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これこそが本物の印象主義なのかもしれない... ケクラン... [2012]

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フォーレ、ロパルツと聴いての、ケクラン...
フランス、19世紀末から20世紀初頭に掛けての頃、ロマンティックなあたりから、モダンへと踏み込んでみるのだけれど。ロマン主義のサウンドをしっかりと味わってから聴くケクランは、そのあまりの瑞々しさにびっくりしてしまう。フォーレ、ロパルツが描き出す世界が、豪勢な額縁に収まったアカデミックな油彩ならば、ケクランの描き出す世界は、たっぷりと水を含んで、さらりと描き上げられた水彩だろうな... 絵画の世界も、印象派が契機となって、大きく飛躍した時代、音楽もまた、多様な表現を生み、『春の祭典』の初演を迎えることになるわけだけれど。改めて見つめると、この時代のフランスの芸術の、ビッグ・バンのような進化と拡大は、何だったのだろう?そのパワーがどこから来たのか、とても気になる。のは、今の芸術にパワー不足を感じるからか?
という現代の悩みはさて置き... フランスの金管アンサンブル、アンサンブル・イニシウムと、ちょっと個性的な編成で、個性的なレパートリーを持つ、フランスの個性派アンサンブル、アンサンブル・コントラストによる、ケクランのアンサンブル作品集(timpani/1C1193)を聴く。

陸景と海景(track.1-12)の、始まり、「崖の上」。フルートが何気なくスーっと引くラインは水平線だろうか?フルートとピアノによる少ない音で、たっぷりの余韻で、思い掛けなく瑞々しい情景を描き上げる。そして、ヴァイオリンがやわらかに、軽やかに歌い始める、「穏やかな朝」(track.2)。その後で、「海まで散歩」(track.3)は、ちょっと肌寒い風を感じながら、遠い海の深い色を見つめながら、浜辺へと下りてゆき... 目を閉じると、海辺での静かな一日の始まりが、ふわっと浮かび上がる。いや、これこそが、音楽における印象主義なのかも... 何かを明確に音で綴るのではなく、最小限の音で、聴く者の頭の中にイマジネーションを立ち上げてゆく。印象主義の画家たちの光の捉え方とまったく重なる、ケクランの音の筆致。何だか、とても腑に落ちる気がする。
音楽における「印象主義」と言えば、ドビュッシーやラヴェルがまず挙げられるのだけれど、厳密にその作品を見つめた場合、「印象主義」と言える?なんて思うことがある。そもそも、音楽における「印象主義」の定義が、絵画に比べて曖昧過ぎるのかもしれない。そうした中で、ケクランの音楽には、まさしく印象主義のロジックを見出す。音への鋭敏な感性を持つケクランなればこその、音楽における印象主義... このアンサンブル作品集を聴いて、より明確に、そのあたりをつかめた気がする。何より、その印象主義の美しさ!無駄のない響きにして、絶妙に音を重ね、より豊かなイマジネーションを喚起させる、驚くべき魔法!オーケストラ作品より、こうしたアンサンブル作品でこそ、ケクランの特性は際立って聴こえるのかもしれない。しかし、これほどの色彩感覚を持つ作曲家が他にいるだろうか?ケクランを前にすれば、ドビュッシーもラヴェルも、その響きはマッドに思える。
そんな、ケクラン独特の音のチョイスを見せてくれるのが、2つのソナチネ(track.13-21)。オーボエ・ダモーレ、フルート、クラリネット、2つのヴァイオリン、2つのヴィオラ、2つのチェロとクラヴサンのための... という、それは、ちょっとした小オーケストラ。ではあるのだけれど、そうしたスケール感は、一切、感じさせないのが、ケクラン流か。で、主役となるオーボエ・ダモーレ、時折、加わるクラヴサンと、古楽器を用いるあたりが興味深い点。印象主義の時代は、過去への関心が高まった時代で... ドビュッシーの「ラモーを讃えて」や、ラヴェルの「クープランの墓」が、そうした時代を象徴し、また、クラヴサンを復活させたランドフスカは、そのアイコン的存在... そうしたムーヴメントに刺激されたのか、ケクランの2つのソナチネで響く、訥々とした古風なテイストは、また印象的。一方で、2つ目のソナチネの最後、フィナーレ(track.21)には驚かされた。まるで、ナンカロウのプレイヤー・ピアノのスタディを、ミカショフあたりが室内楽用にアレンジしたような、ポップでどことなしにメカニカルな不思議サウンド。こういう感覚もケクランにあったのか?!と、少し驚きつつ、それまでと一味違うセンスにも魅了されてしまう。
ケクラン(1867-1950)が活躍した時代というのは、意外に長い... 例えば、2つのソナチネなどは、1940年代の作品であって、いわゆる「クラシック」というテイストの音楽はもはや存在していない時代ではあったけれど、それでも、ケクランが発するサウンドというのは、クラシックというジャンルが持つアカデミックな、時にスノッブな、そうした仰々しいと思われがちな感覚をするりと抜け出して、どのジャンルの引力にも作用されない、無重力サウンドを生み出す。このニュートラルな性質は、どうやって育まれたのだろう?アンビエントで、フュージョンのようなトーンも、時折、見せて... 近代音楽の只中にあって、他のモダニストたちとは一線を画す、そのセンス。何に最も近いかと問われれば、「現代的」というのが、最もしっくり来るのかもしれない。まったく、希有だ...
そんなケクランのアンサンブル作品を、さらりと演奏したアンサンブル・イニシウム、アンサンブル・コントラストの面々... ケクランの一音一音の繊細さ、場合によっては淡さのようなものを、やわらかに、楚々として鳴らしていて。彼らの程好いクールさが、ケクランのセンスの良さをより浮き立たせ、作品の邪魔をしない絶妙さが、好印象。ケクランの魅力を再確認する仕上がりに、大満足。

CHARLES KOECHLIN works for ensembles

ケクラン : 陸景と海景 Op. 63b 〔ピアノ、フルート、クラリネット、ヴァイオリン、ヴィオラとチェロのための〕
ケクラン : 2つのソナチネ Op. 194
   〔オーボエ・ダモーレ、フルート、クラリネット、2つのヴァイオリン、2つのヴィオラ、2つのチェロとクラヴサンのための〕
ケクラン : 木管七重奏曲 Op. 165
   〔フルート、オーボエ、イングリッシュ・ホルン、クラリネット、アルト・サキソフォン、ファゴットとホルンのための〕
ケクラン : 7声のソナタ Op. 221 〔クラヴサン、フルート、オーボエ、2つのヴァイオリン、ヴィオラとチェロのための〕

アンサンブル・イニシウム
アンサンブル・コントラスト

timpani/1C1193




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