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"siXXes"、古楽から、現代音楽へ、 [2012]

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次世代のヴィオラ・ダ・ガンバのマエストラ、ヒレ・パールがジョン・ケージ!
2012年、ジョン・ケージ生誕100年のメモリアル。まさか"ゲンダイオンガク"切っての異端児の音楽を、古楽界のお嬢様(みたいな容姿は、まるで16世紀頃の絵画から抜け出したようなものだから... 実際、バロック期を研究される音楽学者のお嬢様でいらして... )、ヒレ・パールの演奏で聴くことになるとは。いや、メモリアルというのは、何が起こるのかわからない。だからこそ楽しみなメモリアルでもあるのだけれど。それにしても、大胆なことをする!いや、これまでも、その雰囲気(古色蒼然と、かつただならぬ気品が漂う... )とは裏腹に、古楽の境界を踏み越えて、刺激的な試みも多いわけだけれど、ジョン・ケージとはさらに刺激的!で、興味津々。
ということで、ヒレ・パールのヴィオールを中心に、古楽界の気鋭のアーティストを集い、ジョン・ケージはもちろん、古楽の対岸とも言える6つの20世紀のアメリカの作品を取り上げるアルバム、"siXXes"(deutsche harmonia mundi/88725468022)を聴く。

ジョン・ケージ(1912-92)、クリスチャン・ウォルフ(b.1934)という、20世紀、アメリカの「前衛」を象徴する存在に、ビデオ・アートとのコラヴォレーションなど、まさに現代の音楽に取り組むリチャード・コーネル(b.1946)。さらに、古楽器の世界の開拓者のひとり、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者にして、この古い楽器のために多くの作品を作曲しているマーサ・ビショップ(b.1937)。ロック・ギターから古楽界へと飛び込んで来た、リュートの鬼才にして、やはり多くの作品を作曲している、ヒレの盟友、リー・サンタナ(b.1959)。様々な背景を持つ、20世紀、そして現代の作曲家の作品... 古楽器のための作品も、そうでないものも含めて、ヴィオールを中心に取り上げる"siXXes"。それは、まったく以って大胆であり、見事に古楽を現代に落とし込む。
その1曲目、ケージの6つのメロディ(track.1-6)からして、そのはまりっぷりに驚かされる。元々、ヴァイオリンとピアノのために書かれた作品だが、ケージならではの、存在をギリギリまで削ぎ落されたシンプルなメロディは、古楽器のストイックなサウンドの方が、より活きてくるようで。また、ヒレのヴィオール、サンタナのアーチ・リュートの瑞々しいサウンドも活き。そんな演奏を聴いていると、まるでマショーあたりの中世の音楽を聴いているような気分になるからおもしろい。ケージによるシンプルなメロディには、どこか中世的な感覚があるのか、ヴァイオリン、ピアノで聴くよりも、何か説得力があって、より豊かなイマジネーション(6つ目のメロディの背景で小鳥が鳴いているのも、また素敵!)が生まれるようで刺激的。続く、リチャード・コーネルの「栄光の王よ」による変奏曲(track.7)は、その主題の重々しさもあって、ヴィオール全盛の頃の渋さを漂わせて印象的。さらに、擬似バロック的なマーサ・ビショップの2台のヴィオールのための二重奏曲(track.9-12)。古楽器復活を担ってきたビショップの経験と蓄積から生まれた作品は、ある意味、ヴィオールのための作品の結晶といっていいのかも...
一方で、古楽器に新たな視点を持ち込み、真新しく響かせるサンタナの作品。ヴィオールのための音楽(track.8)は、ヴィオールの持つ渋さを抑え、ヴィヴィットさを引き出し、アンビエントなトーンや、現代的なリズム感で彩り、古色蒼然とはしない魅力が新鮮!いや、こういう風に改めてヴィオールを聴いてみると、かえってチェロよりもクリアな感覚があって、現代的にすら感じるところも。そんなヴィオールに、ヴォイス・フルート、アーチ・リュートを加えてのアンサンブルを伴い歌われる"Kali-Ma"(track.14-19)は、アメリカのトラッドを思わせる雰囲気で包みつつ、時折、ロックなような、ブルースのような、あれはラップなのか?様々な要素を盛り込みつつ、判別不能な音楽世界を繰り広げる。そして、このミクスカルチャーな感覚が思い掛けなく魅力的で。時々、ヒレを、古楽からワールド・ミュージックへと引っ張り出すサンタナらしいテイストなのかもしれない。
古楽による現代音楽にして、古楽風もあり得るという、まったく不思議な感触... この古さと新しさをフレキシブルに渡り、かつブレることなく真っ直ぐなサウンドを響かせるヒレ。いつものレパートリーよりも、"siXXes"で取り上げられる作品の方が、かえってヒレの奏でる響きは活きるのかもしれない?そんな風にすら思えてしまう充実感もあって、彼女のヴィオールに、いつも以上に聴き入ってしまう。また、ヒレの下、集った、古楽界の腕利きの面々たちによる演奏も、ひと際ヴィヴィットで、よりクリアで。現代の作品であることが、演奏者を古楽の歴史の重みから解放し、よりスムーズに呼吸させるところもあるのか、ひとつひとつの作品がとてもスムーズに感じ、独特の心地良さを生む。何より、現代音楽にしてスーっと聴く者の身体に沁み込む古楽器の素直なサウンドは、ちょっと癖になりそう。古楽器の勿体ぶった渋さは薄れ、"ゲンダイオンガク"の尖がったあたりが突き刺さってこない"siXXes"... これはかなり希有な1枚なのかも...

siXXes Lee Santana Hill Perl

ジョン・ケージ : 6つのメロディ **
リチャード・コーネル : 「栄光の王よ」による変奏曲 *
リー・サンタナ : ヴィオールのための音楽 *****
マーサ・ビショップ : 2台のヴィオールのための二重奏曲 **
クリスティアン・ヴォルフ : 1台の楽器のための独奏曲 *
リー・サンタナ : "Kali-Ma" ****

ヒレ・パール(トレブル・ヴィオール) *
リー・サンタナ(テオルボ/アーチ・リュート) *
ユーリア・ヴェテー(ヴィオール) *
クラース・ハルダース(バス・ヴィオール) *
マーサ・パール(バス・ヴィオール) *
フラウケ・ヘス(ヴィオローネ/バス・ヴィオール) *
ネレ・グラムス(ソプラノ) *
アンネッテ・ヨン(ヴォイス・フルート/テノール・リコーダー) *

deutsche harmonia mundi/88725468022

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emonmusique

突然のメッセージ失礼します。
ブログを拝見させていただきました。選曲のセンスが素晴らしく感激しております。
わたくしもクラシック音楽のCDを紹介しております。
もしよろしければ見てください。
http://emonmusique.blog.fc2.com/

よろしくお願いします
by emonmusique (2013-03-11 18:48) 

genepro6109

emonmusiqueさん、はじめまして。
そして、メッセージ、ありがとうございます!

早速、blog、覗かせていただきました。
こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。

そうそう、"siXXes"の選曲、大胆かつ、不思議なセンスを漂わせつつ、納得の仕上がりが、思い掛けなく凄かったです。クラシックも、現代音楽にしても、アプローチひとつで、まったく違う世界を拓くことができるのだなと、深く聴き入ってしまいました。



by genepro6109 (2013-03-11 21:52) 

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