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マーラー芸術の青写真。 [2012]

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イギリスを代表するピリオド・オーケストラ、エイジ・オブ・インライトゥンメント管弦楽団(以後、OAE... )。大概のピリオド・オーケストラ、ピリオド・アンサンブルは、創設者のオーケストラ、アンサンブル、といったイメージが強いわけだけれど、OAEは、そうした、「誰かの... 」ではない。ピリオドにあって珍しく自主独立なあたりが、様々な指揮者とのおもしろい組合せを可能としていて。特に、モダンで活躍している指揮者を積極的に迎え、「首席アーティスト」として、ラトル、エルダー、イヴァン・フィッシャーらが、ピリオド系のマエストロたちと肩を並べ、OAEを支えているのも興味深い点。この、ニュートラルでオープンな感覚が、他のピリオド・オーケストラよりも、OAEをよりおもしろくしているように感じるのだけれど... で、おもしろいアルバムが出た!
最も若い「首席アーティスト」、ロシア出身の期待の星、ウラディーミル・ユロフスキの指揮で、エイジ・オブ・インライトゥンメント管弦楽団による、マーラー!交響詩「葬礼」と、ピリオドで活躍するメッゾ・ソプラノ、サラ・コノリーが歌う、歌曲集『さすらう若者の歌』(signum CLASSICS/SIGCD 259)を聴く。それにしても、「啓蒙時代」を冠しつつの、マーラーというのが、凄い...

今や、ピリオドの限界ラインは、1930年代あたりまで押し下げられているのだから、マーラーくらいで驚く必要もないけれど。"Age of Enlightenment"、啓蒙時代(17世紀後半から18世紀にかけて... 音楽で言うならば、バロック全盛期から古典派の頃... )を名乗るオーケストラのマーラーというのは、そのギャップにかなりのインパクトがある。もちろん、啓蒙時代ではなく、ちゃんとマーラー時代の仕様のオーケストラでの演奏ではあるのだけれど。このギャップにこそ、可能な限り拡大されたピリオドの成果を見出すのか、妙に感慨があったりする。何よりOAEのマーラーとなれば、興味津々... で、その内容は、音楽史上、特異な存在感を示すマーラー芸術の青写真を見せられるような、おもしろさがある。2番の交響曲、「復活」の1楽章として、一足先に作曲され、結局、独立した交響詩となった「葬礼」(track.1)と、後に1番の交響曲、「巨人」に、そのメロディが転用された歌曲集『さすらう若者の歌』(track.2-5)。"世紀末"が管を巻く前の、若きマーラーが放つ瑞々しさと、すでに進むべき方向をきちっと見据えて、独自の世界へと突き進もうとする迷いの無さに、また「若さ」を感じ... マーラーにして清々しくあるあたりが、何だか心地良く、これまでにない聴き応えを覚える。まさに、ピリオドによるマーラーか。
「葬礼」は、どうも重苦しく、苦手に感じていたのだけれど、ユロフスキの指揮、OAEの演奏で聴くと、思い掛けなく軽く仕上がっていて、新鮮!モダンの楽器とは違う、鳴り切らないピリオドの楽器のわずかな未成熟感と、ノン・ヴィヴラートの効果が相俟って、響きをダブ付かせず、必要以上の感情を盛り込まないというのか。ユロフスキの勿体ぶらない音楽運びもあって、重苦しさをふっ切って、さらりと展開し。その「さらり」が、音のひとつひとつを瑞々しく捉え、末期症状に陥る前のロマン主義の輝きを、今一度、マーラーの音楽の中から拾い上げるような... そうすることで、ワーグナーといったロマン主義の先人たちの姿が立ち現れ、ザッツ・マーラーとしてではなく、マーラーへと至る道が籠められたマーラーの音楽が印象的に響く。また、青写真だからこその、よりクリアに示されたマーラー芸術というものに、強く魅了される。あらゆるものを巻き込み膨れ上がって行く、後の交響曲が隠してしまった、マーラーの音楽の芯の部分というか、素直に組み上げられた音楽のあり様に、マーラーを再発見。まさに、コンプレックス(心理学用語としても、また「複雑」、「複合」というそのものの意味でも... )の交響曲も、マーラーそのものであるわけだけれど、ここで聴く、背景を取り戻したマーラーの何気ない表情に、新しい感覚を覚える。
という、想像以上に興味深く、何より魅力的なマーラーを聴かせてくれた、ユロフスキ、OAE。イギリスのピリオド・オーケストラならではのクリアさと、スタイリッシュさが、マーラーにもたらす効果たるや... 最初の一音から、真新しさを感じ、惹き付けられて、そのまま、清冽なサウンドで、颯爽と走り切る。ユロフスキ、OAEの演奏は、先日、イブラギモヴァのメンデルスゾーンのアルバム(hyperion/CDA 67795)で聴いたばかりだけれど、また違うクールさを見せていて、カッコいい!一方、後半の『さすらう若者の歌』では、そうしたOAEの演奏に乗って、艶やかで豊かな歌声を聴かせてくれるコノリー(メッゾ・ソプラノ)の存在が際立ち、リヒャルト・シュトラウスのオペラを聴くような雰囲気も漂って、魅惑的。最後、「恋人の青い目」(track.5)の余韻まで、酔わせてくれる。
そんな、すばらしい演奏と歌なのだけれど、40分に満たない録音に、あと1曲、何か聴きたかったかなと... あえて、2曲に抑えたことで、よりこのアルバムのトーンは際立っていることは間違いないのだけれど。すばらしい演奏と歌なればこそ、あっという間の40分弱。えっ?!これで終わり?と、多少、物足りなさは残るか。という小言はさておき、彼らによるマーラーの交響曲、是非、聴いたい!

Gustav Mahler Totenfeier | Lieder eines fahrenden Gesellen

マーラー : 交響詩 「葬礼」
マーラー : 歌曲集 『さすらう若者の歌』 *

サラ・コノリー(メッゾ・ソプラノ) *
ウラディーミル・ユロフスキ/エイジ・オブ・インライトゥンメント管弦楽団

signum CLASSICS/SIGCD 259

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