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熱の後で、無言歌集。 [2012]

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風邪と、インフルエンザの差って、何?
これまで漠然と思っていたのだけれど、インフルエンザになってみて、明確にわかった。風邪が雨ならば、インフルエンザは大型台風... そして、台風が去った後の惨状というか、かなりの消耗にぐったり来ている、今... 熱は、ほぼ下がっているのだけれど、ただ、ぼーっとするのが精一杯のままならなさ。そうした中で聴く音楽。熱に浮かされて聴いたレーガーからは一転、熱が引いた後で、静かにピアノを聴いてみる。
今や、古典派の大家... ハイドン、モーツァルト、そしてベートーヴェンと、フォルテピアノで徹底した全集を作り上げているピリオド界の異才、ロナルド・ブラウティハムが、時代を少し下って、ロマン主義へと踏み込む?1830年製、プレイエルのピアノ(レプリカ)で弾く、メンデルスゾーンの無言歌集。その第1巻から第4巻までを収めた1枚(BIS/BIS-1982)を聴く。

メンデルスゾーンの無言歌というと、ひとつひとつがとても綺麗なのだけれど、ぼんやりと物足りなさのようなものを感じたり... だからこそ、何も考えずに、ただ聴くには最高かなと... 病み上がりの耳には、ちょうどいいかも... ぐらいの気持ちで聴き始めたはずが、思わず惹き込まれてしまうブラウティハムの弾く、無言歌集。1830年製、プレイエルのピアノ(レプリカ)によるサウンドというのが、物足りなさを風合で埋めて、ひとつひとつを落ち着いた佇まいで響かせる。その得も言えない歌の数々...
モダンのピアノよりも、明らかに重く、明瞭ではない部分もある。けれど、その重さと不明瞭さが生み出すトーンは、歌のひとつひとつに沁み込み、作品本来の色を取り戻すのか?ピリオドのピアノなればこその、少し埃臭く、懐かしい響きと、モダンの高性能ピアノでは味わえない、ある種の不器用さから生まれる温もり。そうした癖を前に、より丁寧に作品と向き合うブラウティハムのタッチ。演奏家の音楽性をより自由に羽ばたかせる... 作品をよりイマジネーション豊かに響かせる... 道具としての楽器の進化を打ち消す、楽器こそが、演奏家を、作品を、ある場所へと導く鍵となるおもしろさ。1830年製、プレイエルのピアノは、まさに、無言歌の数々が書かれた時代、無言歌を紡ぎ出したメンデルスゾーンの手元へと還ること導く。導かれてこそ、作品が本来の色を取り戻し、納得する。物足りないのではない、モダンという次元に立っては見えてこない部分がとても大きいのだと。
様々なイメージがシンプルな音楽に乗せられ、次から次へと繰り出される無言歌集。シンプルであるからこそ、思い掛けないイマジネーションの広がりを見せるのは、どこか俳句に似ている気がする。そんな感覚を、より瑞々しいものとするピリオドのピアノ。時代の制約は、思い掛けない新たな解放につながる。聴き慣れたモダンのピアノのイメージから切り離されてみて、ある種のピアニズムから解き放たれるからか、ふとした瞬間に、クラシック離れした感覚を見出す。古典派をきっちりと学び、取り込んで、そこから実直にロマン主義へと踏み込んで行った優等生、メンデルスゾーンの音楽に、古典派でもロマン主義でもない、より自由なセンスを、時折、感じて、興味深い。それは、きっちりと構築された交響曲や協奏曲、室内楽では見出せない、無言歌がシンプルなればこその、メンデルスゾーンの素の表情がこぼれ出した瞬間だろうか?極めてクラシカルな、メンデルスゾーンのイメージを裏切って、ちょっとポップだったりして、現代的な印象すら受けるから、またおもしろい。
そんな、無言歌を聴かせてくれたブラウティハム... いつものことながら、楽器の特性をしっかりと把握し、そこから素直に音楽を立ち上げつつ、何かするりと枠組みをすり抜けて、より広い世界へと静かに踏み込んで行くような、魅惑的なタッチは、これまでになく作品を輝かせる。時代性を丁寧に捉え、ピリオドなればこその魅力を最大限に響かせつつも、よりスケールの大きい音楽へと至る不思議さ。無言歌集というミクロコスモス的な作品では、ひと際、その音楽性が活きるのかもしれない。

Mendelssohn ・ Lieder ohne Worte, Books 1-4 ・ Ronald Brautigam

メンデルスゾーン : 無言歌集 第1巻 Op.19b
メンデルスゾーン : 無言歌集 第2巻 Op.30
メンデルスゾーン : 無言歌集 第3巻 Op.38
メンデルスゾーン : 無言歌集 第4巻 Op.53
メンデルスゾーン : 無言歌 変ホ長調 MWV U 68
メンデルスゾーン : 無言歌 イ長調 MWV U 76
メンデルスゾーン : 無言歌集 第1巻 Op.19b から 第2番 イ短調 〔初期稿〕
メンデルスゾーン : 無言歌 嬰ヘ短調 MWV U 124
メンデルスゾーン : 無言歌 イ長調 MWV U 136 「舟歌」

ロナルド・ブラウティハム(ピアノ : 1830年製、プレイエル、複製)

BIS/BIS-1982




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