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屋根の上の牛。にて、 [2012]

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近頃のタローは、何か吹っ切れているような印象を受ける...
そんな風に感じるようになったのはいつ頃だろう?やっぱり、Virgin CLASSCSに移ってからか?モードに左右されない、我が道を突き進んで至る、こだわりのタロー・ワールド。それは、大いに魅了されるものだったが、今では、そこから抜け出して、逆にこだわらない、もうひとつのタロー・ワールドで遊ぶような、大人の余裕を漂わせる。先鋭的な若手から、絶妙にベテランの次元へと進化するタロー。Virgin CLASSCSに移ってからの、いい具合にタロー自身から解放される展開が素敵だなと思っていたところに、見事にイメージを崩し切って驚かされる最新盤。アレクサンドル・タローのピアノを中心に、様々なアーティストが集い、1920年代のパリのキャバレーを再現する、"LE BOEUF SUR LE TOIT"(Virgin CLASSICS/440737)を聴く。

軍隊ポロネーズの力強い響きに導かれて華々しく始まったはずが、すぐに幻想即興曲がダンスホールで踊り出す?1曲目、ドゥセによるショピナータは、その名の通り、ショパンのメロディによるファンタジー・フォックストロット。しかし、ショパンがラグタイムでアレンジされてしまうとは... その場末感に面喰うのだけれど、続く、ガーシュウィンの"The Man I love"(track.2)の、たっぷりとムーディーなあたりを聴いて、タローが我々を何処に連れて来てくれたのかを、理解する。それは、あらゆる文化の吹き溜まりのような、判別不能の不思議空間?いや、漠然と、タローによるジャジーなアルバム(それだけでも、恐ろしく興味津々... )だと思って手に取ったのだけれど、けしてジャズとは言い切れない"LE BOEUF SUR LE TOIT"。ミヨーのバレエ『屋根の上の牛』(も、もちろん取り上げられる... )から名付けられた、1922年、創業の、パリのキャバレー、ル・ブッフ・シュル・ル・トワ(=屋根の上の牛)をフィーチャーした1枚。キャバレー文化が開花した1920年代の、クラシック、ジャズ、シャンソン、ダンス、様々な音楽が集められ、巧みにドレスダウンして、独特の空気感を生み出す。
まず印象に残るのは、タローのピアノに乗って、コール・ポーターのナンバー(track.6)を気だるく歌う、ペイルー。ジャズの世界では注目の逸材?「21世紀のビリー・ホリデー」と紹介されているとのこと... で、まさにそんな雰囲気!彼女の歌声を耳にすると、21世紀のデジタルな環境をすっかり忘れて、煙草が煙る、胡散臭くもあるような1920年代へと、一気にトリップ... かつての時代を喚起する、圧倒的なトーンがある。かと思えば、シャンソンも... タローによるサティの2枚組(harmonia mundi/HMC 902017)に登場し、見事なシャンソンを聴かせてくれたジュリエットが、イヴェンの洒落たメロディ(track.8)を歌い、生粋のシャンソニエっぷりを披露。彼女ならではのトーンで、パリの街の匂いも漂わせる。そして、びっくりさせてくれるのが、デセイ!あのコロラトゥーラの女王が、声帯模写?ミュートをかけたトランペットになり切って歌い上げる、ブルース・シャンテ(track.16)が聴きもの... デセイの見事なコピーと、時折、滲む、ソプラノだからこその色彩感と、渋いブルースのトーンがミステリアスに絡み合い、思い掛けなく魅惑的。こういう寄席的な芸も、キャバレーには欠かせなかったのだろう。さらには、タップ(track.13)が踏まれ、コミカルなオペレッタからのナンバー(track.18)では、ドタバタなテイストもあり、楽しませてくれる。そうして、ル・ブッフ・シュル・ル・トワの夜は更けたか... まったく以って、妙なる雑多さ!
タローのピアノを中心に、芸達者な面々が徹底して古き良きパリ、1920年代のル・ブッフ・シュル・ル・トワを描き出す。これもある意味、ピリオド・アプローチなのかもしれない。そうして、古き街、パリの、新たな文化の発信地、アメリカかぶれが露わになり... 一方で、ショパン(track.1)に、リスト(track.5)に、ワーグナー(track.15)と、古いものにも引きずられ、何もかもが真新しくはならない煮え切らなさが、得も言えぬB級感を漂わせる。そのあたりがまた、奇妙な居心地の良さを生み、昔懐かしい感じがしてならない。で、こういう雰囲気を醸せるタローのはじけっぷりが凄い。チープであることをまったく厭わず、進んでクラシックからズリ落ちた世界で楽しんでいる。それも、のびのびと... このアルバムにとってのシンボリックな一曲、ミヨーの『屋根の上の牛』からの"Tango des Fratellini"(track.19)や、ラヴェルの『こどもと魔法』からの"Five o'clock"(track.20)で聴かせる小粋なあたりは、大人になったからこそ、自由になって遊べるようになったベテランの風格だろうか。けれど、どんなにのびのびしても、タローが放つ一音一音の確かさというのは揺るぎない。チープではあっても、そこからだらしなさはまったく感じられない。だからこそ、雑多でB級が様になる。しかし、冒険したものだ... またそれが、徹底した冒険であって、タローの「こだわり」は見事に活きている。で、ル・ブッフ・シュル・ル・トワの世界観を生み出すセンスが、ひょろっと神経質そうにも見えたタローの中にあったとは... ウーン...
やっぱり、タローは只者ではない。

ALEXANDRE THARAUD LE BOEUF SUR LE TOIT

クレマン・ドゥセ : Chopinata 〔ショパンの主題による ファンタジー・フォックストロット〕
ジョージ・ガーシュウィン : The Man I love
ウォルター・ドナルドソン : Yes sir, that's my baby
ジョージ・ガーシュウィン : Do it again
クレマン・ドゥセ : Hungaria 〔リストの主題による ファンタジー・フォックストロット〕
コール・ポーター : Let's do it *
ナシオ・ハーブ・ブラウン : Doll dance
モーリス・イヴェン : J'ai pas su y faire *
アルフレッド・ブライアン : Blue River *
ジョージ・ガーシュウィン : Why do I love you ? *
エメリッヒ・カールマン : A Little slow Fox with Mary *
ジュゼッペ・ミラノ : Covanquihno *
パウル・セグニッツ : Poppy Cock *
ジャン・ヴェネル : Blues
クレマン・ドゥセ : Isoldina 〔『トリスタンとイゾルデ』 からの主題による ピアノ・ソロのためのノヴェルティ〕
ジャン・ヴェネル : Blues chante *
ハワード・サイモン : Gonna get a girl **
ジョルジュ・ヴァン・パリス : Henri, pourquoi n'aimes-tu pas les femmes ? 〔オペレッタ 『ルイ14世』 から〕 **
ダリウス・ミヨー : Tango des Fratellini 〔バレエ 『屋根の上の牛』 から〕
モーリス・ラヴェル : Five o'clock 〔オペラ 『こどもと魔法』 から〕
ダリウス・ミヨー : Caramel mou 〔ヴォーカル、ドラムスとピアノのための シミー・ムーヴメント〕 **
ジャン・ヴェネル : Haarlem
モウ・ジャフ : Collegiate *
ジャン・ヴェネル : Georgian's Blues
ウィリアム・クリストファー・ハンディ : Saint Louis Blues
ジャン・ヴェネル : Clement's Charleston

マドレーヌ・ペイルー(ヴォーカル) *
ジュリエット(ヴォーカル) *
ナタリー・デセイ(ヴォーカル) *
ベナバール(ヴォーカル) *
ギヨーム・ガリエンヌ(ヴォーカル) *
ジャン・ドゥレクリューズ(テノール) *
アレクサンドル・タロー(ピアノ)
フランク・ブラレイ(ピアノ) *
ダヴィド・シュヴァリエ(バンジョー) *
フローラン・ジョドゥレ(パーカッション) *
ヴァージン・ヴォイシズ *

Virgin CLASSICS/440737

ところで、前回、触れた、『レコード芸術』でのタローのインタヴューなのだけれど...
気になる話題に、ルグランにコンチェルトを委嘱したというのがあった。早くしないと死んでしまう... なんて、ちょっと毒づくタローがラヴリーだったり... って、彼はそういうキャラだったのか... フーン... という前に、ルグラン?ルグラン!いやぁー、今のタローならば、ルグランのコンチェルト(どんな感じになるのかは、まだわからないわけだけれど... )を、見事に弾き切る気がする。で、思いっきりメロドラマちっくなのを期待してしまう。また、それも様になってしまうタローな気がする。そういうコンチェルトがあってもいい気がする。

12月、フランスを巡り...
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