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"Concertos italiens" [2005]

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タローが映画に出る?!
と、ブッたまげたのは、久々に立ち読みしてみた『レコード芸術』での、彼のインタヴュー。それも、ハネケ作品って... 『ファニーゲーム』とかは、とりあえず置いといて、クラシックからハネケ作品を見つめるならば、ユペール演じるピアノ科教授が凄かった『ピアニスト』あたりが、棘が刺さったように記憶に残っているのだけれど。タローが出演するという『愛、アムール』(今年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞とのこと... )では、彼は本人役とのこと... ま、そんなところか。いや、一安心であって。けど、あのタローが、どこかで凄いことになって欲しい、とか、変な欲求(だって、ハネケだもの... )も生まれたりして... しかし、映画とは... ここのところのタローのはじけっぷりが、こういう形でも表われたかと、とても興味深く感じる。
でもって、やはり、はじけっぷりが凄い、彼の最新盤、"LE BOEUF SUR LE TOIT"(Virgin CLASSICS/440737)を聴くつもりでいるのだけれど。その前に、アレクサンドル・タロー、2005年にリリースされた、まだはじけてしまう前の、バッハを弾いたアルバム、"Concertos italiens"(harmonia mundi FRANCE/HMC 901871)を聴き直す。

ピリオドが隆盛の中、堂々とピアノでバロックを弾く姿は、何か求道者然としていて。そこから発せられる響きの清浄な佇まいに、強く惹きつけられたゼロ年代のタロー... ラモー(harmonia mundi FRANCE/HMC 901754)、クープラン(harmonia mundi FRANCE/HMC 901956)と、モダンのピアノによる興味深いバロックが印象に残るのだけれど、ここで聴くバッハは、また特に興味深いものだった。バッハではあっても、バッハのオリジナルではない、イタリアのバロックをバッハがアレンジした作品を集めた"Concertos italiens"。普段の厳めしいバッハ像、陰影の濃いイタリアのバロックのイメージを、巧みに攪乱してくる構成は、タローのセンスを感じさせる。イタリアのバロックのエモーショナルなあたりが、アルプスを越えて冷やされ、バッハの音楽として咀嚼されると、端正な面持ちとなり。そのバッハによる音楽を、さらにニュートラルに見つめるタロー。ピリオドを意識してオリジナル主義へ傾くでもなく、だからといって変に大時代的にロマンティックになどけしてならない、極めて「タロー」なトーンで作品をそっとすくい上げる。そうして、バッハの生真面目さから音楽そのものが解き放たれ、あらゆるスタイル、ロジック、さらには時代性までからも距離を置き、不思議な現代性を呼び覚ます。
何を聴いているのだろ?聴き込んでいると、ふとわからなくなる瞬間がある。時間や距離を越えて、様々な手を経て響き出す"Concertos italiens"に収められた作品の数々は、いい具合に没個性なのかもしれない。それでいて、没個性の先に、真新しい音楽が生まれるような、瑞々しい感覚がある。例えば、冒頭のヴィヴァルディのコンチェルトからのアレンジによるシシリエンヌの、しっとりとした表情は、フランス映画でも始まりそうなそんな雰囲気。絶妙にメロドラマちっくに響いて、クラシックであることが薄まってしまう。クラシックの、音楽史の一切合財をひとまず置いてみて、シンプルにポロンと鳴らされるピアノの、爽やかさたるや!音楽が、単に音楽でしかない素の姿の何気なさ... いや、これこそが音楽の美しい状態なのかも。そして、この「タロー」の感覚が、アルバムの全てに貫かれて、ひとつひとつの作品が驚くほど古臭くない。「ヴェニスの愛」として有名な、アレッサンドロ・マルチェッロのオーボエ協奏曲による、BWV.974の協奏曲、2楽章(track.10)などは、思い掛けなくアビエントで、魅力的。イージー・リスニング的な気軽さを漂わせつつ、最上級に洗練されていて、絶妙... あの名旋律だけに、名旋律過ぎて、ちょっと安っぽいか?なんて思っていたら、驚かされる。こんなにも、惹き込まれるなんて...
20世紀を経て、バロックへのアプローチもひと揃い出尽くして、それらをつぶさに見て来て、それらに囚われることなく、独自の道を突き進む、タローの現代っ子感覚。突き詰めているようで、飄々としてもいて、不思議な温度感を持った彼のタッチなればこそ紡ぎ出される"Concertos italiens"。今、改めて聴いてみて、その現代っ子感覚を再確認し、共感せずにはいられない。さらりとスマートフォンを操って、何気なくSNSでつながって、そんな空気感の中でのリアルなバロックだろうか?どこかドライだけれど、心地良いドライさで、スタイリッシュとも、クールとも、少し違うかもしれない、「タロー」。で、今のタローを聴いてから振り返れば、より「タロー」であることが際立っている。ある意味、彼も若かったのだなと、そんな風にも思う。

J.S.BACH Concertos italiens THARAUD

バッハ : オルガンのための協奏曲 第5番 ニ短調 BWV.596 から シシリエンヌ 〔原曲 : ヴィヴァルディ〕
バッハ : 協奏曲 第4番 ト短調 BWV.975 〔原曲 : ヴィヴァルディ〕
バッハ : パストラーレ ヘ長調 BWV.590 から アダージョ
バッハ : イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV.971
バッハ : 協奏曲 第3番 ニ短調 BWV.974 〔原曲 : アレッサンドロ・マルチェッロ〕
バッハ : 協奏曲 第10番 ハ短調 BWV.981 〔原曲 : ベネデット・マルチェッロ〕
バッハ : 協奏曲 第2番 ト長調 BWV.973 〔原曲 : ヴィヴァルディ〕
バッハ : 協奏曲 第8番 ロ短調 BWV.979 〔原曲 : トレッリ〕

アレクサンドル・タロー(ピアノ)

harmonia mundi FRANCE/HMC 901871

そして、はじけたタローに出会う、最新盤、"LE BOEUF SUR LE TOIT"へとつづく...




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