっぱい!どうしてもそういう方へと目が行ってしまう。が、ロマン主義を貫いたロパルツの音楽というのは、近代が「近代」としての役割を終えた今こそ、浮かび上がるような気がする。ロマンティックも、モダニスティックも、ノスタルジックとなった今こそ...
まず、1番の交響曲(track.1-3)。やはり同世代のマーラー(1860-1911)が、「復活」を完成させた頃、1894年の作品。となると、それは、まさに「世紀末」の頃であって、煮詰まったロマン主義に、のたうちながら格闘(その先に、無調という崩壊が待っていて... )したウィーンの作曲家たちとは違い、ロパルツのロマン主義は爽やか!そりゃ、マーラーと比べれば何でもそうなるのかもしれないけれど... 複雑になり過ぎず、風通しの良いサウンドで織り成す「爽やか」さは、ちょっと不思議で新鮮。ドイツの影響を多分に受けながらも、「爽やか」と表現できてしまうロマンティシズムの濃度が、ロパルツのフランス性なのだろう。また、どことなしに素朴な佇まいがあって、「ブルターニュのコラールによる」という副題が示す通り、大西洋に突き出したブルターニュ半島の、パリからは遠く離れた田舎の素朴さというのが、いい味を醸す。終楽章(track.3)の、冒頭のフォークロワでキャッチーなメロディは、ツボ。一方で、そのブルターニュのコラールを巧みに織り込みながら、最後の最後で高らかに歌い上げるあたりは、まさしくドイツ流?メンデルスゾーンの5番の交響曲、「宗教改革」の終楽章(バッハなど、様々なドイツの作曲家が用いた定番のメロディ、かのマルティン・ルターによるコラール「神はわがやぐら」が巧みに取り込まれつつ、最後に高らかに歌い上げられる!)のイメージとも重なって、どこか古典的な風合も感じられて、おもしろい。
そして、この1番を聴いて、フランスにおけるロマン主義の到達点を見たような気がする。どんなにかフランクや、フランキストたちががんばって、フランスにおける芸術音楽としての「ロマン主義」を盛り上げようとしても、フランス音楽のメインストリームには成り得なかったわけで... 無情にも、ロマン主義よりも先へと興味が向いて行ったフランスの音楽。そうしたフランスの音楽史の、脇に回っての、密やかなる頂点?ロパルツは、1番を作曲した年に、ナンシーの音楽院の院長に就任し、以後、四半世紀もその職を勤め上げ、その後は、ストラスブールの音楽院の院長を10年務めるのだけれど... パリではなく、ロレーヌ、アルザスという、フランスにしてドイツ語圏という、中心から外れた周縁性が、ロパルツの音楽を象徴しているように感じる。それから、ケルトの文化が息衝くブルターニュの生まれというアイデンティティ... パリのイメージで捉えがちなフランスだけれど、こうして丁寧に、フランスの音楽、ロパルツの交響曲を聴いてみると、より多様なフランスの姿を発見できて、とても興味深い。
そんな、ロパルツを聴かせてくれた、ラング・レッシング、オルケストル・サンフォニク・エ・リリク・ドゥ・ナンシー(この名前が面倒くさい!「ナンシー歌劇場交響楽団」という和訳は、ちょっとキツい気がするのだけれど... とりあえず、以後、ナンシー歌響で行きます... でいいのか?)。ロパルツの交響曲、世界初録音となったこの演奏は、ナンシーという街の縁もあってか、ナンシー歌響の作曲家への愛情をそこはかとなしに感じるもの。丁寧にスコアに向き合い、清々しくロパルツのロマン主義を鳴らしてゆく。ややもすると、大時代的な、大味の音楽に流れてしまいそうな危うさも抱えるロパルツの交響曲だけれど、一瞬たりとも甘くなることなく、心地良い緊張感を以って、「爽やか」に仕上げるラング・レッシング。力みのない、素直な音楽作りが、ロパルツのロマン主義を瑞々しく浮かび上がらせ、最高に恵まれた世界初録音だったなと...

JOSEPH-GUY ROPARTZ symphonies n°1 & 4

ロパルツ : 交響曲 第1番 イ短調 「ブルターニュのコラールによる」
ロパルツ : 交響曲 第4番 ハ長調

セバスチャン・ラング・レッシング/オルケストル・サンフォニク・エ・リリク・ドゥ・ナンシー

timpani/1C1093

さて、4番の交響曲(track.4-6)の交響曲も忘れるわけにはいかない。
パリでバレエ・リュス(1909-)が旋風を巻き起こし始めた頃、1910年の作品... となれば、さすがにロパルツのロマン主義にも、印象主義的なカラー・パレットが持ち込まれつつあって... 素朴で古風ですらあった1番からすると大いにヴィヴィット!ウィーンのロマンティシズムには及ばなくとも、フランスにおけるロマン主義も、20世紀に突入し、進化の兆しを見せるのか。そうしたあたりに、映画音楽を思わせるところもあって、印象的。それにしても、こういう近代の対岸で、充実した交響曲を織り成していたロパルツ。この録音が世界初録音だったとは... 発展史観の偏狭さというか、教科書的にクラシックを聴くことは、広い世界を目隠しして歩くようなものだろうか。改めて、ロパルツを聴いてみて、考えさせられる。




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。