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おもちゃ箱をひっくり返したような、2006年。 [overview]

犬は喜び庭駆け回り、猫はこたつで丸くなる。で、人は?
喜んでしまいました。完全武装で散歩に繰り出さずにいられませんでした。そう、関東平野を覆い尽くした先日の雪。一面が真っ白になるって、なんて素敵なんだろう!まるで魔法の国に迷い込んだ感じ。というのは、雪と縁がない、お気楽な関東人ゆえの思考だとは思う(とはいえ、電車が止まったり、道路がすんごいことになったりするのは、参ってしまう... )のだけれど、普段があまりに灰色な街並みだから、真っ白な景色の中に立っていると、漂白されるような、浄化されるような、そんな気分。そして、真っ白になってこそ感じる、我々の日常が、如何にコンクリートに囲まれているかということ... 現代ニッポンの想像力の減退は、このせいかも?ちらりと思う。
さて、話しを音楽に戻しまして。ついこの間、2006年の印象に残るアルバムを3回に渡って、ガッツリ振り返ったのだけれど、まだまだ興味深いアルバムはありまして... いや、それだけ、2006年が盛りだくさんだったということなのだけれど... そこで、取り上げ切れなかった、2006年のベストとはいかなかったものの、捨て難い興味深いアルバムを拾い上げてみようかなと...

2006年と言えば、モーツァルト・イヤー... とにかく、生誕250年で大いに盛り上がった... で、ここぞとばかりに、たくさんのモーツァルトのアルバムがリリースされたわけだが、それがまた、非常にヴァラエティに富むもので... 改めてざっくり見渡してみても、その幅に驚かされる。いわゆる名曲から、先日も取り上げた、リオ版、モーツァルトのレクイエムなど、マニアックなものまで... 単にお祭りで儲けようというのではない、モーツァルトの新たな側面を見出そうと思考錯誤するクラシック界のがんばりも見て取れて、今さらながらに感心してしまう。そんなモーツァルト・イヤーを思い出して、印象に残るアルバムを挙げるならば...
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まずは、ホグウッドがクラヴィコードを弾いたアルバム、"the secret Mozart"(deutsche harmonia mundi/82876 83288 2)。モーツァルトが愛用したクラヴィコードをも用いての、モーツァルトの鍵盤楽器のための小品集。ということで、モーツァルトの手近にあったサウンドが、とても興味深く。わずかにシタールのような余韻を残すクラヴィコードの、密やかなのだけれど、どこかサイケな感覚もおもしろい。
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そして、メモリアルならではの凝った構成を聴かせてくれたのが、リンコントロによる、モーツァルトのフーガを挿んだ、リヒターの弦楽四重奏曲集(Alpha/Alpha 089)。古典派の先駆、マンハイム楽派の巨匠、リヒターの作品と、古典派、最盛期を彩ったひとりでありながら、時代を遡り、厳めしいフーガを繰り広げるモーツァルトを組み合わせる。で、時間軸がアベコベになって、18世紀の多様性を万華鏡のように見せるセンスの良さ!
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さて、モーツァルト・イヤー、最も印象に残るモーツァルトのアルバムが、フライブルク・バロック管による、1778年、青年モーツァルトのパリでの悪戦苦闘の日々を追うアルバム、"CONCERTANTE"(harmonia mundi FRANCE/HMC 901897)。如何にしてパリ交響曲を生み出したか?そのパリ仕様のゴージャスなサウンドに、天才の努力を見出し、単なる名曲を聴くのではない、感慨が滲む。

ところで、もうひとりのモーツァルト... スウェーデンのモーツァルト、ヨーゼフ・マルティン・クラウス(1756-92)もまた、生誕250年のメモリアルだった2006年。モーツァルトと同時代を生きたその人生は、不思議なくらいにモーツァルトと重なり、ある種のパラレル?にも思えたり。だからか、モーツァルトにすっぽりと隠れてしまうクラウスという存在に、注目が集まることはほとんどなかった。が、メモリアル... クラウス・ルネサンスが静かに盛り上がりを見せたことを忘れるわけにはいかない。そんなアルバム、2タイトル。
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壮大なるモーツァルトのピアノ独奏曲全集を完成させたフォルテ・ピアノの異才、ブラウティハムによる、ピアノ作品全集(BIS/BIS-CD-1319)。モーツァルトの多作と比べれば、アルバム1枚に全作品が収まってしまうことに驚いてしまうのだけれど... じっくりと曲を書くことのできたクラウスの恵まれた環境(スウェーデン王による手厚いパトロネージ... )を反映するような、中身が詰まった全集の聴き応えは、モーツァルトに負けない...
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それから、サラゴン四重奏団による弦楽四重奏曲集(Carus/83.194)。古典派ならではの端正さと、モーツァルトの時代の愉悦に充ちた気分が美しく響き、モーツァルトばかりでない古典派の時代というものを強く印象付ける。一方で、モーツァルトよりも先を見つめていたようなセンスもあって、とても興味深い。何より、ピリオドによるサラゴン四重奏団の清らかなサウンドが、クラウスの魅力をより引き立てる!

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ちょっとダメ押し気味にもうひとり、メモリアルの作曲家を取り上げるのだけれど... それが、生誕200年のメモリアル、スペインのモーツァルト、アリアーガ(1806-26)。スウェーデンのモーツァルトに、スペインのモーツァルトと、何気に「モーツァルト」尽くしだった2006年。改めて振り返ってみるとおもしろい年だったなと... で、アリアーガなのだけれど、メモリアルだからこその貴重な1枚、ドンブレヒト+イル・フォンダメントによる、アリアーガの声楽作品集(FUGA LIBERA/FUG 515)が、興味深かった... 古典派からロマン主義への過渡期を物語るその音楽の、思い掛けない充実ぶり!もし、この夭折の天才があと数年生きていたなら、音楽史は変わっていたかも... なんて思える聴き応え。歌も演奏も、そんなアリアーガの才能への熱い思いを感じさせ、感動が滲む。

ここで、メモリアルを離れまして... 2006年はマニアックなアルバムがおもしろかった!というより、いつの年も「マニアック」であることは、大概おもしろいのだけれど(一般に、なかなかそうは映らないのが残念... )、2006年はまた特に... ということで、インパクトを放ったマニアックにスポットを当てる。てか、クラヴィコードで弾くモーツァルトも、スウェーデンのモーツァルトも、スペインのモーツァルトも、すでに十分にマニアックか... が、さらにマニアックな、フランス革命期の音楽。これが、かなりおもしろかった!
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ファゾリス+イ・バロッキスティによる、異色の機会オペラ、ゴセックのオペラ『共和制の勝利』(CHANDOS/CHAN 0727)。マニアック・メーターの振り切れっぷりに、まず脱帽。そして、フランス革命期の音楽の興味深い姿!革命こそ、新たな時代を切り拓くも、その革命を飾る音楽の、意外なほどオールド・スタイルであることに、びっくり。またそのあたりがいい味を醸してもいて、ユル・ポップなセンスが、やっぱりフレンチ!なのかも...
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革命の波に乗ることのできたゴセックの一方で、乗り切れなかった宮廷専属のクラヴサン奏者、バルバートルの作品を、フォルテ・ピアノとチェンバロを用いて、2枚組で、たっぷりと取り上げるメイヤーソンのアルバム、"musique de salon"(GLOSSA/GCD 921803)。雅やかなるヴェルサイユの記憶をたどった後で、ラ・マルセエーズ、革命歌の変奏曲を最後に取り上げるのだけれど、その恨み節的迫力が凄かった!メイヤーソンの、力強く、濃いタッチは、どこか演歌的な臭いも漂わせていて。それがまた、革命に翻弄されるバルバートルの人生を浮かび上がらせもしていて、2枚組をドラマティックに盛り上げる。

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フランス革命から少し時代を下って... すでに役者は揃っているドイツ・ロマン派だけれど、新たな存在を発見!クリストフ・シュペリング+ダス・ノイエ・オーケスターによる、カリヴォダの5番と7番の交響曲。いや、カリヴォダを知らなかった分、とてつもなく新鮮で... そして、今、改めて聴いても、何と魅力的な!聴き馴染んだ定番よりも、これぞロマン主義!というコテコテ感が、俄然、カッコいいことに痺れてしまう!
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ロマン主義から時代をぐっと下って、現代音楽の戦後世代、ヴィヴィエの作品集(KAIROS/0012472KAI)が、おもしろかった!いや、ヴィヴィエという存在自体にも大いに興味を覚えるのだけれど、その作品の持つサイケデリックな感覚に、時代性を感じ、そうしたノスタルジーも含めて、結構、魅了されてしまう。というより、もっと取り上げられてもいい作曲家のように感じるのだけれど... ちょっと疲れた感じのサイケ感が、魅惑的...
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現代音楽の、現代っ子世代、コネソンの室内楽作品集、"techno parade"(RCA RED SEAL/82876 662722)には、心躍った!何しろ、テクノ・パレードだよ... 現代音楽の気難しさは何処へ?いや、そういう屈託の無さに、ジャスト現代な現代音楽を感じ、共感せずにいられなかった。また、その作品を奏でるフランスの豪華ソリストたちの凄いパフォーマンス!アルバムのタイトルになっている"Techno-Parade"は、凄かった...

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最後に、その構成が深く印象に残ったアルバム... 20世紀、世界大戦に揺れる時代を、アメリカから見つめ希有なアルバム、ケッセルのピアノで綴る、"CALIFORNIAN CONCERT"(OEHMS CLASSICS/OC 534)。ラフマニノフに、シェーンベルク。ガーシュウィンから、ジョン・ウィリアムズまで... ジャンルに限りなく、幅広く、かつノスタルジックに、大西洋を渡ったヨーロッパの音楽と、それによって新たな発展を遂げたアメリカの音楽を、絶妙のバランスでつなぐ。そうして、世界情勢に翻弄される「音楽」の存在の儚さが、独特のメランコリーを漂わせるのか... 聴き終えてみて、静かに揺さぶられる1枚。最後の、ケージの伝説の作品、「4分33秒」が、不思議と沁み入る。そして、「音楽」が無いことに癒される... 何だか、複雑な気分ではあるのだけれど。

ということで、2006年を聴き直す。完了。そして、楽しかった!まるで、おもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさ。名曲も、マニアックなものも、いろいろあって、クラシックが元気であるということが、これほど楽しいとは... なんて、つくづく感じてしまう。そんな、今日この頃。ではあるのだけれど、前を向き、また、ひとつひとつ、おもしろいアルバムを紹介していけたならなと...




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