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アゴスティーノ・ステッファーニ。 [2012]

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19世紀とじっくり向き合って来ての、18世紀... 何かいつもと違う感覚がある?
ロマン主義の流麗な音楽に耽溺してから、バロックに触れると、そのゴツゴツとした感覚にちょっと中てられる。普段はまったくそんな印象を受けることはなかったのだけれど、やっぱり音楽は時代を経て進化しているのだなと、再確認させられる感覚だろうか。しかし、バロックも魅力的!ロマン主義の音楽からするとワンパターンに感じられるかと思いきや、けしてそんなことはない。前回、聴いた、バルトリが歌う、"OPERA PROIBITA"のオペラ禁止下のローマの音楽の、他のバロックとはまた違うゴージャスさと、濃さには、今、改めて新鮮な思いをし、改めてバロックの多彩さに惹き込まれ... ローマからドイツへ... また一味違うバロックを聴く、バルトリ、最新盤。
まったく以って彼女のマニアックさ、片手間でない音楽学者ぶりには頭が下がるばかりなのだけれど、最新盤も凄い... ドイツで活躍したヴェネツィア生まれのマルチ・タレント、ステッファーニを再発見するアリア集、"MISSION"(DECCA/478 4732)。ディエゴ・ファゾリス率いるイ・バロッキスティの演奏に、カウンターテナーのスター、フィリップ・ジャルスキーを相手にスペシャルなデュエットも... という贅沢な共演もあり、ステッファーニばかりでなく、興味津々な1枚を聴いてみる。

アゴスティーノ・ステッファーニ(1653-1728)。
時折、視野に入ってくる名前だったけれど、どんな人物なのだろう?という関心はこれまで持つことなく来てしまった。が、バルトリが取り上げるとなれば、俄然、興味は湧き、wiki(これが意外に詳しくて、びっくり!)にて調べてみると... ヴェネツィアに生まれ、早くからサン・マルコ大聖堂の聖歌隊で歌っていたとのこと。で、14歳の時、あまりの美声に、ドイツの貴族に連れられてミュンヒェンへ... って、現代の感覚からすると、大丈夫か?と心配になってしまうのだが、ステッファーニ少年は、バイエルン選帝侯から奨学金をもらい、ミュンヒェンで音楽教育を授けられ、さらにはローマ留学まで... 当時の、若い才能への惜しみないパトロネージの太っ腹さには、世知辛過ぎる現代からすると、まるでお伽噺のよう。しかし、異色のキャリアだ。ルネサンス末以来の音楽の一大中心地、ヴェネツィア楽派のヴェネツィアに生まれながら、ドイツで音楽教育を受け、逆にイタリアへ留学とは... が、この異色さが、ステッファーニの音楽に、一味違うバロックを響かせるスパイスとなったか?
どことなしに古風なイメージを受けるステッファーニの音楽... これが、アルプスの北と南のタイムラグだろうか?端々から初期バロック的なサウンドがこぼれ、アルカイックな印象を受ける。が、ナポリ楽派がまさにこれから、ヴィヴァルディがヴェネツィアでひと暴れするのはまだ先、という17世紀後半、バロックとはこういう感覚だったのだろうか?初期バロックの残り香はあっても、初期バロックではなく、18世紀に入ってからの、聴き慣れたバロックとも少し違う雰囲気で... しかし、この微妙な感覚がとても新鮮だったりする。それがまた、ヴェネツィアや、ローマの本場バロックにはない、カラリとした軽さを生み出していて、また違うバロックの魅力を聴かせてくれる。例えば、バロックならではのギミックさが炸裂して、かなりマンガちっくな雷が豪快に轟く、『エルコレのアケローオとの闘い』からのアリア(track.17)などは、その荒れっぷりが最高!古風であることが辛気臭さに陥らず、どこかコミカルなB級感を漂わせ、絶妙なエンターテイメント性を生み出し、クール!またそうしたステッファーニのテイストを巧みにすくい上げ、1枚にまとめることで、何か、ひとつのオペラを聴くような充実感をもたらしてくれるバルトリのチョイスも冴えていて。知られざるバロックの作曲家の魅力をより際立たせるようで、飽きさせない!
もちろん、歌手、バルトリも冴え渡る!バロックならではの超絶技巧はいつもながら鮮やかに決まり、この気持ち良さは他には替え難い... なおかつ、ステッファーニの古風なサウンドが、バルトリの声をより浮かび上がらせもし、彼女の魅力を再確認するようなところもある。ますます堂に入った存在感と、切々と情感豊かに歌い上げるあたりは、息を呑む。そこに、ジャルスキーが加わってのデュエット!いや、レーベルの枠を越えての贅沢な共演に、もうテンションも上がってしまう。少し重めにクリーミーなバルトリの声と、軽くクリーミーなジャルスキーの声が織り成す、不思議なハーモニーは、バロック期のオペラのジェンダーの揺らぎをそのまま描き出すような感覚だろうか?聴いていると、どちらがどちらなのか分からなくなるよう、旋律が空中遊泳をするような不思議さがあって、幻惑されてしまう。そこに活きのいいファゾリス+イ・バロッキスティの演奏が加わって、ステッファーニ・ワールドをより鮮やかに彩る。打ち鳴らされる太鼓に、はっちゃける撥弦楽器がいい味を醸し、いつものどっしりと構えたイ・バロッキスティが軽快に変身して新鮮。しかし、何と言ってもバルトリが凄い... 25曲中、20曲が世界初録音という快挙... ただ歌うだけの単なるプリマを越えた、知られざる音楽へのただならぬこの熱情って、いったい... それがまた、空回りせず、見事に形になっているのだから、驚くべき存在だ...

MISSION CECILIA BARTOLI
I BAROCCHISTI + DIEGO FASOLIS


ステッファーニ : オペラ 『バルトの王、アラリーコ』 から 「負け知らずの軍勢よ、遅れるでない」
ステッファーニ : オペラ 『セルヴィオ・トゥッリ』 から 「どの心も希望を持つことを許される」
ステッファーニ : オペラ 『テーベの王妃、ニーオベ』 から
   「わたしはどこに?誰がわたしを助けてくれよう?... わたしの胸から、涙よ」
ステッファーニ : オペラ 『タッシローネ』 から 「もはやあなたたちを隠しませんよ」
ステッファーニ : オペラ 『テーベの王妃、ニーオベ』 から 「私を愛してくださいませ」
ステッファーニ : オペラ 『テーベの王妃、ニーオベ』 から
   「貴女を抱擁しよう、わが女神よ... 貴方を抱きしめましょう、私の神さま」 *
ステッファーニ : オペラ 『アルミーニオ』 から 「我が忠実なる軍勢よ、武器を取れ!」
ステッファーニ : オペラ 『タッシローネ』 から 「妻よ、気が遠くなっていくようだ... どうか、しないでほしい、そなたの涙で」
ステッファーニ : オペラ 『アレッサンドロの誇り』 から 「わたしは忠告を受け入れぬ」
ステッファーニ : オペラ 『バルトの王、アラリーコ』 から 「そう、そうですわ、休息なさいませ、愛しのお方…またたく美しい」
ステッファーニ : オペラ 『満たされた自由』 から 「盲目の神の味方なる夜よ」
ステッファーニ : オペラ 『運命のたび重なる勝利』 から 「この魂に戦いを挑む」 *
ステッファーニ : オペラ 『タッシローネ』 から 「容易に得られる勝利へと」
ステッファーニ : オペラ 『アレッサンドロの誇り』 から 「戦いと勝利のなか」 *
ステッファーニ : オペラ 『満たされた自由』 から 「闇を呼ぶ黄昏よ」
ステッファーニ : オペラ 『テーベの王妃、ニーオベ』 から
   「疲れた精神の緊張を和らげるため... 慕わしい天球よ、さあ唇に与えたまえ」
ステッファーニ : オペラ 『エルコレのアケローオとの闘い』 から 「最も恐ろしい角蛇を」
ステッファーニ : オペラ 『テーベの王妃、ニーオベ』 から
   「晴れやかにしておくれ、わたしの美しい太陽よ... あなたの腕の中にもどり... わたしの愛の炎よ」 *
ステッファーニ : オペラ 『タッシローネ』 から 「そなたの唇を通し、愛はわたしに呼びかける」
ステッファーニ : オペラ 『満たされた自由』 から 「どうか、もう飽きて、運命よ」
ステッファーニ : オペラ 『満たされた自由』 から 「血を流せ、思い悩め、戦え、懸命になれ」
ステッファーニ : オペラ 『タッシローネ』 から 「父君、もし彼に咎があるとしても」
ステッファーニ : オペラ 『和に至った好敵手同士の女』 から 「不安よ、激昂よ」 **
ステッファーニ : オペラ 『エンリーコ・レオーネ』 から 「わたしは破壊と虐殺のなかで死ぬことになろう」
ステッファーニ : オペラ 『マルコ・アウレーリオ』 から 「語られることのないよう、忠誠についてのほか」 *

チェチーリア・バルトリ(メッゾ・ソプラノ)
フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー) *
ディエゴ・ファゾリス/イ・バロッキスティ
スイス放送合唱団 *

DECCA/478 4732

ところで、ステッファーニ。この人の凄さは、音楽のみならず、外交にまで及ぶこと... バイエルン選帝侯に仕えた後、ハノーファー選帝侯に仕え、外交官としても活躍。それでいて、聖職者として司教にまでなり、権力の世界を巧みに渡って、マルチな才能を発揮。まったく、バロックという時代の破天荒さというか、可能性に充ちたダイナミックな飛躍が羨ましく感じられる。一方、21世紀、我々の時代はどうだろうか?何か、つまらん時代だなと... それでいて、「つまらん」なんて不貞腐れている余裕がまったくない現実があって... 苦しくなる...




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